お茶の水女子大学
日本文化研究の国際的情報伝達スキルの育成
コンソーシアム・シンポジウム一覧
コンソーシアム(平成20年度)
2008年
(平成20年)
12月15日(月)
第 1 日 目
12月16日(火)
第 2 日 目
12月17日(水)
第 3 日 目
プログラム
































講演
研究発表
要 旨


12月17日(水) 09:00-12:30
日本語教育学部会
[テーマ] 文化を取り入れた総合的日本語教育のための新たなとりくみ
-TV会議を用いた国際遠隔協働授業とセミナーを通した交流型授業-
[担当] 森山新(本学)  [司会]石井佐智子(本学大学院生)
【第一部】 <特別企画>  [会場] 人間文化創成科学研究科棟5階SCS室
講  演 「ヴァッサー大学日本語夏期研修
:交流を通じた異文化理解」 
ドラージ土屋浩美
(米国・ヴァッサー大学)
研究発表 「Web掲示板と遠隔TV会議システムを利用した授業実践
―「言い訳」に注目して―」
佐野香織
(米国・ヴァッサー大学非常勤講師、本学大学院生)
【第二部】  [会場] 人間文化創成科学研究科棟5階SCS室
講  演 「文化を取り入れた総合的日本語教育のための新たなとりくみ
―国際交流型授業と国際遠隔協働授業―」    
森山新(本学)
「「交流法」による多文化理解の効果と限界について」 李徳奉(韓国・同徳女子大学校)
研究発表 「多文化理解を目指した体験型交流学習の意義と今後の方向性
―第5回日韓大学生国際交流セミナーを通して―」  
西岡麻衣子
(韓国・同徳女子大学校大学院生)
「国際遠隔協働授業は文化を取り入れた総合的日本語教育として有効か
―JFL韓国人日本語学習者の授業評価を中心にして―」
小林智香子
(本学大学院生)






第三回国際日本学コンソーシアム 日本語学部会
文化を取り入れた総合的日本語教育のための新たなとりくみ
[担当] 森山 新

 日本語教育学部会は「文化を取り入れた総合的日本語教育のための新たなとりくみ」をテーマに、3名の教員による講演、3名の院生による研究発表が行われた。直接に「食・もてなし・家族」を扱うことはなかったが、日本語教育においてはこれらを文化として取り上げることが多いことから、本部会ではそれらを「文化」としてひとくくりにし、上記のようなテーマとした。

 今回は本学との間で実際に文化を取り入れた総合的日本語教育実践を行ってきた米国・ヴァッサー大学に対し特別に出演を依頼し、デモンストレーションも兼ねて、TV会議システムを用い遠隔ジョイントゼミ形式で行われた。それは、本コンソーシアムがめざす日本学研究の国際的な教育のネットワークを日常化していくためには、TV会議システムを導入し、世界各地の教室をリアルタイムで結びつけることが重要であると専攻長などより指摘されていたためである。第1回、第2回はいまだ経験の不足から実際にTV会議システムが用いられるところまではいかなかったが、今回は、これまで積み重ねてきた実践の中で自信を深め、実際の使用に踏み切った。

 第1部はヴァッサー大学側からドラージ土屋浩美先生の講演、佐野香織さんの研究発表があり、これらを通じ、本学とヴァッサーとの間で3年前から行われている日本研修プログラムと今年から始まった遠隔での日本語・日本文化理解教育プログラムが紹介された。今後、本学とヴァッサーとの交流は、来日研修と事前事後の遠隔教育が組み合わされ、より大きな効果を挙げることが期待されよう。

 続いて第2部では、まず私(森山)のほうから、本部会がこのテーマを取り上げた背景と、本学における具体的な実践である、
① 同徳女子大との日韓セミナー(2004年より毎年実施)
② ヴァッサー大との日本語・日本文化研修と遠隔教育
③ 釜山外大との国際遠隔協働授業
について紹介した。

