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山下 佳那子

2018年5月16日更新

JSL高校生に対する多義動詞指導の効果
―自然習得の限界を補う指導の可能性を探る― 

山下 佳那子
修了年度 2016 年度
修士論文題目 JSL高校生に対する多義動詞指導の効果
―自然習得の限界を補う指導の可能性を探る― 
要旨
(1000字以内)
日本語を第二言語とする(Japanese as a Second Language 以下、JSL)高校生を対象に、多義動詞の指導効果を検証した。先行研究において、日常会話では問題がないJSL児童生徒であっても、日本語モノリンガル児童生徒よりも多義動詞の習得が遅れていることが明らかになっている。しかし、多義動詞は複数の教科にまたがり多様な用法で出現しているため、習得しておかないと教科内容の理解に大きな支障をきたす恐れもあり、指導を行う必要があると言える。だが、JSL児童生徒を対象に多義動詞の指導効果を検証した研究は管見の限り見当たらない。また、そもそもJSL児童生徒に対して、自然習得では習得困難な言語項目の指導効果を検証した研究もほとんどない。

本研究では、ブラジルとペルーにつながるJSL高校生18名を対象とし、多義動詞5語(とる・かける・ひく・きる・あがる)を指導する指導群9名と統制群9名に分け、事前・直後・遅延テストと指導を行った。なお、指導群に対しては、各語が持つ用法ごとに複数の例文を与え、例文内の多義動詞の意味を考えるという指導を行った。その結果、事前テストでは両グループの間に差はなかったが、直後テストにおいて指導群では有意に点数が伸びた一方、統制群では有意な点数変化が見られなかった。故に、自然習得環境にいるJSL高校生に対して、指導が多義動詞の習得に効果を与えたと言え、これまでの習得研究で言及されてきた日本語モノリンガルの子どもとの習得差は、指導によって縮められる可能性が明らかになった。

しかし、その効果も、各対象語が持つ用法の特徴や、指導時のフィードバックの有無により異なることが示された。長期的に指導効果が見られたのは、「(肩で風を)きる」のように指導群の対象者が実際に行動・経験することのできる事態を指す用法であった。また、類義語との差異や抽象義をより深く理解できるようなフィードバックを与えたことで、短期的ではあったが指導効果が見られた用法もあった。一方で、「(裁判に)かける」のように抽象度が高い用法などには、直後のテストでも指導効果が見られなかった。

本研究により、これまでのJSL児童生徒の多義動詞習得研究で、自然習得では習得が困難だと指摘されてきた言語項目に対する指導の有効性を示すことができた。しかし、対象者の人数不足や言語背景の相違、テストの問題文やヒントに対する配慮不足などの研究方法上の課題も残されており、解決する必要がある。

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