学会報告

2009年度 2010年度 2012年度

The fifth International Conference in Applied Ethics, Hokkaido University (第5回応用倫理国際会議)
日時 2011年10月29日
場所 北海道大学(北海道)
概要Session: Gender and Sexuality,“Japanese Fathers' involvements in Childcare, Settings of the Work and Number of Children”
岡村 利恵 家族班
お茶の水女子大学 ジェンダー研究センター RA
 日本の少子化及び日本社会における父親の現状について説明を行い、父親の育児参加と職場環境が世帯子ども数にどのような影響を与えるかについて示した。重回帰モデルの分析から、通勤勤務時間が長いほど子ども数が少ない、また妻がフルタイム就業であると子ども数が少ないという結果が得られた。共働き世帯においては時間的余裕がないために子どもの数が調整されている可能性が示唆された。
家族関係学セミナー
日時 2011年10月22日(土)・23日(日)
場所 関東学院大学KGU 関内メディアセンター
概要「母親のワーク・ライフ・バランスと子育て意識-全国無作為抽出調査の結果から-」
山谷 真名 労働班
お茶の水女子大学ジェンダー研究センター アソシエイトフェロー
 2011年2~3月に実施した26~38歳の女性を対象にした全国無作為抽出調査の結果を用いて、仮説①「就業状況によって、子育て意識に違いはない」、仮説②「就業している場合、ワーク・ライフ・バランスが取れているほど、子育て充実感は高く、不安感は低い」を検証した。
①第1子の年齢、子ども数、学歴といった属性および夫の育児時間と夫婦関係をコントロール変数として入れ、妻の就業形態を説明変数とし、子育て「充実感」と子育て「不安感」をそれぞれ従属変数とする重回帰分析を行った。結果、子育て「充実感」については、夫の育児時間が長くなると高まり、夫婦関係がよいと高まるということが明らかになった。子育て「充実感」について、就業形態による統計的に有意な違いはなかった。子育て「不安感」については、子どもが2人いる場合は、子どもが1人だけの場合に比べ、不安感が高く、夫の育児時間が長くなると「不安感」は低くなり、夫婦関係がよいと低くなるということが明らかになった。子育て「不安感」についても、就業形態による統計的に有意な違いはなかった。
②就業形態および第1子の年齢、子ども数、学歴といった属性、さらに夫の育児時間と夫婦関係をコントロール変数として入れ、ワーク・ライフ・バランス意識を説明変数とし、子育て「充実感」と子育て「不安感」をそれぞれ従属変数とする重回帰分析を行った。結果、子育て「充実感」については、子どもが1人よりも2人の場合、低くなり、就業形態がパート等だと低くなり、夫の育児時間が長くなると高まり、夫婦関係がよいと高まるということが明らかになった。子育て「充実感」については、ワーク・ライフ・バランスによる統計的に有意な違いはなかった。子育て「不安感」については、ワーク・ライフ・バランスが取れているほど、低くなるという結果が得られた。また、子どもが1人の場合よりも2人の場合、不安感が高く、就業形態がパート等だと高くなることが明らかになった。
「父親の生育歴と家事・子育て頻度との関係―家庭役割意識との関連性からの検討―」
林 葉子 家族班
お茶の水女子大学ジェンダー研究センター 非常勤講師
 層化2段無作為抽出法によって2750 人の12歳以下の子どもを持つ、全国の父親への郵送調査を実施。有効回収数は715名(有効回収率26.0%)。分析方法はパス解析(AMOS)。 父親の生育歴と家事・子育て頻度との関係について以下のような結果が得られた。自分の父親が家事や子育てをしている姿を間近に見ていたことや、子どものころから、自分の母親が就労していた、兄弟の面倒をみていたなど、早い年齢から家事・育児を実際に経験していたことが、成人して父親になったとき、家事・育児への参加頻度が高いという傾向みられた。次世代の男性に対しては、家事・子育ての身近なロール・モデルを提示し、さらに、幼少時・結婚前から家事を習慣づけ、育児体験をする機会を持つことが、男性が父親となったとき、彼らの家事・子育て参加頻度を促進するのに有用であることが示唆された。
「育児休業復帰後の働く母親のワーク・ライフ・バランス―聞き取り調査からの考察―」
佐野 潤子 労働班
お茶の水女子大学ジェンダー研究センター 教務補佐員