 このあと、「総合的日本語教育」を提唱し、リードしてこられた李徳奉先生より、国際交流を教授法と位置づけた「交流法」の効果と限界について講演があった。

 最後に2名の院生からの発表があった。同徳の西岡麻衣子さんは日韓セミナーについて、本学の小林智香子さんは国際遠隔協働授業について、その教育的効果についての研究発表があった。 全体を通して明らかになったことは以下のような点である。
① グローバル時代の今日、日本語教育は文化に対する理解を促進するための文化リテラシー教育が重要であること
② そのためには単に知識として文化を教えるだけでは不十分で、様々な形で人と人、文化と文化とが接触する場を設け、コミュニケーション能力の向上と、そこに介在する文化への理解、文化リテラシーの育成をはかる必要があること
③ これまで実践されてきた国際交流セミナーや国際遠隔協働授業はこうした総合的日本語教育の場として有効であること
 会場には本学及び海外からの参加した大学院生のほかに、台湾大学の范淑文先生、カレル大学のヤン・シコラ先生、ロンドン大学SOASのアンガス・ロキア先生、岩崎典子先生、そして本学からは日本語教育の佐々木泰子先生、日文の高崎みどり先生、菅聡子先生、グローバル文化学環の熊谷圭知先生など、50名ほどがつめかけた。参加の動機はいろいろあろうが、一つにはこのようなセミナーやTV会議システムの可能性に関心を示したからであろう。そのため質疑応答では将来の導入を見据えての質問が目立っていた。

 本学が行ってきた、こうした国際交流セミナーやTV会議システムによる遠隔授業は、今後ますます増えていくことは間違いない。しかし国際交流セミナーは期間が1週間程度と短期であること、TV会議システムはヴァーチャルな空間での間接的な接触であること、などの理由で、その効果に限界が存在することも事実である。その限界を少しでも克服していくためには、李先生が講演の中で語っていたように、教授法構築へ向けての考察は重要である(実際に教授法の必要性は質疑応答の場でも挙がっていた)。また、これらの教育実践を研究し、効果と限界について実証的に明らかにした3名の研究発表もまた、これまでの教育実践をさらに洗練されたものとしていくための参考となり、非常に意義深い研究であると言えるだろう。
(2009/02/05up)


第三回国際日本学コンソーシアム
日本語教育学部会報告
[司会] お茶の水女子大学 人間文化創成科学研究科 比較社会文化学専攻 博士後期課程2年 石井佐智子

 日本語教育部会は12月17日の午前9時から12時半にわたって本学日本文化創成科学研究科棟5階SCS室にて行われた。SCS室はTV会議システムの機材が設置してある教室である。
  日本語教育部会は「文化を取り入れた総合的日本語教育のための新たなとりくみ-TV会議を用いた国際遠隔協働授業とセミナーを通した交流型授業」というテーマの下、2部構成で行われた。
 
 第1部では午前9時から10時15分にかけて、ヴァッサー大学(米国)の講演、研究発表が行われた。開始時間は日本とアメリカ(ニューヨーク)との時差を考慮した結果であり、ヴァッサー大学では午後7時からの開始となった。比較的早い時間から始まった部会ではあったが、50名程度の参加があり、急遽、座席を増やすほどであった。主な参加者は本学の教員、大学院生、学部生やコンソーシアム参加校の教員、大学院生であったが、学外の大学教員も数名見られた。

  ドラージ土屋浩美先生(ヴァッサー大学)には「ヴァッサー大学日本語夏期研究:交流を通じた異文化理解」について御講演いただいた。夏期に本学で行われているヴァッサー大学の日本語研修をご紹介いただきながら、研修中に行われている本学の学部生との交流を通して、ヴァッサー大学の学生の日本に対するイメージがどのように変化し、日本文化をどのように理解したのか、ご報告いただいた。質疑応答の時間には、(1)帰国後の授業のあり方やカリキュラムを知りたい、(2)日本滞在中の文化理解がその後、どのように変わっていくかも報告してほしいという意見があった。

 佐野香織さん(ヴァッサー大学非常勤講師、本学大学院生)「Web掲示板と遠隔TV会議システムを利用した授業実践―『言い訳』に注目して―」について発表された。Web掲示板とTV会議システムを用いて、本学とヴァッサー大学間で実施している授業におけるヴァッサー大学の学生の学びについての研究であった。この授業では、日本人の表現、コミュニケーション方法についてディスカッションを行っており、今回の発表は言い訳という表現、コミュニケーションを扱った授業に着目した報告であった。質疑応答の時間には、(1)Web掲示板やTV会議システムという新しい技術に伴って、新しい教授法や新しい学びの設定が必要ではないか、(2)授業で得た日本人の表現、コミュニケーションに対する知識を授業後、学生が取り入れていくのかも見てほしい、という意見があった。

