アメリカのデータ(National Longitudinal Study of Youth 79 :1979年に14から21歳だった男女12682人を追跡している調査および NLSY79 Children and Young Adults:NLSY79の対象となっている女性の子どもに関する情報を1986年から追跡的に収集している調査)を用いて、出産後6、12、24週間で復職する場合に子どもの発育に与える影響を検証した。サンプルは、1988年から1994年までに生まれた子ども1098 名である。
先行研究においては、1時点のみに着目し、発育が遅れているために母親が復職するタイミングが遅くなるといった内生性への対処法に問題があったが、本研究においては、複数時点に関して分析し、子どもの発育の決定式と母親の時間の決定式を同時推計することで内生性に対処している。
分析の結果、1~2歳児の知的精神面の発育については、12週以上家にいることが有意によい影響を与え、1~2歳児の身体的発育については、6週以上家にいることが有意によい影響を与えていた。また、4~5歳時の問題行動については、12週以上家にいることが有意に問題行動を減らしていた。以上の結果から、出産後母親が家にいることは子どもの発育に対して正の効果を及ぼし得ること、母親の時間と子どもの発育の関係は指標によって異なる傾向があることが明らかになった。
第2報告
臼井恵美子氏(名古屋大学) 「Employer Learning, Job Mobility, and Wage Dynamics」
アメリカのデータ(National Longitudinal Study of Youth 79 :1979年に14から21歳だった男女12682人を追跡している調査)を用いて、企業が学ぶ従業員の労働生産性(employer learning)は、すべての企業が知り得るもの(public)か、知り得ないもの(private)かについて検証した。サンプルは、8年以上教育を受けた男性に限定した。
先行研究においては、試験の点数が賃金に影響を与えていたらpublic learning、勤続年数が賃金に影響を与えていたら、private learningであるとしており、両方の説がある。
本研究においては、新しい方法を開発して検証する。それは、public learningであれば、賃金が経験に対してconcaveであり、private learningであれば、勤続年数に対してconcaveであると仮定する方法である。その場合に、企業との相性と勤続年数の相関を考慮にいれなければならないため、差分の賃金関数を推定した。
分析の結果、学歴別にみてみると、高卒の人では、最初の10年間 public learningであり、大卒では、経験年数が8年以上であればpublic learningであることが明らかになった。また、職種別にみてみると、サービス業の人ではpublic learningであるが、マネージャーではprivate learning であることが明らかになった。
第1報告「カリフォルニア州の有給家族休暇制度(Paid Family Leave)とその評価」
申キヨン(法政策研究班)
第1報告では、カリフォルニア州が定める『有給家族休暇制度(PFL)』に焦点をあて、その制度をめぐり法学者、弁護士、労働組合支援者のそれぞれの立場での家族的責任に関する取組みについて報告された。まず法学者たちは、職場における差別“work life discrimination”の解決を広く取り扱っているが、その解決方法の一つとして集団訴訟がある。訴訟を通して、家族的責任による差別をなくす反差別理論の研究をしている。それに対してLegal Aid Society で働く弁護士たちは、労働者にとっては訴訟のような負担の大きなものよりも、職場環境改善策のほうが効果的であると考えそのモデルを構築していた。たとえば、家族を持つ労働者が家族的責任にある場合には、家族を持つ労働者の働く環境に、職場が合わせなければならないというモデルである。最後に労働組合の役割についてであるが、アメリカのように政府が労働者を守る法律が少ないところはでは、労働者の権利を守るために労働組合の活動が非常に重要になっている。彼らもまた、様々な問題を「労働者の視点」から再構築しようとする試みをしていた。
カリフォルニアでは家族的責任のための有給休暇制度がアメリカで最初に導入された。最大の特長は有給(6週間まで、平均週賃金の55%・最大987ドル)である。また導入の効果について2010年に報告されたものによると、導入以前に懸念されていた経営者側の経営の負担にはつながらなかった、としている。しかし、休暇後の雇用保障がないことや、認知度が労働者全体に均等ではないことが問題点として上げられる。今後は家族的責任をめぐり、雇用保障や制度の拡充と使いやすい法体系にする取組みが期待される。
アメリカはワーク・ライフ・バランス発祥国。しかし政策としては、ワーク・ライフ・バランス憲章をはじめとする明確な政策が打ち出されている日本と比べ、1993年に制定されたFamily and Medical Leave Act(FMLA、無給の育児休暇、看護・介護休暇)の取得を使用者に義務付ける法律があるにとどまる。