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王 舒茵

2020年10月28日更新

中国人日本語学習者の読解での付随的語彙学習におけるL1・L2語注の効果-L2習熟度・L1対訳の有無の影響に着目して-

王 舒茵
修了年度 2019度
修士論文題目 中国人日本語学習者の読解での付随的語彙学習におけるL1・L2語注の効果―L2習熟度・L1対訳の有無の影響に着目して―
要旨
(1000字以内)

 本研究はL2読解での付随的語彙学習に対して、L1・L2語注の促進効果が見られるか、また、学習者のL2習熟度とL2未知語彙のL1対応の有無が各々L1・L2語注の促進効果にどのような影響を及ぼすかを明らかにすることを目的とする。

 日本語を専攻とする中国人大学生日本語学習者147名を対象に調査を実施した。事前テストではフェースシート・SPOTと目標語彙を含むチェックテストを行った。対象者を上位・下位群に分け、更に処遇によって上位・下位群を統制群・L1語注群・L2語注群に分けた。読解ではL1対訳あり語5語・L1対訳なし語5語、計10語の目標語彙を含むテキストを対象者に読んでもらった。直後テストでは対象者に対し目標語彙の受容・産出的形式、意味と形式の関連付け、受容・産出的統語、受容・産出的アソシエーション知識の習得を測るため、7種のテストを実施した。

 その結果、まず、L2読解での付随的語彙学習で、各語彙知識が同じペースで習得されるのではなく、形式面の知識の習得が容易で先に習得され、意味面の知識の習得が比較的困難で、習得が遅れることが見られた。また、受容的知識が産出的知識に比べ、習得がより進んでいる傾向も観察された。

 第2に、L2未知語彙の意味を提示するL1・L2語注は意味と形式の関連付け・産出的アソシエーション・産出的統語・受容的アソシエーション、意味面の語彙知識の習得を促進したことが分かった。

 第3に、産出的・受容的形式・受容的統語知識・受容的アソシエーションの語彙知識に対し、L2習熟度が上がるにつれて、その付随的学習が進んだ。一方、意味と形式の関連付け・産出的統語知識・産出的アソシエーションのような、習得が比較的困難な意味面の知識が、中級学習者にとっても習得が難しいことが分かった。以上のことから、3つの意味面の知識の習得において、下位群は、L1語注だけが付随的語彙学習を促進し、上位群は、L1・L2語注両方が付随的語彙学習を促進できることが分かった。よって、L1・L2語注が付随的語彙学習に与える促進効果はL2習熟度によって異なる可能性が窺えた。

 最後に、L1対訳の有無がL1・L2語注の促進効果に及ぼす影響について、L1・L2語注で意味を提示することで、L1対訳なし語の推測の難しさを克服し、習得を促進できることが分かった。また、先に習得された目標語彙のL2同義・類義語がL2語注の条件で、優先的に活性化され、新しいL2語彙の習得を妨げる可能性が窺えた。

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