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新谷 百合香

2020年10月28日更新

日本における外国人社員の就労上の葛藤と異文化受容態度との関連―海外教育機関卒業の外国人社員を対象に―

新谷 百合香
修了年度 2019度
修士論文題目 日本における外国人社員の就労上の葛藤と異文化受容態度との関連―海外教育機関卒業の外国人社員を対象に―
要旨
(1000字以内)

 2018年12月末現在、日本国内の企業で就労する外国人社員は243,052人に達し、近年は増加傾向にある(法務省, 2019)。一方で、外国人社員は言語や文化等の相違から就労場面で様々な葛藤を抱えていることが指摘されており、これまで元留学生社員を対象に研究の蓄積が進められてきた。しかし、日本における留学経験の有無による差異は明らかにされていない。本研究では、日本での長期留学未経験で、海外の教育機関を卒業した外国人社員(以下、海外卒外国人社員)に注目し、彼らの就労上の葛藤と職場での異文化受容態度を明らかにした上で、それらの関連性を検討することを目的とした。

 本研究は3つの研究課題を設定し、日本国内の日系・外資系企業で就労中の外国人社員を対象に、インターネットによる質問紙調査(日本語・英語)を実施した。調査の結果、海外卒外国人社員104名(台湾・インド・中国など27カ国)から有効な回答が得られた。

 研究課題1では、就労上の葛藤を明らかにするために因子分析を行い、「日本語による意思疎通の難しさ」、「職場文化に対する不満」、「職場における疎外感」、「日本人のコミュニケーション・スタイルに対する違和感」、「職務習慣に対する不満」、「外国語(日本語以外)による意思疎通の難しさ」の6因子が抽出された。

 研究課題2では、職場での異文化受容態度を明らかにするために因子分析を行い、Berry(2005)の異文化受容態度モデルと同様の「統合」、「同化」、「分離」、「周辺化」に加え、自国・日本以外の第三国の人との交流を好む「第三文化分離」(和田, 2016)も確認された。

 研究課題3では、上記の就労上の葛藤と職場での異文化受容態度、属性との関連性を検討するため、重回帰分析を行った。その結果、異文化受容態度の「第三文化分離」には「職場における疎外感」と「他国の外国人社員との接触頻度」が正の影響を、「年齢」が負の影響を与えており、「周辺化」には「日本滞在期間」が負の影響を与えていた。また、「分離」には「職場における疎外感」と「職務習慣に対する不満」が正の影響を、「日本滞在期間」が負の影響を示していた。

 以上の結果から、「職場における疎外感」という葛藤と日本滞在期間の短さが異文化受容態度の形成に影響を及ぼす重要な要因であることが示唆される。海外卒外国人社員は元留学生社員とは異なる葛藤を抱いており、日本のビジネス文化の受容に消極的な異文化受容態度も見られるという示唆は、就労場面における問題解決の一助となるであろう。

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