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韓 嘉雯 (HAN JIAWEN)

2018年6月6日更新

中国人留学生の自律的な討論・読解活動を支援するアクティブ・ラーニング
―トランス・ランゲージングとクリティカル・シンキングに焦点を当てて―

韓 嘉雯 (HAN JIAWEN)
修了年度 2016 年度
修士論文題目 中国人留学生の自律的な討論・読解活動を支援するアクティブ・ラーニング
―トランス・ランゲージングとクリティカル・シンキングに焦点を当てて―
要旨
(1000字以内)
21世紀に入り、グローバル化が進展するのに伴い、高等教育における「教育大衆化」「学生の多様化」が加速している。これらの変化に対応するために、「教えるから学ぶへ」のパラダイムの転換が提唱されると同時に、「アクティブ・ラーニング(Active Learning)」が注目されている。

 本稿では、中国人留学生を対象者として、トランス・ランゲージングを取り入れたアクティブ・ラーニング活動を通じて、「21世紀型スキル」の中核となるクリティカル・シンキングを外化、発揮させることを目的とする。これにより、柔軟な多言語使用である「トランス・ランゲージング」を取り入れたアクティブ・ラーニングの必要性および、グローバル化社会に求められるクリティカル・シンキングの重要性を検討する。更に、アクティブ・ラーニング、トランス・ランゲージング、クリティカル・シンキングを統合的に組み合わせた活動の意義を考察し、リテラシー教育および自律的なカリキュラム開発のための示唆を得ることを目指す。

以上の目的を踏まえ、①活動における参加者のトランス・ランゲージングの使用状況を明らかにし、②言語使用とクリティカル・シンキングとの関連性に着目し、メタ認知的側面の変化、更にそれに伴ってクリティカル・シンキングが反映される産出物における変化を考察する、という研究課題を設定した。調査では、4名の中国人留学生を対象者とし、2ヶ月間の自律的な討論・読解活動を実施した。参加者は①事前に各自で多様な資料を読み、ワークシートを完成、②グループ活動としてメンバーで討論後、ワークシートを修正、 ③メタ認知的側面に関するルーブリック(「批判的思考態度テスト項目」)を用いて自己評価する、という活動を行った。

ワークシート及び活動後のインタビューなどのデータの質的分析の結果、参加者は意味の確認、効率化、理解の深化など多様な目的で柔軟にトランス・ランゲージングを使用していたことがわかった。これら多様な目的に応じて方略的にトランス・ランゲージングを使用することにより、参加者にはメタ言語的意識の発達、母語および母文化への誇りなどの変化が見られた。そして、活動が進むに伴い、参加者は徐々にクリティカル・シンキングについての理解を深め、意識的に自己モニタリングしたりコントロールするようになっていた。クリティカル・シンキングを反映した産出物の分析により、トランス・ランゲージングを取り入れた自律的、能動的な学習環境で、参加者は多面的に問題をとらえるクリティカル・シンキング能力を外化し、相互の知識を共有したり補足したりし、スキーマを再構築したことが確認された。更に、アクティブ・ラーニングの推進において、ルーブリックの導入、課題文の選定、グループの編成およびそのなかの役割分担の影響が見られた。これらの知見は、言語教育および自律的なカリキュラム開発への示唆につながると考えられる。

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