お茶の水女子大学
日本文化研究の国際的情報伝達スキルの育成
コンソーシアム・シンポジウム一覧
コンソーシアム(平成20年度)
2008年
(平成20年)
12月15日(月)
第 1 日 目
12月16日(火)
第 2 日 目
12月17日(水)
第 3 日 目
プログラム
































講演
研究発表
要 旨


12月15日(月) 15:30-19:00 
歴史学部会 
[担当] 古瀬奈津子(本学)  [司会] 矢越葉子(本学大学院生)
【第一部】  [会場] 人間文化創成科学研究科棟6階大会議室(607号室)
講  演 「国民性を反映する食の文化及びその変遷」   ヤン・シーコラ(チェコ・カレル大学)
「家族法における人間像と家族法改正問題」 小沼イザベル(仏国・パリ第7大学)
「Golf Clubbing ― もてなしとしてのゴルフ」 アンガス・ロキア(英国・ロンドン大学SOAS) 
【第二部】  [会場] 人間文化創成科学研究科棟6階大会議室(607号室)
研究発表 「19世紀におけるジャポニスムと日本製洋食器」
“Japonisme in the 19th Century and Western Tableware Made in Japan”
今給黎佳菜
(本学大学院生) 
講  演 「芋粥の話-有職故実から生活社会史へ-」 古瀬奈津子(本学)
研究発表 「平安貴族の招待状―書状にみる交遊空間―」  野田有紀子(本学リサーチフェロー)






第三回国際日本学コンソーシアム
歴史学部会総括
[司会]  国際日本学専攻 博士後期課程 矢越 葉子


 12月15日(月)15:30~19:00に開催された歴史学部会においては、4本の講演と2本の研究発表による計6本の報告が行われ、計30名の参加者があった。

 第1部においては、今回のコンソーシアムのテーマである「食・もてなし・家族」に基づき、歴史的に形成および変遷しつつかつ現代社会に直接的に影響を及ぼしている事例に関して、チェコ・カレル大学のヤン・シーコラ氏による「国民性を反映する食の文化及びその変遷」フランス・パリ第7大学の小沼イザベル氏による「家族法における人間像と家族法改正問題」イギリス・ロンドン大学SOASのアンガス・ロキア氏による「Golf Clubbing ― もてなしとしてのゴルフ」の3本の講演が実施された。チェコの風土から見た食文化の変遷および歴史観との関連、明治身分法と戦後の家族法の比較を通じた人権や法的人間像の変遷、戦前から現代までを対象とした日本におけるゴルフ文化の変遷、と扱うテーマは三者三様であったが、「伝統」や「文化」といった今日においては普遍的と捉えられるものがいかにして歴史的に形成され、また時代の変化とともに今日いかにして変容しつつあるのかという点で大きく共通していた。

 第2部では、「食・もてなし・家族」のテーマに基づき、各時代における具体的事例に関する3本の報告が行われた。本学博士前期課程の今給黎佳菜氏による「19世紀におけるジャポニスムと日本製洋食器 “Japonisme in the 19th Century and Western Tableware Made in Japan”は、これまでの日本学においては海外からの視点で語られることの多かったジャポニスムを、洋食器生産に限定するものの国内からの視点で取り扱った報告であった。また報告言語として英語を採用しており、国際的な発信という観点からも評価できる。本学の古瀬奈津子氏による「芋粥の話-有職故実から生活社会史へ-」は、『今昔物語集』を題材に平安時代の公的な宴会でふるまわれていた芋粥を紹介し、儀式書や古記録(貴族の日記)などによりその具体像を探ったものである。近年、政治機構や政務運営などの分野で深化しつつある儀式研究を、生活社会史の分野に応用しようという意欲的報告であった。本学リサーチフェローの野田有紀子氏による「平安貴族の招待状―書状にみる交遊空間―」は、11世紀に成立した文例集である『明衡往来』を素材に、平安貴族社会における私的交遊の実態や交遊における食を紹介し、また下級官人が身分を超えてそのような場に参加する上で重要な役割を果たした和歌・蹴鞠・管弦・武芸などの「能」についても言及された。

 討論においては、第1部でのロキア氏による「日本学」および「日本文化」に関する提言を受ける形で、今日「日本文化」と言われているものがいかにして形成されたのかという点に関して議論が行われた。近世における今日的な意味での「日本文化」の形成、近代における「伝統文化」の創造といった問題ともあいまって、「日本学」という枠組みと直結する課題であろう。また、「日本文化」を探る上での、他文化との比較の重要性についても言及がなされた。比較の重要性は従来からも指摘されていることであり、今後はテーマをより絞り込んだり、あるいは比較すべき視点自体をテーマに据えたりする必要があるのではなかろうか。以上のような課題を見いだせたという点で、「食・もてなし・家族」というテーマは歴史学の分野においては有効であったように思う。

 なお、上記のような意義深い報告・討論がなされたものの、参加者数が伸び悩んだ点は悔やまれる。学生の中には、コンソーシアムが通常の授業期間中に開催されることもあり、授業を優先した結果、自身の専門と関連する部会を欠席せざるを得なかったという意見もあるようである。コンソーシアム自体は比較社会文化学専攻の教員および学生が主体となって関与するものであるとしても、博士後期課程のみならず博士前期課程であっても関連する専攻分野についてはコンソーシアムを授業の一環として組み込む、もしくはコンソーシアムへの出席を授業への出席と同等に見なす、などの配慮を設けても良いのではないだろうか。それが、より活発な議論につながり、また本学で学ぶ学生の将来へとつながるのではないかと思われる。

(2009/01/05up)