ページの本文です。

王 雪瑶

2020年10月28日更新

透明度要因とL2習熟度要因が慣用句の意味推測に与える影響
―身体部位詞を含む慣用句を例として―

王 雪瑶
修了年度 2019度
修士論文題目 透明度要因とL2習熟度要因が慣用句の意味推測に与える影響―身体部位詞を含む慣用句を例として―
要旨
(1000字以内)

 慣用句は言語生活に必要であるが、第二言語学習者(以下はL2学習者)に対する慣用句の指導は不十分で、その習得は学習者の授業外の付随的な学習に委ねられることが多い。しかしながら、慣用句としての未知語の意味推測は多様な要因に影響され、必ずしもその意味を正しく理解できるとは限らない。

 慣用句の文字通りの意味と慣用的な意味の関連性は慣用句の透明度である(Nippold & Taylor 2002, Ishida 2009)。文字通りの意味と慣用的な意味の関連性の高い慣用句は透明度が高く、文字通りの意味と慣用的な意味の関連性の低い慣用句は透明度が低いとされる。L2学習者は、特に習熟度の低いL2学習者は慣用句を理解する際に、慣用的な意味より、先に文字通りの意味を処理する傾向が見られる(Matlock & Heredia 2002)。そのため、慣用句の透明度はL2学習者の慣用句の意味推測に影響を与えると考えられる。

 そこで、本研究は、中国語を母語とする日本語学習者99名を対象者として、身体部位詞を含む慣用句20個を対象項目にし、慣用句の意味推測は慣用句の透明度と学習者のL2習熟度の関係によって異なるかを考察した。本調査は記述式の慣用句の意味推測テストと日本語習熟度テストを行い、得られたデータは「透明度×L2習熟度」の2×2の二要因分散分析で分析した。

 その結果、L2習熟度にかかわらず、学習者にとって、透明度の高い慣用句は透明度の低い慣用句より推測しやすい。また、透明度の高い慣用句は習熟度の高い学習者のほうが習熟度の低い学習者より意味を推測しやすいのに対し、透明度の低い慣用句は全ての学習者にとって意味を推測することが困難であるということが明らかになった。つまり、透明度の高い慣用句は習熟度の低い学習者にとって推測しにくいが、学習者の習熟度の上達につれ、意味推測はしやすくなる。その一方、透明度の低い慣用句は学習者の習熟度が上がっても、意味を正しく推測することが困難である。

 慣用句は言語教育の中では軽視されがちで、明示的に授業に取り上げることが少なく、学習者の独学に頼らざるをえない状況である。透明度の低い慣用句は、特に言語の文化的背景に関わる慣用句は、学習者にとって理解が難しく、独学による習得は困難であると考えられる。そのため、このような慣用句は言語教育の「慣用句教育」として取り入れる必要があると提言した。

  •  
  • このエントリーをはてなブックマークに追加