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伊東 万里子

2019年6月5日更新

日本のアニメ映画における初級語彙・文法と表現の分析―日本語教育現場での活用を目指して―

伊東 万里子
修了年度 2018年度
修士論文題目 日本のアニメ映画における初級語彙・文法と表現の分析―日本語教育現場での活用を目指して―
要旨
(1000字以内)
国際交流基金の2012年度の調査によれば、日本語学習の動機・目的に「マンガ・アニメ・J-POP等が好きだから」を選択した機関は全体の54%にものぼる。これまでもポップカルチャーを用いた様々な教材が開発されてきたが、学習を目的として開発されたオリジナル教材は内容を重視するアニメファンのニーズに応えているとは言い難い。そのため、アニメやマンガで日本語を学びたいという学習者のニーズと、語彙や文法を教えなければいけない教師側のニーズを組み合わせることがここでの課題であると考えられる。よって本研究ではアニメファンに人気のあるアニメ作品5つを例に各スクリプトを分析することで、既存の作品が語彙・文法学習にどれほど適しているかを調査する。またアニメから学習できる役割語などの日本語表現に着目し、今後のアニメを用いた日本語教育の発展に役立てられることを目的とした。

本研究では大きく分けて2つの課題を設定した。まずRQ1ではアニメ5作品内の語彙、RQ2では文法を数量的に分析し、初級語彙・文法とのカバー率を調査した。また語彙・文法レベルが作品のどのような要素に起因するかを考察した。RQ3ではアニメ作品特有の日本語表現である役割語を質的に分析し、各作品の内容に踏み込み言語表現がどのような効果を作品にもたらすか考察した。

RQ1では5作品中4作品の初級語彙カバー率が60%を超え、上位の作品と下位の作品で30%の差が開いた。RQ2の初級文法のカバー率も20%ほどの差が見られ、語彙と文法のカバー率の関係について相関分析を行ったところ、2つの間には高い正の相関が認められた(r=.937, p<.05)。カバー率に変化をもたらす要因は語彙・文法に共通する点が多く、語彙のカバー率が高い作品は文法のカバー率も高くなる傾向があると言える。RQ3では各作品が女/男ことば、標準/田舎ことば、動物/非動物語などのさまざまな役割語でキャラクターの特性を表し、物語の展開やテーマを暗に示していることに言及し、役割語を理解することが日本アニメの深みを理解することにつながるとまとめた。

本論文では先行研究では見られなかった作品内の語彙レベル・文法レベルの相関傾向を見つけることができ、日本語教育の現場で学習者のレベルに合わせた映画を選定する際の一つの指標にできる可能性がある。また、役割語などの日本語特有の表現を取り入れることで授業の幅を広げることができ、今後アニメを活用した授業方法の展開に期待できる。

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