 出産を経て企業に勤め続けている女性はどのようにワーク・ライフ・バランスをとっているのか、復帰後の仕事に変化があるのか、働く母親のサポートは何かを、聞き取り調査を行った39名のうち対象者10名の語りから考察した。①富田(2006)の職場類型からキャリア平等・昇格平等型、トップランナー型に属しながらも出産後は自ら昇格・昇進にブレーキをかけていた。②その理由は家事育児責任と仕事の責任の重さを考え、家事育児責任を優先する傾向がみられた。③子どもの年齢が上がるにつれ、子どもの病気や習いごとなどの用事のために仕事の調整をするのはまずは母親である。④保育園よりも学童期の子どもの預け先に不安を抱える声が少なくない。早い閉園や夏休みなどの長期休暇の子どもの過ごし方など学童期に入る前から母親は心配しており、さらに昇進にチャレンジすることを躊躇している。以上の報告に対して会場から子どもがいる、いないに関係なく、本当に仕事が面白いのならブレーキをかけるのか、むしろ女性の昇進意欲がそもそもないのではないか、育児サポートも必要だが、企業の昇進レースから一度降りてもまた復活できるシステムが必要、学童保育の時間の延長よりも労働時間の短縮が母親の声ではないか、など貴重なコメントをいただいた。
社会政策学会第123回秋季大会
日時 2011年10月8日(土)
場所 京都大学
概要「出産と育児の負担が少子化に与える影響の日韓比較」(自由論題・第5 女性と就業)
キム スヒョン 労働班
お茶の水女子大学 ジェンダー研究センターRA
 少子化の要因の中で「女性の社会進出説」に基づき、女性の出産と育児への負担が少子化に及ぼす影響をプロビット分析し、日韓の比較を行った。被説明変数は理想の子ども数より現実の子どもが少ない女性を1、その他を0とした。説明変数はコントロール変数として性別、年齢、学歴、婚姻の有無、就業形態を、出産要因としては「社会的規則」「家庭内要因」「否定的なイメージ」の3つを、育児要因としては「精神・肉体的な負担」「WLB維持の困難」「経済的理由」「負担がない」の4つを使った。分析結果、仕事をしていない女性であるほど理想の子どもより現実の子どもが多い確率が有意に高かった。出産要因については、韓国は社会的ルールを重視するほど理想より子どもを産む(10%)一方、日本は家庭内要因(家庭内での子どもの役割重視)が理想より子どもを産む効果があった(5%)。
日本キャリアデザイン学会
日時 2011年10月1日(土)・2日(日)
場所 日本大学
概要「大企業勤務女性のキャリアの「強み」の形成過程-日米比較を視点において-」
永瀬伸子 労働班
お茶の水女子大学人間文化創成科学研究科 教授
山谷真名 労働班
お茶の水女子大学ジェンダー研究センター アソシエイトフェロー
 2010年9月~11月に日本で実施した大企業の女性20名(未婚4名、有配偶無子5名、有配偶有子11名)を対象にしたインタビュー調査から、日本における大企業の女性の管理職への昇進について成功要因を探った。その際の分析視点は次の3つである。(1) 得意な分野(キャリアアンカー)はどのように形成されたか (2) 管理職になる経験に女性特有の経験はあったか(3) 子どものいる女性は家庭責任をどう解決したか、である。それらを2011年8月にアメリカで実施した4社20名(すべて子どものいる女性)を対象にしたインタビュー調査の結果と比較した。
 (1)アメリカでは職種内での経験の拡大と仕事のレベルアップによって職位が上昇し、企業内に機会がない場合は転職を通じたレベルアップの実現が重要である。日本では、大企業の社員は転職が少なく、大卒後入社した企業内で配置転換しながら、企画力、問題解決力、コミュニケーション力、統率力、専門知識を駆使し、仕事のやりがいや面白みを発見していた。(2)アメリカでもいまだにガラスの天井は存在している。また、人事部門など女性が管理職になりやすい部門とそうでない部門がある。日本では、新しい部署あるいは女性の多い部署の管理職になることが多く、新しいシステムを作成した、商品開発が成功したなど目立った業績のある女性が管理職になっていた。(3)アメリカでは、保育園だけでなく、個人宅に預ける、住みこみの人を雇うなど多様な方法で子どもを預けている。また、夫の家事・育児分担の割合が高く、アジア系やヒスパニック系では祖母の手伝いも多かった。帰宅は基本的に定時である。日本では、週1、2日は残業ができるように、夫や親や外部のサポートを得ていた。

「キャリア形成意識とキャリア選択」
キムスヒョン 労働班
お茶の水女子大学 ジェンダー研究センターRA
学歴、年齢、就業形態、職種をコントロール変数とし、学卒時のキャリア意識(11項目)がキャリアパターンに及ぼす影響をプロビット分析した。キャリアパターンは日本的雇用の側面を考慮し、同じ職場でずっと続けて勤務する「継続キャリア」と継続勤務するが転職経験がある「転職キャリア」、離職・無職経験があり、就業形態が変わる「変更キャリア」と分けた。分析結果、「長く勤務できそうである」「女性が活躍している」ことを考慮する女性は「継続キャリア」を選択することが統計的に有意な結果が出た。女性が働きやすいと思われる職場では結婚後でもキャリアの中断が少ないと思われる。今後キャリア要因以外に家族要因や未婚女性を含めた分析が必要である。