 発表中は画像、音声とも良好であり、若干懸念されていたシステム上のトラブルは皆無であった。双方の様子がスクリーンに映し出され、対話をすると、日本とアメリカという距離感を忘れてしまうような臨場感のある雰囲気であった。
   
 第2部では、午前10時25分から12時半にかけて、本学と同徳女子大学校(韓国)の教員、大学院生による講演、研究発表が行われた。
 はじめに森山新先生(本学)から「文化を取り入れた総合的日本語教育のために新たなとりくみ―国際交流型授業と国際遠隔協働授業―」についてお話があった。李徳奉先生(同徳女子大学校)が「総合的日本語教育」を提唱されたように、言葉を教える以外の役割が日本語教師には求められている背景、総合的日本語教育に向けた新しい授業の具体例についてご説明いただいた。
 
 李徳奉先生(同徳女子大学校)「『交流法』による多文化理解の効果と限界について」を御講演くださった。文化を理解するためには、「知的理解と共に感性的にも好感を覚え、リスペクトの念を覚える」ことが必要であり、その両面を満たす手段として「交流法」のあり方をご説明くださった。交流法には文化理解だけではなく、日本語学習者を日本語のuser、使い手へと変える側面もあるというお話もあった。質疑応答の時間には、お互いの言語を用いることで文化理解もより深まると考えられるが、どちらか一方の言語を用いることが多いのが現状ではないかという意見に対して、アジアに限ってみると、言語が4,5種類であるため、将来的には相互の言語を使用することが可能ではないかという見解が示された。また、2者間ではなく、3者間以上の方が交流法の効果が得られるという李先生の見解について、国際協力の現場と共通するというコメントが寄せられた。
 
 西岡麻衣子さん(同徳女子大学校大学院生)「多文化理解を目指した体験型交流学習の意義と今後の方向性―第5回日韓大学生国際交流セミナーを通して」というテーマで発表された。本学と同徳女子大学校の交流セミナーをフィールドとして研究を行った結果、セミナーを通して双方に文化学習の効果があったこと、韓国人学生に多文化理解を促す態度が見られたことが報告された。質疑応答の時間には、(1)プログラムの組み方やその過程が重要であり、この2点についての話が聞きたい、(2)セミナー後にも交流が継続しているか、またどのように継続しているのか、という意見、質問があった。
 
 小林智香子さん(本学大学院生)「国際遠隔協働授業は文化を取り入れた総合的日本語教育として有効か―JFL韓国人日本語学習者の授業評価を中心にして―」というテーマで発表された。遠隔協働授業を通して、韓国人学生はTV会議というシステム、日本語学習、文化の理解に肯定的な反応があったことが報告された。質疑応答の時間には、(1)日本人学生と韓国人学生の双方の学びが目指されているのに「日本人参加者」に対して「韓国人学習者」としているのはなぜか、(2)日本滞在歴のない韓国人学生の反応をもっと知りたいという意見があった。

  李先生の質疑応答では、国際協力をご専門とする先生からのコメントがあり、日本語教育にとどまらない学際的な雰囲気であった。西岡さんと小林さんの質疑応答では、単なる発表に対する質疑応答ではなく、ゼミのようなやりとりがあり、コンソーシアムの目的である「大学院教育」の側面も十分にあったように感じた。また、第2部も引き続き、TV会議システムでヴァッサー大学の土屋先生、佐野さんが参加してくださり、海外にいる教員、大学院生からコメントがもらえるという貴重な場となった。
 
 全体を振り返ると、新たな手法を取り入れた授業実践に触れ、その効果だけではなく、その課題も共有できたことは、とても有意義だったと思う。しかし、参加者からはTV会議システムという貴重な機会であるにもかかわらず、会場が狭く、不便だった、残念だったという声があった。ただし、その広いとは言えない会場に、朝9時から多くの方が参加してくださったことは大変有難かった。

(2009/01/05up)