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劉 蓉蓉

2018年5月16日更新

中国における外国人児童の継承語会話力と家庭言語環境
―中国珠海市在住の日本人児童を事例として―

劉 蓉蓉
修了年度 2016 年度
修士論文題目

中国における外国人児童の継承語会話力と家庭言語環境
―中国珠海市在住の日本人児童を事例として― 

要旨
(1000字以内)
本研究は中国在住の日本人児童の継承語である日本語の会話力をOral Proficiency Assessment for Bilingual Childrenという会話テストで測定し、基礎言語面、対話面、認知面に分け評価した。また、彼らの家庭言語環境の現状を家庭の社会経済状態、家庭内のリテラシー活動、家庭内の言語使用の3つの要素について保護者へのアンケート調査を行った。これらを踏まえ、中国在住の日本人児童の日本語会話力の実態を明らかにし、日本語会話力と家庭言語環境の要素との関連を検証した。

その結果、日本語会話力の基礎言語面において、中国在住の日本人児童の平均点は同じ会話テストを受けた日本人モノリンガル児童より有意に低かった一方で、日本語会話力の対話面と認知面において、中国在住の日本人児童と日本人モノリンガル児童の平均点は統計的に有意な差が見られなかった。また、中国在住の日本人児童の日本語会話力と家庭言語環境の要素との関連に関して、家庭の社会経済状態、家庭内のリテラシー活動は日本語会話力との間に有意な相関が見られなかった一方で、家庭内の言語使用は、日本語会話力との間に有意な正の相関が示された。

本研究の結果から、中国在住の日本人児童には、発音とイントネーションが不自然であり、日常会話において必要な語彙が使えなかったり、状況に合わせて適切な文が作れなかったり、日本語の文の正確さに欠けている子どもが多く、日本語の発音、語彙、文法、文の生成といった会話力の基礎言語面において、中国在住の日本人児童は日本人モノリンガル児童に比べ不足していることが分かった。また、中国在住の日本人児童の日本語会話力に関して、先行研究にも示されたように、個人差が大きいという特徴が見られた。

また、家庭の社会経済状態がより良い中国在住の日本人児童の家庭では、メディアへのアクセスに関連する日本語でのリテラシー活動の頻度がより高かった。このことから、家庭の社会経済状態の高い家庭では、メディアを通して日本の文化に触れることに対して意識が高いと考えられる。

最後に、子どもの継承語会話力を維持するために、継承語のインプットを提示しアウトプットをさせる役割を果たす継承語の使用は不可欠であることが分かった。日常会話の中でできるだけ継承語で話しかけ、継承語を使わせることが子どもの継承語の会話力を維持するための最も有効な手段だと考えられる。

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