学会報告

2009年度

シンポジウム 日本年金学会 「非正規雇用と年金制度」
日時 2010年11月26日
場所 東海大学校友会館
内容シンポジウム 「非正規雇用と年金制度」
概要「非正規雇用の最近の状況と社会的保護のあり方」
永瀬 伸子 労働班
おお茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科教授
日本年金学会では、働き方の変化により非正規雇用労働者が急速に増加していることが、年金の空洞化の大きな要因となるなど現状の年金制度の課題となっている点について、永瀬伸子、久保知行(日産自動車(株)人事エキスパートリーダー)、駒村康平(慶応大学教授)、小野正昭((株)みずほ年金研究所研究理事)、濱口桂一郎(労働政策研究・研修機構統括研究員)等4名の専門家による論点提示およびパネルディスカッションを行った。その中で永瀬の論点として、いったん非正規雇用・無業となると、その後正社員となることや賃金の上昇が見込めないこと、そうした非正規雇用という働き方が、若年層に近年急速に加速していることについて「33歳~34歳の高卒男女をみると、結婚していない男性の4人に1人、女性の5割が非正規雇用で低賃金の状況である」「仕事から収入を得て、一定の安心感を持って普通に暮らし、家族を形成して子どもを育てるということが見通せないような状況が、若年層に急速に拡大している」とデータを用いて指摘。そのうえで、もはや「40年加入の専業主婦のいるサラリーマン世帯という年金モデルは、今の若者にとって非現実的」との見方を示し、「非正規雇用を明示的に配慮した年金制度が求められている」との考えを示した。
  『年金実務』(第1922号)「日本年金学会 シンポジウム まず非正規労働者に対する適用拡大を進めるべき」にシンポジウムの内容が詳しく掲載されています。
 
家族関係学部会セミナー
日時 2010年10月9日・10日
場所 滋賀県立滋賀県民交流センター(滋賀県大津)
内容シンポジウム 日本の少子化とジェンダーシステム
概要「育児休業制度を取得した男性の育休生活スタイル形成プロセスー事例調査から」
林 葉子 家族班
お茶の水女子大学ジェンダー研究センター リサーチフェロー
育児休業を取得した経験がある男性7名に対する半構造化インタビュー調査。分析方法は、グラウンデッド・セオリー・アプローチによる理論構築型分析アプロ―チを使用。
ほとんどの対象者は妻の妊娠が分かった時点では、自分自身が育休制度を取ろうとは思っていなかった。妻の働きかけや、労働組合によるワーク・ライフ・バランスの取り組みへの参加、人事部に所属して男性の育休取得問題を取り扱った経験など、なんらかの働きかけに刺激を受けて育休制度をとる決心をしていた。育休生活に入る前は、様々な心配因子(上司の「ほんとうに取るのか」といった言葉や親の「会社からあてにされていないのか」といった言葉など)を経験するが、結局は直属の上司の「会社に貢献できる経験をしてきてほしい」という励ましを受けて気持ちが楽になり、育休生活に入る。育休生活では、妻から家事全般を学びながら、夫婦で初めての育児に挑戦していく。「おっぱいがない」ことや「妻とのせめぎあい(共働きでは忙しく話し相手にならない、専業主婦では邪魔者扱い)」「マイノリティーの孤独」などの困難に遭遇するが、社会・会社に復帰したときに備える気持ちも絶やさずがんばっているのが男性の育休取得者の姿である。
 この結果から、男性が育休制度を利用しやすくするためには、両親学級への夫婦での参加を促し、育児ばかりではなく家事の方法講座を用意して、家事・育児教育を推進すること、孤独な男性育休者の相談しやすい場を提供すること、企業は育休者にも職場での有用意識を与えることなどが必要であろう。
「共働き夫婦の働き方と出生行動 - 有配偶有職女性アンケート調査の結果から」
山谷 真名  労働班
お茶の水女子大学ジェンダー研究センター アソシエイト・フェロー
2010年3月に実施したアンケート女性調査によって、(1)夫婦の仕事特性は、妻の出産意欲に影響を与えているかどうか (2)夫婦の仕事特性は、出生タイミングに影響を与えているかどうか (3)仕事特性や両立の難しさが、理想の子ども数よりも予定子ども数を低くしているかを分析した。
(1) 現在いる子どもの人数別に、妻の出産意欲があるかないかの二項ロジット分析をしたところ、「仕事量や手順を自分で決めることができる」ほど出産意欲が高いことが明らかになった。
(2) 学歴別に、結婚後2年で第1子を出産したか否かの二項ロジット分析をしたところ、大卒では、結婚時に夫が「長時間労働だった」者ほど、出生タイミングが遅く、高卒では、結婚時に夫が「転居を伴う転勤の可能性があった」者ほど、出生タイミングが遅いことが明らかになった。
(3) 子どもの理想数よりも予定数が少ない理由として、就業継続者では、正社員の約3割が「育児休業が取りにくい」と回答するなど、就業しながら出産できないのではないかと考え、出産意欲が低くなっていることが示唆された。


