■ 「米国における家族と仕事の変化 ~進歩と課題~」
Upjohn Institute for Employment Research シニアエコノミスト
スーザン・ハウスマン 氏 統計データを用いながら、米国における女性の就業の変化について説明。女性が男性に比べ教育水準が高いこと、労働市場参加の男女差はほぼ均衡なこと、明白な雇用差別は縮小しているものの、シングルマザーが多いことや出産年齢は上昇していることが挙げられた。
また米国では、男女賃金格差や性差別は縮小し、高収入の職への女性の就業の拡大も進展した。しかし課題が残されていないわけではない。米国でも20代後半以降には男女賃金格差が大きくなることから、家族のケア責任を女性が負担しているとみられている。また、シングルマザーの労働時間はそうでない者よりも相対的に長い。
家族責任をとる例では、専門性の高い医師として働く女性であっても、開業を避け、夜間診療や緊急呼び出しが少ない条件の仕事を選ぶということもある。米国でも、今なおファミリー・フレンドリーな職場をつくるには、古い職場のしきたりを変えないとならないと考えられている。
今後の課題として、依然としてファミリー・フレンドリーな職場が少ないこと、低学歴・非白人の女性の多くが、子育てをしながら生計をたてる中で貧困・福祉依存に陥っていることなどを解決することが求められている。
A. ウィリアムズ氏
アメリカでも、伝統的な考え方を持った世代と若い男性たちの間でのギャップはある。企業がそうした世代間ギャップが広がらないように、間をうまく取り持つようにする努力はすべきだと思う。なかなか考え方が変わらないというのは、「成功を収める男性はこうあるべき」と固定概念が以前あったと思うが、今は、家族的責任をとり、育児も行い、「よき父親になりたい」と思う男性が増えてきている。こうした新しい世代の人たちをサポートする仕組みを作っていくことが必要。
■「シングルマザーの貧困:「臨時雇用」は救いになるか?」
Upjohn Institute for Employment Research シニアエコノミスト
スーザン・ハウスマン 氏
アメリカでは結婚する人の数が減少し、未婚の母親(シングルマザー)が急増している。シングルマザーの多くが非白人層の教育水準が低い10代の若者である。これは子どもの貧困をもたらす大きな原因の一つである。
アメリカは「1997年の改革」で、シングルマザーの就職支援に重点を置くようになった。これまでの福祉依存を減らし、貧困から抜け出せるよう、また結婚した上での出産を増やすことも目標にした。
福祉の現金給付を受けるには、フルタイムの職に就いていなければならず、また給付も一人一生涯に5年までという制限がある。国から委託された就職斡旋団体がシングルマザーに仕事を紹介する「ワークファーストプログラム」があるが、紹介された仕事が直接雇用ならまだよく、多くは派遣の単純作業である。昇進やスキルを磨く機会が少なく、良い条件の仕事を探す時間もとれず問題になっている。就職斡旋後も団体からのフォローがないなど、厳しい状況におかれる。シングルマザーは手っ取り早く仕事に就くことよりも、雇用の安定性が重要だろう。1997年の改革は1994年から2000年の間にシングルマザーの就業率を68%から78%に引き上げたが、この年代は景気がよかったこともあり、むしろ景気が悪い現在は現金給付を一生涯で5年までの制限を徹底しようという動きもでている。
■コメント
「日本における母親の就労と子どもの発達」
ルイジアナ州立大学 准教授 賀茂美則 氏
石井クンツ氏が指摘した『ワーク・ワーク・ライフ・バランス』という考え方は非常に重要であると思う。共働きが多くなる中、家庭の中にもワークがあり、家庭のワークと就業のワークとの間のコンフリクトは今後男女に関係なく存在していくだろう。そしてそうした場合にはWFC(Work to Family Conflict)とWLB(Work Life Balance)は分けて考えられるべきである。またWLBとは頭の中の意識ではなく、行動としてどうあるのかを測って行くことに意義があるという石井クンツ氏の意見に賛成である。次に、行政が主導するWLBはアメリカではまずあり得ない。アメリカの特に男性においてはWLBとは市民のレベルで意図して行動するものであるからだ。アメリカの父親は、家庭での居場所を確保するという意味でも家庭参加をしているようである。舘氏の福井県の報告を聞き、福井県は日本の将来の縮図であるように思われた。それは共働き世帯が当たり前となり、その共働き家庭の世帯収入は高いが個人収入は低く、妻も仕方がないから働くという家族である。したがってこの将来像においては格差が生じてくるから今後は日本でももっと格差研究を行っていくべきである。