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成 歓

2020年10月28日更新

中国語を母語とする日本語学習者による類義動詞「知る」と「分かる」の習得状況
-日本語母語話者との比較を中心に-

成 歓
修了年度 2019度
修士論文題目 中国語を母語とする日本語学習者による類義動詞「知る」と「分かる」の習得状況-日本語母語話者との比較を中心に-
要旨
(1000字以内)

 日本語を第二言語とする学習者は母語話者(以下NS)のように、語と語の間に微細な違いに対する直感を持っていないため、類似している語彙同士の共通点と相違点を区別するのが容易ではない。「知る」と「分かる」は共に認識行為を表す類義動詞であり、意味には重なり合う部分と重なり合わない部分が存在するため、習得が難しいと考えられる。近年、「知る」と「分かる」に関する研究は主に意味分析を中心に行われている。学習者の習得に関しては、類義関係の誤用分析に関する研究があるが、学習者がどのように両語を使い分けているか、またどの場合に両語を置き換えるかという視点から学習者の全体像を見た研究は管見の限り見当たらない。そのため、更なるの研究が必要だと考えられる。

 本研究では、中国語を母語とする日本語学習者(以下CJL)を対象に、「知る」と「分かる」の各用法について、置き換えられる部分と置き換えられない部分に分けて、NSとの比較を中心に、CJLの習得状況を検討することを目的とする。研究方法として、CJL 54名とNS 25名を対象に、「知る」と「分かる」が使用された質問文に対して、4段階の評価をしてもらうという自然度評価テストを行った。そして、CJLには日本語能力簡易試験であるSPOT Ver.90を実施し、上位群と下位群に分けて分析した。

 その結果、両語が置き換えられない用法について、習熟度の向上につれ、CJLはNSのように「分かる」の意味を的確に把握することができるが、「知る」に関する意味理解においては、NSとの差が見られ、習得が進みにくいと考えられる。また、上級者であっても「分かる」を過剰使用する傾向が見られた。最も習得しやすい項目は「知る」の語義【人との面識】と「分かる」の語義【承諾】、最も習得が難しい項目は「知る」の語義【関わり拒否】であることが明らかになった。

 両語が置き換えられる用法について、類義タイプ [情報の獲得・理解]、[状況の把握]、[会得]、[本質理解]のすべての質問文について、CJL上位群と下位群の間に有意差がなかったことから、CJLの習熟度が上がっても、習得に大きな変化が見られなかったことがうかがえた。

  「知る」と「分かる」について、先行研究では意味分析が盛んに行われてきた一方で、それらの習得研究は十分とは言えなかった。本研究では、学習者のデータを用いて、このような点を補うことができたことに意義を見出すことができるであろう。

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