ページの本文です。

李 虹儀

2018年5月16日更新

日本語学習者における読解と付随的語彙学習
―non-CALL語注とCALL語注による効果の比較を中心に― 

李 虹儀
修了年度 2016 年度
修士論文題目 日本語学習者における読解と付随的語彙学習
―non-CALL語注とCALL語注による効果の比較を中心に― 
要旨
(1000字以内)
内容理解を主目的とした読解活動で副産物的に起こる付随的語彙学習には、学習者が語の意味を正確に理解できない、学習すべき単語を見落とすといった問題点がある。それらの問題点を克服する方法の1つは、語注の使用である。本研究では、コンピュータによる言語学習支援(CALL: Computer Assisted Language Leaning)の有無により、non-CALL語注とCALL語注に分けて考える。non-CALL語注は、紙媒体に現れるもので、全ての語注が同時に示されている。それに対し、CALL語注は電子媒体に現れるもので、利用されるときに現れ、毎回1つの語の語注だけが現れる。non-CALL語注とCALL語注のどちらが読解と付随的語彙学習に役立つかについて、従来の欧米言語教育分野の研究では、一致する結果がまだ得られていない。加えて、日本語教育分野では、このような研究が進んでいるとは言い難い。そこで、本研究は日本語学習者を対象に、紙媒体とコンピュータを使用した読解活動を行い、non-CALL語注とCALL語注どちらのほうが読解と付随的語彙学習に有効なのかを明らかにすることを目的とする。

本研究は83名の台湾人日本語学習者を対象者に、言語習熟度とコンピュータリテラシーによって、4つのグループに分けた。それは、「上位・non-CALL」「上位・CALL」「下位・non-CALL」「下位・CALL」であった。そして、83名の対象者のうち、17名を選び、読解材料及び目標単語を決めるための事前調査を行った。読解材料と目標単語を決めた後、語注を読解材料であるテキストに入れ、残りの66名の学習者で本実験を行った。対象者が語注付きのテキストを読んだ後、読解テストと直後語彙テスト及びアンケート調査を行った。そして、語彙の保持を明らかにするため、2週間後遅延語彙テストを再び実施した。その結果、CALL語注とnon-CALL語注が読解に与える効果には差が見られなかった。一方、non-CALL語注より、CALL語注のほうが付随的語彙学習と語彙保持に有効であることが明らかになった。なお、CALL語注が付随的語彙学習と語彙保持に与える効果は、言語習熟度によって異なった。

本研究では、CALL語注を学習者に与えることで、付随的語彙学習を促進することができる可能性があると示唆される。ただし、全ての学習者にCALL語注を利用させれば良いと言うわけではなく、学習者のコンピュータリテラシーを考慮しなければならない。また、学習者の言語習熟度はCALL語注の効果に影響を与える可能性があり、教師や研究者がCALL語注を作る際に、学習者の言語能力を配慮すべきだ。

  •  
  • このエントリーをはてなブックマークに追加