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閆 曉晗

2018年6月11日更新

五段動詞の「テ形」活用からみるリキャストとプロンプトの効果

閆 曉晗
修了年度 2017 年度
修士論文題目 五段動詞の「テ形」活用からみるリキャストとプロンプトの効果
要旨
(1000字以内)
近年、学生の発話にある誤りを訂正するcorrective feedback(以下CF)に関する研究が盛んになっている。CFの中では、リキャストとプロンプトが典型的なCFとしてよく比較されている(Lyster,2004ほか)。しかし、リキャストとプロンプトの効果に影響する要因が多いため、どちらがより効果的であるかは明らかになっていない。一方、日本語の習得において、動詞の「テ形」活用が重要な学習項目の一つと見なされている(坂本,1993)。しかし、学習者が未だに動詞の「テ形」活用に困難を抱えていると言われている(坂本,1993ほか)。また、「テ形」活用に関するCFの研究が管見の限り僅少である。そこで、本研究では、リキャストとプロンプトの五段動詞の「テ形」活用への効果を調査・比較するために、実験環境の中で、中国の大学の初級日本語学習者を対象者とし、対象者をリキャストグループ、プロンプトグループに分けて、一対一のインストラクションと事前、直後、一週間後の遅延テストを設けた。得られたデータを分析した上で、以下結果をまとめる。
まず、リキャストとプロンプトの五段動詞の「テ形」活用への効果を確認した。それに、直後テストだけではなく、一週間後にもその二つの方法の効果が持続していることがわかった。続いて、五段動詞の「テ形」活用に対し、リキャストとプロンプトの効果が異なるかどうかを検証したところ、有意な差は見られなかった。これは、Iwashita(2003)とYang & Lyster(2010)の結果とは一致しなかった。五段動詞の「テ形」活用に対し、リキャストとプロンプトの効果が同じことについて、本研究の実験環境の影響で、リキャストの明示性が高くなったという理由が考えられる。それに、本研究の目標言語項目としての五段動詞の「テ形」活用は四つの規則を含み、英語の規則動詞の過去形より複雑なため、リキャストの効果に影響を及ぼすと推測できる。
最後に、音便規則ごとに、リキャストとプロンプトの効果を比較した。どの音便規則に対しても、リキャストとプロンプトの間に有意な差は見られなかった。五段動詞の「テ形」活用のように、規則が複雑な言語項目に対し、リキャストとプロンプトの効果は同等であると考えられる。また、リキャストグループの中では、直後を見ると、有標性の高い音便規則(長友・久保田,1994)に対し、リキャストがより効果的であることが示されている。しかし、長期的には、有標か無標かによって、リキャストの効果があまり変わらないと考えられる。一方、プロンプトグループでは、直後にも長期的にも、プロンプトは有標性の高い言語項目への効果が高い可能性を示している。
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