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奥西 麻衣子

2018年6月11日更新

同級生との接触場面会話における留学生の普通体使用
―マレーシア人留学生の縦断データから―

奥西 麻衣子
修了年度 2017 年度
修士論文題目 同級生との接触場面会話における留学生の普通体使用
―マレーシア人留学生の縦断データから―
要旨
(1000字以内)
日本語の丁寧体、普通体で表されるスピーチスタイル(以下、スタイル)は、学習者にとって習得が困難な項目の一つとされる。本研究は、学習者が日本語社会の中でどのように社会化していくかという疑問を端緒とし、2017年春に来日したマレーシア人留学生を対象に、約2ヶ月に渡る縦断調査を行い、スタイル使用の変化を観察した。主な観察対象は、普通体である。普通体は、相手に親しさを表し、相手の語りを促す社会的な機能を持つが、教育現場では、丁寧体が主に使われ、普通体に馴染みが薄い学習者も多い(Cook, 2008)。
そこで本研究は、留学生と同じ社会的ネットワークに属する同級生の日本語母語話者との雑談会話の分析から、彼らの普通体運用の変容を明らかにし、普通体の習得及び日本語教育実践への提言を考察した。得られた結果は、以下の通りである。
課題1:同級生との会話に見られる留学生のスタイル使用に、どのような変化があるか
留学生のスタイルは、2ヶ月後に丁寧体の減少と普通体の増加傾向が見られ、同級生との会話で普通体を基本的スピーチスタイルとして使用するようになった。これにより、留学経験を通じて、同級生との会話では普通体を用いるという社会言語的知識が強化されたことが明らかとなった。この結果は、先行研究と同様の傾向を示すが、普通体の増加率は先行研究を大きく上回っていたことから、同級生という対話相手の属性が、留学生の普通体使用に大きな影響を与えていることが示唆された。
課題2:同級生との会話に見られる留学生の普通体使用に、どのような変化があるか
留学生の普通体は、2ヶ月後、聞き手目当て型発話であるIFと、独話において増加傾向が見られ、母語話者の普通体使用に近づいていた。さらに、普通体の発話タイプを分析した結果、個人差はあるものの、IFは終助詞と疑問詞・上昇音調の使用が増え、対話相手への親しさや積極的な関わりを言語行動で表すようになっていた。次に、独話は、最も個人差が大きく現れる結果となり、全員に共通する特徴は見られなかった。IPに関しては、二回の調査とも最も使用率が高く、主に繰り返しや聞き返し等のコミュニケーションストラテジーとして使われており、接触場面特有の現象であることが示された。
以上の結果から、目標言語環境の熟達者である相手との相互行為実践を重ねることによって、学習者は目標言語コミュニティにおけるスタイルの使い方を習得していくことが見出された。しかし、すべてにおいて習得がなされるわけではなく、明示的な指導を伴わなければ、スタイルの機能や使い方を身につけることは難しいという側面もあることが示唆された。
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