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王 丹叶

2020年10月28日更新

中国語を母語とする日本語学習者における「ために」と「ように」の習得―述語動詞の意志性・無意志性に着目して―

王 丹叶
修了年度 2019度
修士論文題目 中国語を母語とする日本語学習者における「ために」と「ように」の習得―述語動詞の意志性・無意志性に着目して―
要旨
(1000字以内)

 日本語を第二言語として習得する過程で、「ために」と「ように」といった目的表現に関して、学習者は「ために」の過剰般化をする傾向がある(稲垣2009; 福田・稲垣2013)。特に、中国語を母語とする日本語学習者(以下CJL)は、「ように」を認めず、「ために」のみを認める誤りが上級レベルになっても消えにくいと指摘されている(福田・稲垣2013)。「ために」と「ように」のどちらかが用いられるのは、述語動詞の意志性・無意志性と深くかかわっている(前田1995, 2006; 梅岡・庵2000など)が、動詞の意志性の習得に関する調査がなされておらず、「ために」と「ように」の使い分けが動詞の意志性の習得に影響されることが推測される。そこで、本研究は、①CJLの「ために」と「ように」の習得には、どのような傾向が見られるか、②CJLは、「ために」と「ように」に前接する述語動詞の意志性と無意志性は区別できるか、③CJLの「ために」と「ように」の誤りが見られたところは、述語動詞の意志性と無意志性の区別の可否と関係があるか、という研究課題を設定し、CJLと母語話者(以下NS)それぞれ50名にテストを実施した。

 その結果、まず、CJLの「ために」と「ように」の使用において、CJLが「ために」を過剰般化する傾向があるという先行研究を支持した一方、NSが「ために」がより自然だと容認するところを「ように」と間違える可能性が示唆し、否定形の場合、NSが両方自然だと容認しても、CJLはどちらか、特に「ように」を容認することが分かった。

 また、「ために」と「ように」に前接する述語動詞が意志動詞か無意志動詞かという意志性判断において、CJLとNS両グループとも意志性判断が一致またはほぼ一致する項目が少なく、両グループの間にはあまり差がないことが分かった。このことから、CJLとNSいずれも意志・無意志動詞に関する明示的知識を十分に持っているとは言えない。

 さらに、CJLとNSのどちらも、「ために」と「ように」の容認は、前接する述語動詞の意志性判断との間に関連が見られないことから、CJLの「ために」と「ように」の誤りが見られたところは、述語動詞の意志性と無意志性の区別の可否と関係があるとは言えない。一方、十分に指導されていないことにより、CJLは「ために」と「ように」を使う際に、述語動詞の意志性・無意志性に関する知識ではなく、述語動詞の肯定・否定形とマッピングしていることが分かった。さらに、意志・無意志動詞に関する知識を指導しても、CJLはNSと同程度に「ために」と「ように」が使いこなせるとは限らないことが示唆された。

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