家族社会学会
日時 2010年9月11日
場所 成城大学 (東京都世田谷区)
内容シンポジウム 日本の少子化とジェンダーシステム:
概要「長期の視点でみたワークライフバランス」
永瀬伸子 労働班
お茶の水女子大学人間文化創成科学研究科 教授
ワークライフバランスがとれていますか、という質問に答えるとき、多くのひとは今の生活を思い浮かべて回答する。しかし今必要なのは、ライフイベントの変化に対応してワークライフバランスがとれるだろうという長期の見通しを持てることである。優良企業に勤務する子どものいない大卒女性のフォーカス・グループ討論から、今は仕事時間に満足としても、子どもを持ったら続けられないかもしれないと考える者が多く、先行きの不透明感や不安感を持つ者が、総合職女性に少なくなかった。新卒採用の時点で、総合職、一般職、あるいは非正規雇用といった形で、長期の雇用の在り方を固定してしまう今の雇用管理は、出産を経る女性のギアチェンジを難しくしている。高度経済成長期に形成されたのは、長期安定雇用と引き換えに、残業や転勤を受け入れ、ケア労働は専業主婦が担うものとして家族賃金を払う働き方である。この働き方を総合職の女性に開いたとしても、長期の見通しを持てることにはつながらない。また定型的で浅い仕事を繰り返すことを、新卒採用面接時に固定される一般職的な働き方も、仕事における能力発揮の機会を制約するデメリットが大きい。日本的雇用慣行を転換し、雇用者もケア労働をすることを前提として、働き方を改革することが必要である。
「父親の家事・育児のロールモデルは存在するのか?」
林 葉子 家族班
お茶の水女子大学ジェンダー研究センター リサーチフェロー
ロールモデルについて質的分析と量的研究の両方から検証した。その結果、父親の家事・育児参加のロールモデルはほとんど意識されていなかったことが分かった。対象者である父親本人が、自分自身の父親に幼少時に面倒を見てもらっているという体験があり、さらにその姿勢を肯定的に評価していると、自分自身の家事・育児への参加度も高くなっていることが明らかになった。このことから、男性が家事・育児をしている姿を幼少時からみること、すなわち、家事・育児のロールモデルが身近に存在することが、自身が父親になったときに、その影響を受けて、家事・育児に参加するようになる。そういう意味では、家事・育児に積極的に参加する父親には家事・育児のロールモデルが存在しているといえよう。
日本人口学会報告
日時 2010年6月12日
場所 お茶の水女子大学
内容シンポジウム 日本の少子化とジェンダーシステム:
-性別役割分業の超克は可能か?-
 組織者: 永瀬伸子  座長: 佐藤龍三郎氏(国立社会保障・人口問題研究所)
 発表者: 金子隆一氏(国立社会保障・人口問題研究所)
 山谷真名(お茶の水女子大学)、石井クンツ昌子(お茶の水女子大学)
 討論者: 鬼頭宏氏(上智大学)、 吉田千鶴氏(関東学院大学)
      
報告概要
「家庭における男女の役割~家庭におけるジェンダー関係~」
石井クンツ昌子 家族班
お茶の水女子大学人間文化創成科学研究科 教授
我が国の家庭内性別役割に関しては、未だ男女の格差が大きいのが現状である。このような我が国の家庭内役割分業の現状を規定しているのは、性別役割分業観のような意識ではなく、労働時間などの構造的要因であるのは明らかである。意識が保守的か革新的かにかかわらず、日本男性の家事や子育て参加が少ないからである。家庭内の役割分担は、父親の労働時間が短縮されると、家事や子育て参加が増える確率が高い。夫婦間の平等な家庭内役割分担は親子・夫婦関係にポジティブな影響を与えている。夫の家庭内役割分担は妻の育児不安やストレスを軽減し、就労する母親にとっては仕事と家庭を両立する重要な鍵となりうる。そのためには、ファミリー・フレンドリーな職場環境作りに男性の家庭内役割分担を視野に入れた働き方の見直しを含むのは必須であろう。

      
「女性の就業と出生行動 ~ 職場におけるジェンダー関係 ~」
山谷 真名 労働班
お茶の水女子大学 アソシエイト・フェロー
2008年度実施のグループ・インタビュー調査、2009年度実施の有職女性に対するインタビュー調査、WEBアンケート調査の結果を元に、(1) 学卒後に「待遇や昇進面で男女差のない」仕事に就いているか否か (2) 出産後の就業継続の要因は何か (3) 就業継続のために予定子ども数を減らしているかを分析した。
(1) 25-29歳層について、中・高卒約3割、専門学校・短大卒5割弱、大学・大学院卒5割強しかこの設問に肯定していず、最初から男女でかなり雇用条件が異なることがわかった。
(2) 仕事のやりがいがある者ほど、育児をしながら働きやすい職場であるほど、男性と同様の仕事をしている者ほど、夫の家事・育児参加を見込めた者ほど、出産前正社員であった者の正社員継続率が有意に高いことが明らかになった。
(3) 正社員では、「育児休業が取りにくい」ことを理由に予定子ども数を減らしている人が約3割であった。また、子どもを持つことを予定していても、子どもを持つと、就業を中断せざるを得ないのではないかと思い、子どもを持つことを躊躇している人たちがいた。
      
このシンポジウムでは、最初のスピーカーとして国立社会保障・人口問題研究所の金子隆一氏が「近年の日本人の結婚・出生行動の変化~職場におけるジェンダー関係」について、戦後の家族と婚姻の変容を詳しい統計を用いながら報告された。またコメンテータの鬼頭氏、吉田氏からは特に家族が家事・育児分担をすることと女性の就業継続の因果関係および貴重なコメントをいただいた。さらに会場と活発な質疑応答があった。
 
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