お茶の水女子大学
日本文化研究の国際的情報伝達スキルの育成
コンソーシアム・シンポジウム一覧
第4回国際日本学コンソーシアム(平成21年度)

プログラム
予稿集
2009年12月15日(火) 12月16日(水) 12月17日(木)
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日本文学
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12月16日(水) 10:00~
日本文学部会
[担当] 菅 聡子(本学)    [司会] 川原塚 瑞穂、武内 佳代 (本学大学院生)
   [会場] 文教育学部1号館1階大会議室
 第四回「国際日本学コンソーシアム」日本文学部会は、十一名の発表者を迎え、例年にもましての盛会であった。各発表者の発表内容については、別項に掲載されているので、ここでは、当日の発表・議論によって喚起された問題意識をめぐり、所感の形で述べることとする。

 今回の発表のひとつの特徴は、発表者の関心が日本の〈戦後問題〉に集まったことである。「もはや戦後ではない」との『経済白書』(1956)の一文は、実情をはなれ一人歩きした感が強いが(実際は、宮本輝『泥の河』が見事に形象化しているように、昭和30年代の日本は戦後状況のさなかにある)、あらためて、2009年の現在は〈戦後〉なのだろうか。言い換えれば、日本はいつ、どのようにして、真に〈戦後〉の終結を自信を持って宣言することができるのだろうか。

 申河慶氏による「大衆文化からみるBC級戦犯裁判と「責任」」は、1959年と2008年の二回にわたって制作された映画『私は貝になりたい』をめぐり、きわめてアクチュアルな問題意識を提出したものである。不明にして知らなかったが、氏によれば両作の脚本はともに橋本忍による。しかし、両作には根本的な差異が存在する。それは「戦争責任」の配置をめぐる問題である(詳細は氏の文章を参照されたい)。とすれば、ここでもっとも私たちが考えるべきは、なぜ、この二つめの『私は貝になりたい』が、日本の〈いま・ここ〉において再映画化されねばならなかったか、ということである。それはどのような日本の現在を表象し、どのような〈私たち〉の欲望を映し出すのか。

 2000年代に入り、〈大東亜戦争〉を〈愛のための戦いの物語〉として再解釈、というより、新たな語りの枠組みをもって再編する映画・テレビドラマが複数制作されたことは記憶に新しい。あからさまなナショナリズム昂揚の作品には、私たちは警戒心を抱く。とくに、若い世代の受容層は、その一部にネオ・ナショナリズムの傾向が見られるとしても、概して、ナショナリズムの昂揚には拒否感を表明するだろう。しかし、自分の手の中にいるこのいたいけな赤子、懐かしい年老いた母、愛するあなたを守るために、自分は戦わねばならない、と語られるとき、誰がそれに抗うことが出来るだろう。もっとも危険なのはセンチメンタリズムに満ちた(偽)愛の言説である。これらの言説は、言うまでもなく、自分の戦う相手にも同じく愛するわが子や母がいる、という自明の事実は巧みに隠蔽する。そして〈愛〉する人を守るため、というもっともシンプルにして説得力に満ちた思いとともに私は(あなたは)戦場に赴く。

 このような言説に、私たちはどのようにすれば対抗できるだろうか。その方法のひとつが、まさにこの「国際日本学コンソーシアム」であると私は思う。「国際日本学」をめぐっては、理論・方法において未だ試行錯誤の途上にある。学問としての成熟にはまだまだ時間が必要であろう。しかし、もっとも重要なのは〈眼〉である。自明と思われる事柄を多様な方向から見つめる視線、すなわち多様にして多元の問題意識にこそ、「国際日本学」をかかげ、「コンソーシアム」を開催する意義が存する。そしてさらに言うなら、私たちが生きる〈いま・ここ〉において、文学を研究する意義もまた、ここに存する。種々の(偽)愛の言説は、巧みな〈物語〉の姿で現れる。私たちを誘惑するそのような〈物語〉に抗うために、私たちは〈物語〉の構造を熟知せねばならない。

 研究と呼ばれる私たちの営為が、しかしつねに、私たちの〈いま・ここ〉を照射するものとなるとき、「国際日本学」はその真の一歩を記したことになるだろう。
【文責・菅 聡子】
【第一部】   [司会] 川原塚 瑞穂(本学大学院生)

  張 文聰 (国立台湾大学大学院生)  【予稿集pdf】
      「一葉作品における近代性への架橋―『十三夜』を通して―」

  顔 理謙 (国立台湾大学大学院生)  【予稿集pdf】
      「『青鞜』 初期における平塚らいてうの思想-「元始、女性は太陽であった」を中心に-」

  曾 玉蓉 (国立台湾大学大学院生)  【予稿集pdf】
      「森鷗外の歴史小説『最後の一句』における官僚批判の心理」

  范 淑文 (国立台湾大学)  【予稿集pdf】
      「王維の文人画世界の痕跡―漱石の題画詩を例として―」
 
  Martin TIRALA (カレル大学)  【予稿集pdf】
      「西洋は日本の美意識をどういう風に見ていたのか」






【第二部】   [司会] 武内 佳代 (本学大学院生)

  関根 英二 (パデュー大学 准教授) 【予稿集pdf】
      「読むことの実践―アメリカ日本文学会の現在―」

  申 河慶 (淑明女子大学校 助教授) 【予稿集pdf】
      「大衆文化からみるBC級戦犯裁判と「責任」」

  林 姿瑩 (国立台湾大学大学院生)  【予稿集pdf】
      「大岡昇平の作品における戦争批判の意味―「靴の話」「食慾について」の改稿をめぐって― 」

  金 宝栄 (淑明女子大学校大学院生) 【予稿集pdf】
      「三浦綾子『氷点』論―戦後状況における原罪意識の芽生え」

  池田 太司 (パデュー大学大学院生) 【予稿集pdf】
      「稲垣足穂の模型:呪物としての複製」

  川原塚 瑞穂 (本学大学院生) 【予稿集pdf】
      「津島佑子の文学―物語と記憶」






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(2010/01/05up)