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朴 怡霖

2020年10月28日更新

「第三文化の子ども」の多言語使用と文化に対する認識―日本在住の中国人の子どもの事例を中心に―

朴 怡霖
修了年度 2019度
修士論文題目 「第三文化の子ども」の多言語使用と文化に対する認識―日本在住の中国人の子どもの事例を中心に―
要旨
(1000字以内)

 現在の日本もまさしくグローバル化が進んでおり、それを経験しているのは大人のみではない。親の母国またはほかの国から来日した子どもは、日本語や日本文化の影響を受けているにもかかわらず、親から継承した言語(以下継承語)や文化の影響も受けている。このように多様な言語と文化背景を持つ子どもは、出身国の文化にも現地文化にも完全に属することなく、独自の文化を作り出す特徴がある。このような子どもたちは「第三文化の子ども(Third culture kids,以下TCK)」と呼ばれている。

 本研究では首都圏付近で生活しているミドルクラスの家庭に向け、両親とも中国人の家庭を対象とし、Reken & Bethel(2005)の定義による「マイノリティの子ども」と (ポロック&リーケン,2010;川上,2013)の定義による「隠れ移民型」のTCKである日本在住の中国人の子どもの多言語使用と文化に対する意識を調査した。

 その結果、多言語使用の個体差が大きく、継承語の役割についての認識により教育方針が違うことが明らかとなった。言語学習と学業の時間配分に大きな衝突が現れ、バランスをとるのは難しいと考えられる。進学に関わる政策の変更や社会の変化もまた、家庭内の言語教育の方針に影響しやすく、継承語と英語の学習時間の配分にも関わるものである。継承語の保持の動機づけが必要なのは子どもだけではない。保護者にもその教育方針を続ける理由や動機は必要で、それらを持つ保護者は継承語保持に力を入れる。また、家庭言語としての役割を強調する保護者と資本としての役割を強調する保護者が実行している教育には差があり、読み書き能力の重視の程度も違っている。

 また、第一文化や第二文化に対するイメージや認識については、主に経験から得たものと知識から得たものに分けられる。保護者は第三文化ということばを知らなくても、グローバル化社会の発展による多文化を背景に持つ人口の増加は認め、自分はその中の一員であるが、自分の子どもは必ずしもこの範囲に含まれるわけではないと考えている。一方、協力した5人の子どもでは、全員が自分のアイデンティティが複合的・複数的であることを主張し、保護者の考えと大幅にずれたケースもある。さらに、同じ日本在住の中国人の子どもという枠内に属していても、5人のアイデンティティは違っており、言語との一致性も多様である。

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