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SOMPRAKIT PARICHAT

2018年5月16日更新

タイ語を母語とする日本語学習者の「受身文」の習得の実態
―形式と機能のマッピングという観点による分析― 

SOMPRAKIT PARICHAT
修了年度 2016 年度
修士論文題目 タイ語を母語とする日本語学習者の「受身文」の習得の実態
―形式と機能のマッピングという観点による分析― 
要旨
(1000字以内)
日本語の文法の中で、受身文は難しい項目の一つと言われている。本研究では、タイ語を母語とする日本語学習者(以下、TJL)は、日本語の受身文の形式である「レル」と「ラレル」に、 (1)「動作対象の記述(以下、対象)」、(2)「視点の統一(以下、視点)」、(3)「被害、迷惑の意味の顕在化(以下、被害)」そして、(4)「恩恵の意味の顕在化(以下、恩恵)」という受身文の4つの機能を、どのように結び付けているかを調べるために調査を行った。

本研究は、(1)理解面と産出面においてTJLの日本語能力が高くなるにつれ、受身文の能力も高くなるか、(2) 理解度及び産出能力は「対象」、「視点」、「被害」、「恩恵」の受身文の4つの機能によって変わるか、(3)受身文を「非用」した場合、どのように表現するかということを検証した。調査ではタイの大学で日本語を専攻している2~5年生のTJL 33名を対象とし、SPOTテストで上位群と下位群に分け、文法性判断テスト、4コマ漫画の描写、アンケートを行った。

その結果、第1に、TJLの日本語能力が高くなるにつれ、受身文の産出能力も高くなることが確認された。第2に、理解面ではTJL上位群は受身文の4つの機能に理解度の差が確認できなかったがTJL下位群は「恩恵」が最も理解度が高かった。一方、産出面ではTJL上位群はより産出能力が高いことが確認された上に、受身文の各機能の間にも差があるということが認められ、TJLは「被害」を最も上手に産出することができ、その次に「恩恵」、3番目に「視点」で、最後に「対象」という順になるという結果が得られた。第3に、TJLは受身文を使用しない場合、能動文などを使用する傾向があることが見られた。

上記のような結果を導いた要因は、やはり母語の転移と教科書や指導によるものだと考えられる。まず、母語の転移について、タイ語の中には「被害」という機能が典型的な受身文の機能となり、典型的な受身標識の「thùuk」標識や「doon」標識を使用するが、「視点」と「恩恵」並びに「対象」の場合は異なった受身標識を使用する上に、受身文として認識されない場合がある。そのため、日本語の受身文と結び付ける際に混乱してしまったと考えられる。

また、受身文の指導については、現在受身文の指導では4つの機能の中で「被害」は明示的に指導が行われているが、教科書を確認してみた結果、「視点」、「恩恵」、「対象」については明示的ではなかった。そのため、これらについても明示的に指導することを視野に入れる必要があるのではないかと示唆された。

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