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NGUYEN THI PHUONG OANH

2018年5月16日更新

滞日JSLベトナム人児童の二言語における動詞使用の特徴
―モノリンガルと比較して―

NGUYEN THI PHUONG OANH
修了年度 2016 年度
修士論文題目 滞日JSLベトナム人児童の二言語における動詞使用の特徴
―モノリンガルと比較して――
要旨
(1000字以内)

日本語を第二言語とする(以下、JSL)児童の言語能力を調べる際、日本語に着目することが多いが、児童の母語についても調べるべきである。また、6歳以降の児童の問題が議論の中心になりがちであるが、就学前の児童にも目を向ける必要がある(中島, 2007)。一見モノリンガル児童と変わらない日本語能力を持っているように「見える」JSL児童でもモノリンガル児童にとって簡単な動詞を「知らない」ことがある(西川・青木・細野・樋口, 2015)などが明らかにされており、今まで問題視されてこなかったJSL児童が抱えている語彙力の問題について注目されはじめ、今後はさらなる研究が求められる。そこで、本研究は幼少期に来日し、かつ学齢期前の滞日ベトナム人児童1名を対象に、日本語とベトナム語の二言語における動詞使用に焦点を当て、同年代のモノリンガル児童と比較し、各言語における動詞使用の変化及びその特徴を報告することを目的とした。

本研究は1年間に渡り、滞日JSLベトナム人児童1名(M)が5歳3ヶ月・5歳9ヶ月・6歳2ヶ月の時に、3回の調査を行った。“Frog, where are you?” (Mayer, 1969)という文字なし絵本を使用し、児童に日本語とベトナム語でストーリーを語ってもらった。そのほかに、比較データとして保育園幼稚園の年少児から小学1年までの日本語モノリンガル児童8名とベトナム語モノリンガル児童8名も対象とした。さらに、統制データとして成人日本語母語話者8名と成人ベトナム語母語話者8名も対象とした。

結果、1年間に渡り、二言語ともMの動詞使用に変化が見られた。日本語に関して、Mは3回の調査に渡り、同年齢のモノリンガル児童と同程度の動詞数を産出すること、動詞の多様性が豊かになったことが分かった。しかし、全調査において動詞の誤用が見られ、また発話における動詞使用の割合に関してモノリンガル児童よりやや少ないことが明らかになった。一方、ベトナム語に関しては、Mは3回の調査に渡り、同年齢のモノリンガル児童より産出した動詞数が少なく、動詞の多様性が減少したことが分かった。また、全調査において誤用が見られ、発話における動詞使用の割合に関してモノリンガル児童より大きく下回ることが明らかになった。このことから、ベトナム語の動詞使用において衰退傾向が見られ、母語喪失の危険性があると考えられる。

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