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山口 紀子

2018年5月16日更新

孤立環境における生涯学習としての日本語学習動機づけ
―キルギス日本センタ―受講生の学習動機と継続意志に注目して―

山口 紀子
修了年度 2016 年度
修士論文題目 孤立環境における生涯学習としての日本語学習動機づけ
―キルギス日本センタ―受講生の学習動機と継続意志に注目して―
要旨
(1000字以内)
日本との人的・経済的交流が少なく,留学や就職など実利的な目的が達成されにくい海外の日本語学習環境では,学習継続の困難が指摘されており,特に生涯学習機関の学習者の減少が問題となっている。そこで本研究は,前者を学習継続意志の問題,後者を学習選択動機の問題として捉え,これらの問題解決に教育実践上の示唆を得ることを目的とし,日本語孤立環境であるキルギス共和国の生涯学習機関を対象とした学習動機づけの量的研究及び質的研究を行った。まず質問紙調査への回答の統計的検定により学習動機の構造及び学習継続意志に影響を与える要因を明らかにし,次に動機づけの変化をインタビュー調査で追い,得られたデータをコーディングして構成概念を抽出した。その上で量・質の分析結果を統合し,孤立環境の日本語生涯学習者の動機づけの全体的な解釈を試みた。

量的研究における因子分析の結果,キルギスの日本語学習者の学習動機は<外国生活への憧れ><日本語・日本文化への関心><自己肯定・自己向上志向><人的交流の開拓・新領域への挑戦><趣味・娯楽志向>の5因子構造であり,生涯学習者のほうが日本語主専攻大学生より<趣味・娯楽志向>が高いことが明らかとなった。また,分散分析の結果では,生涯学習者の男性は学習段階が進むと<外国生活への憧れ>が低減し<趣味・娯楽志向>が高まるが,女性には大きな変化が見られなかった。これにより男性の方が孤立環境における日本語の実利性の低さによって学習動機が低減しやすい傾向が示された。

学習継続意志に影響を与える要因を共分散構造分析で検討した結果<日本語の難しさ>を筆頭に学習困難度が継続意志に負の影響を与える一方,<外国生活への憧れ>と<人的交流の開拓・新領域への挑戦>への目標達成見込みが正の影響を与えていることが明らかとなった。これにより実利的な目標の達成されにくい孤立環境でも,学習困難の軽減や自己必然的・内容必然的動機を高めることで学習継続を維持できる可能性が示唆された。

生涯学習者の学習動機づけの変化を見る質的研究の分析結果からは,日本語学習長期継続者と非継続者との間で,動機と継続意志のタイプ,動機づけを支える要因,学習者自身の日本語学習の意味づけが異なることが示された。学習継続者は常に複合的な動機を維持し,動機づけが低減した際にも内的調整により自律的に再動機づけを行っていた。また日本語学習を自身の人生の重要な一部として意味づけていることが明らかとなった。

以上の結果を統合し,孤立環境の問題解決に,学習者の多様な動機に配慮したコース設計の必要性及び学習者の人生と日本語学習の結びつきの省察の機会の重要性の示唆を得た。

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