国際社会学会 家族研究委員会 ISA RC06 (CFR)京都セミナー2011
日時 2011年9月12日(月)~14日(水)
場所 京都大学時計台百周年記念ホール
概要 “Changes in the Japanese Employment Practices at Large Firms and Its Effect on Women Employment”
永瀬 伸子 労働班
お茶の水女子大学人間文化創成科学研究科 教授
1990年代から2000年代にかけて、仕事と家庭の両立施策の拡充が継続的になされてきたが、それでもなぜ日本女性の出産後の就業継続の増加が統計に見られないのだろうか。欧米の経験と照らすと驚くほど変化は遅い。本稿は、変化の遅さの理由を大企業の日本的人事制度の質的な聞き取りから説明を試みる。調査方法は、先進的大企業10社の人事部への人事制度および育児休業継続者の聞き取り、大企業6社における育児休業をとった女性個人とその上司、その同僚、および人事制度(人事部)の聞き取りである。日本的雇用慣行が持つ仕事の配分や昇進についての慣行が、女性にどのような意味を持つか、フォーマルな人事制度という側面、上司、同僚、本人とのインフォーマルな仕事の分け方やサポートの側面を、総合職、一般職、非正社員といった採用コースに分け議論した。

“How do husbands and wives of the dual-earner households create a coordinating mechanism of their work-life balance?”(ポスター発表)
林 葉子 家族班
お茶の水女子大学ジェンダー研究センター 非常勤講師
 共働き夫婦7組14名に対する半構造化インタビュー調査を実施した。夫婦間の仕事と家族役割の調整ダイナミズムを明らかにするために、家族システム論(神原文子、1999、『現代の結婚と夫婦関係』:家族成員個人は、家族システムと個人主体生活システムに所属しており、それらのシステムは個人の企業システムや地域や親族、支援ネットワークシステムの影響を受けている)を応用して分析した。その結果、共働き夫婦の家族役割分担調整ダイナミズムを3つのタイプに分類した。 1)夫主体生活システム主導型:夫が、自分の仕事と妻の状況を勘案しながら家族役割の分担を決定する。妻は決められた家族役割を遂行するために仕事を調整するタイプ
2)妻主体生活システム主導型:妻が、自分の仕事と夫の協力度を勘案しながら家族役割の分担を決定する。妻は決定した自分の家族役割分担を遂行するために、支援ネットワークの利用割合を調整するタイプ。
3)家族システム中心型:家族役割を協同して遂行するために、夫と妻が相談して、それぞれの生活システムでの役割を調整するタイプ。 家族システムにおける家族役割分担調整に対する性別役割分業規範の影響は少なくなっている。家族役割分担調整ダイナミズムにおける主導権は、夫婦それぞれの生活システムの重視度の強さによって決定される傾向があることが分かった。
“Job Characteristics of Married Couples and Women's Continuous Working” (ポスター発表)
山谷真名 労働班
お茶の水女子大学ジェンダー研究センター アソシエイトフェロー
永瀬伸子 労働班
お茶の水女子大学人間文化創成科学研究科 教授
 2010年3月に実施した現在働いている有配偶女性を対象としたWEBアンケート調査の結果を用いて、結婚時および出産前の時点での夫婦の仕事・職場特性と女性の正社員継続の関係を分析した。結婚を決めた頃には、妻の仕事・職場特性は、仕事のやりがいがあるほど、また、職場が育児をしながら働きやすいほど、その後の正社員継続確率は有意に高かったが、仕事の負担が重いほど、正社員継続確率は有意に低くなっていた。夫の仕事・職場特性については、「時間の融通のきく仕事」をしているほど、妻の正社員継続率は高くなっていた。出産前後時点での分析からは、結婚時と同様に、仕事のやりがいがあるほど、職場が育児をしながら働きやすい職場であるほど、正社員継続確率は有意に高くなっていることが明らかとなった。一方、夫が妻の仕事継続に反対しているほど有意に正社員継続率が低くなることが明らかになった。
“Work –Life-Balance, Job Conditions and Wives as Maternal Gatekeepers among Japanese Fathers with a Child under 12 Years of Age” (ポスター発表)
(12歳以下の子どもをもつ父親におけるワーク・ライフ・バランス、職場の状況と家庭における妻の育児・家事への促進について)
中川まり 家族班
お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科
