お茶の水女子大学
日本文化研究の国際的情報伝達スキルの育成
コンソーシアム・シンポジウム一覧
第4回国際日本学コンソーシアム(平成21年度)

プログラム
予稿集
2009年12月15日(火) 12月16日(水) 12月17日(木)
開会式 日本語学・
日本語教育学
部会
歓迎
レセプション
日本文学
部会
歴史学
部会
日本思想学
部会
全体会議
全体パネル
ディスカッション
12月16日(水) 15:30~
歴史学部会
[司会] 小風 秀雅(本学)    [会場] 人間文化創成科学研究科棟6階 大会議室


 第4回国際日本学コンソーシアムの2日目午後に、歴史学部会が開催された。今回は5本の報告がなされたが、期せずしてすべてが近代に関わる報告であり、報告相互に意図せざる連続性や関連性が明らかになったことが、今回の最大の成果であったということができよう。

 口火を切られたアンガス・ロッキャー氏は、日本学が鎖国学となっている、というヨーロッパに於ける現状の問題点の指摘に始まり、日本学そのものの本質としての閉じた体系について、鋭い問題提起をされた。これまでも日本学が鎖国状態にあるという認識はたびたび示されてきたが、それは主に各国の日本学研究がそれぞれの国のなかで閉じていて、相互に交流をなかなか持てない(とくにアジアでその傾向が強かった)という点を指摘したものであった。そうした交流の欠如を何とか解消しようとして、本学では、夏に国際日本学シンポジウムを開催し、また4年前からさらに若手研究者の国際的育成をめざして、本コンソーシアムを立ち上げてきたのであった。

 そうした努力は、それなりに国際的影響力を持ちえたと考えているが、ロッキャー氏は、さらに深く日本学の本質的問題として、研究の現状における発展力の弱さ,発展性の乏しさについて指摘したのである。これが、ヨーロッパ独特の問題なのか、それとも日本研究の本質的な属性なのか、はたまた21世紀に於ける日本の国際的存在意義の希薄化に起因するものなのか、は今後さらに突っ込んだ議論がなされるべきであろうと思われる。

 氏の問題提起に関連して、筆者が思い起こしたことは、最近、中国や韓国での日本に対する関心が低くなり、留学先としても魅力が感じられなくなっていることに対する、大学や学内研究者たちの危機感の乏しさである。これまでアジアからの留学については、本学はとくに何もしなくとも多くの留学生が集まってきたが、今後は、意識して留学生に日本の学問の魅力を伝え、本学での研究への関心を喚起していかなければ、アジアからの留学生の受け入れに積極的な大学が数多く存在するなかで、やがて先細りになってしまうのではないか、という危機感は以前から感じていたが、今後世界の激動のなかで、日本のプレゼンスの相対的低下が必然的に起るとき、これまでのような受動的な体制では従来積み重ねてきた、日本に対する知の継受における有形無形の資産を維持することはできないのではないか、と最近強く感じている。本学なりの国際交流のあり方を、新たに構築していかなければならないであろう。

 ロッキャー氏の提言は、世界的な地域研究のあり方の変化のなかに於ける日本の魅力の減退にもつながる問題提起であり、日本側も本腰を入れてこれに応えていかなければならない、と感じたことを指摘しておきたい。

 続いて、ヤン・ハイニ氏は、主に在郷軍人会を採り上げ、明治期から昭和期にかけての日本社会の軍事化、軍国化の傾斜について論じられた。こうした問題は現在、日本では地域史のレベルで研究が進められているが、そうした問題について、かなり突っ込んだ研究がチェコで進められはじめているということは、日本学がすでに特別な領域ではなくなってきていることを窺わせる報告であった。また、トリスタン・ブルネ氏が、所謂昭和史論争を物語の視点から見直されたことは、日本の戦後歴史学におけるマルクス主義歴史学の時代的変化を論ずる場合、新たな視点を提供するものとして、興味深く伺った。ただ、両報告とも背景としての日本の時代状況に対してどのように認識しているのか、がやや曖昧であり、機会をみて是非この点についてのヨーロッパとの比較史的な議論を深めてみたい、という感想を持った。

 本学院生による2本の報告は、日本の対外関係についてであり、関心の方向は前記二本の報告とは反対であったが、ともに日本の国際的地位の変化を世界史的視野のなかでとらえようとする志向を明確にしたものであり、日本人による日本史研究という鎖国状態のなかで進められている研究ではないことは、ロッキャー氏の問題提起に対するひとつの回答の方向を示したものとして、評価できるように思われた。とくに和田氏の報告で国際連盟の常任理事国となった日本がヨーロッパ情勢にも件積極的に関与し、チェコスロバキアにも関係していた、という点は参加者に新鮮な印象を与えたと思われる。

 司会者があまり時間制限を気にせずに進行させたため、終了時間を大幅に超えた部会となったが、それだけに内容の濃いものとなったように思われる。とくに、日本学の鎖国状態の打破のためには何が必要なのか,を考える種を見つけた、あるいは手に入れたと感じたのは筆者だけではなかったように思われる。

 部会終了後に痛切に感じたことは、日本学の深化のためにはこれからが正念場なのだ、ということである。参加者がそれぞれ発見した種を育て、成果に結びつけていくためには、このコンソーシアムを何らかの形で継続していかなければならない。コンソーシアムに参加されているメンバー大学の協力を得て、ぜひこれからも何らかの形でこうした交流と討議の場を維持継続し、若手研究者が切磋琢磨していく環境を守り育てていかなくてはならない、と痛感した部会であった。
【文責・小風 秀雅】


  Angus LOCKYER (ロンドン大学SOAS)
      「鎖国学からの脱出―日本学から現在学へ」

  渡邊 千尋 (本学大学院生)  【予稿集pdf】
      「日清戦後の居留地政策―天津日本専管居留地を中心に―」

  Hajny JAN (カレル大学大学院生) 【予稿集pdf】
      「軍隊組織による戦前日本の軍国化」

  Tristan BRUNET (パリ第7大学院生、東京外国語大学大学院留学生)  【予稿集pdf】
      「昭和史論争の問題点」

  和田 華子 (本学大学院生) 【予稿集pdf】
      「ヴェルサイユ=ワシントン体制の誕生と日本」





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2009年12月15日(火) 12月16日(水) 12月17日(木)
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(2010/01/22up)