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岡 加代

2025年5月20日更新

JSLの子どもの対のある自他動詞の産出─Monoとの差異・家庭使用言語との関係─  

岡 加代
修了年度 2024度
修士論文題目 JSLの子どもの対のある自他動詞の産出─Monoとの差異・家庭使用言語との関係─
要旨
(1000字以内)

本研究では,日本生まれまたは幼少時から日本に長期滞在している,日本語を第二言語とする(Japanese as Second Language,以下JSL)子どもが,対のある自他動詞を日本語モノリンガル(以下Mono)と同程度に正確に使いこなせるかどうかを,動画を用いた産出テストにより検証した。研究課題として,(RQ1)JSLの対のある自他動詞産出得点はMonoと異なるか,(RQ2)JSLの対のある自他動詞産出得点にはどのような背景が関係するか,(RQ3)JSLの対のある自動詞得点と他動詞得点は異なるか,(RQ4)JSLにとっての対のある自他動詞の難易度は形態的特徴に由来するか,の4つを設定した。

 調査対象者は,公立小学校に通う小学4〜6年生で,日本に5年以上滞在するJSL(n=39)と、比較対象のMono(n=35)である。対象となる動詞は,Monoが母語習得過程で身につける,Monoにとっては「簡単な」対のある自他動詞14対28語である。自他動詞タスクのほか,格助詞タスク,フォローアップインタビュー,JSLの背景情報調査も実施した。

 まず (RQ1)MonoとJSLの対のある自他動詞産出得点に差があるかどうかを調べたところ,Monoの得点はJSLの得点よりも有意に高かった。(RQ2)対のある自他動詞得点とJSLの背景の関係の分析では,格助詞の習得が有意な予測因子となり,自動詞得点にのみ,家庭の日本語使用の要因が関係していた。家庭で日本語を使用するJSLは日本語のインプットが多いことが考えられ,インプット量と自動詞習得との関連が示唆された。そして(RQ3)JSLの自動詞得点と他動詞得点に差があるかを調べたところ,他動詞得点は自動詞得点よりも有意に高かったが,その差は家庭で日本語を使用していないJSLにのみ見られた。(RQ4)JSLにとっての自他動詞の難易度が,動詞の形態的特徴に起因するかどうかを検討した。語根に続く形により動詞を分類し,形態的な誤答の出現率を分析した結果,自動詞あるいは他動詞の典型とみなせる形態は習得がしやすく,そうでないものは習得が難しいことが明らかになり,自他動詞の難易度には形態的特徴の影響が見られた。

 以上から,日本生まれまたは日本に幼少時から日本に長期滞在しているJSLであっても,対のある自他動詞を,必ずしもMonoと同程度に正確に使いこなしているわけではないことが明らかになった。とはいえ,JSLの中にも個人差が見られ,その個人差は,格助詞の習得,家庭の日本語使用の要因と関係が深いことが明らかになった。対のある自他動詞の難易度については,動詞の形態的特徴の影響を受けていることがわかった。

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