ジェンダー学際研究専攻博士後期課程
 本研究では12歳以下の子どもをもつ715名の父親を対象に、職場の要因や妻からの育児や家事への促進によって、父親がより多くの子育て・家事への参加をするのかということを明らかにする。使用したデータは2011年2月に日本全国を対象地域として行った質問紙調査結果である。パス分析の結果、父親が仕事より家族を優先しようとする意識は、子育て・家事頻度を多くする。一方で職場での長時間労働は父親に子育てと家事との間の葛藤をもたらし、子育てや家事の頻度が少なくする。さらに妻が就業していることや妻から子育てや家事を期待されることによっても子育てや家事を促進していることが明らかになった。
“Fathers’ Perception concerning Their Work and Paternal Identity” (ポスター発表)
佐々木卓代 家族班
お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科
ジェンダー学際研究専攻博士後期課程
 本研究は、2011年2月12歳以下の子どもをもつ父親を対象に、日本全国において行った質問紙調査「ワーク・ライフ・バランスに関する調査」のデータを使用し、回答のあった715名の父親データによって研究を行ったものである。おもに、父親の職場要因や仕事に対する意識が、父親アイデンティティや子育て参加に対してどのように影響を及ぼしているのかを性別役割意識なども取り入れて検討を行った。パス分析の結果、父親の仕事満足度や成功意欲が父親アイデンティティを高め、仕事優先志向は低めるという結果が示された。また、父親アイデンティティは子育て参加を促進する要因であるが、父親の仕事優先志向は性別役割意識を高め、その性別役割意識は子育て参加を減じることが示された。さらに、通勤勤務時間が長いことは仕事に対する負担感を増すが、父親の職場環境の柔軟性は、父親の仕事満足度や意欲を高め、仕事に対する負担感を減じることが示され、父親の職場環境の柔軟性が子育て参加を高める間接要因として重要であることが示された。
日本人口学会報告
日時 2011年6月11日(土)・12日(日)
場所 京都大学
報告概要 妻の出生意欲と仕事・職場特性
山谷 真名 労働班
お茶の水女子大学ジェンダー研究センター アソシエイトフェロー
 2010年3月に実施した、現在働いている有配偶女性を対象としたWEBアンケート調査の結果を用いて、①女性の職場が「子育てしにくい職場」であることが出生意欲に影響を与えているか否か、②出生意欲があるにもかかわらず、まだ2人の子どもを持っていない女性とすでに2人以上の子どもを持っている女性の職場では、「子育てのしやすさ」が違うかどうかを検証した。「子育てしにくさ」の変数は、「休暇が取りにくい 」、「育児をしながら働くことは、周囲の人に迷惑だと感じる」、「長時間労働である 」に対し、「そう思う」5点、「まあそう思う」4点、「どちらともいえない」3点、「あまりそう思わない」2点、「そう思わない」1点の合成変数である。
 分析の結果、①「子育てしにくい職場」であることは、出生意欲に影響を与えてはいなかった。しかし、②現在子どもが2人の女性よりも、出生意欲があるにもかかわらず、現在子どもがいない女性と子ども1人の女性の職場の方が「子育てしにくさ」の点数が高かった。そのため、そのような職場環境が出産を躊躇してしまう原因となっているのではないかと思われる。少子化をくいとめるためには、女性従業員が子育てしやすいと感じられる職場にしていくことが重要であろう。
日本経済学会
日時 2011年5月21日(土)
場所 熊本学園大学
報告概要 「離職者の再就職の生存時間分析:1980年代後半から2000年代への変化」
永瀬 伸子 労働班
お茶の水女子大学人間文化創成科学研究科 教授
東京大学 縄田和満教授、三重大学 水落正明准教授との共著
 1988年から2008年まで総務省『労働力調査特別調査』および『労働力調査』の2月調査個票を用いて、離職者が再就職するまでにどのくらい時間がかかるか、生存時間分析を行った。学歴、年齢階級、離職理由、地域、有効求人倍率などはそれぞれ再就職までにかかる期間に影響を与えるが、これらを考慮した後に、時系列的に男性の就職確率が継続的に下がっていること、特に高卒男性にそうした傾向が顕著なことが明らかになった。なお景気回復を反映し2003年をボトムに若干の改善傾向がみられているが、これは非正社員就職を含めた場合であって、もし正社員就職に限定すれば、改善はみられない。雇用機会の悪化は女性以上に男性で大きい。女性も稼得役割をとれることが家計の構造としても必要になっているものとみられるが、女性の賃金が男性に近づく大きいシフトが起きた証左はいまだない。
 
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