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2025年5月20日更新
修了年度 | 2024度 |
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修士論文題目 | 日本語学習者による自動詞使役形と他動詞の使い分けについて―中国語母語話者を対象として― |
要旨 (1000字以内) |
日本語の自動詞使役形と他動詞は形態的にも意味的にも非常に似ているため、学習者にとって難解な文法項目であると言われているが、これに関する学習者のデータを扱った調査は管見の限り行われていない。学習者を対象とした使役習得の研究の中、特にCJLを対象とした誤用観察の研究がよく行われていたが、自動詞使役形と他動詞の混同による誤用はあまり見られなかった。本研究はこれらを踏まえ、上級のCJLを対象として、学習者の視点から実際に自動詞使役形と他動詞の使い分けが問題になるかを明らかにすることを目的として調査を行った。 RQ1は「CJLによる自動詞使役形と他動詞の使い分けは、種類によって難易度が異なるか」であった。これについて、まずインプットの観点から、自動詞使役形も他動詞も使える文は、学習者が受け取る自動詞使役形と他動詞の区別に関するインプットが部分的に重なり合って、不明瞭なものであるため、習得が難しいと予測した。また、母語転移の観点から、日本語は他動詞を優先的に使う傾向があるのに対して、中国語では“让/叫”などの使役マーカーを付ける傾向があるため、母語話者に比べ、自動詞使役形への容認度が他動詞よりも高いと予測した。結果は仮説の通り、自動詞使役形と他動詞両方が使われる文における使い分けが難しいことが明らかになった。そのうち、他動詞文は自動詞使役文より難しいことが分かった。 また、SQとして「CJLによる自動詞使役形と他動詞の使い分けは、被使役者の有情性によって難易度が異なるか」であった。これに関して、日本語の教材ではほぼ有情使役のみ扱っているため、被使役者が無情名詞の場合、習得が難しいと予測した。結果、他動詞しか使えない文では、被使役者が無情名詞の方が習得されている。自動詞使役形と他動詞両方とも使われる文では、他動詞文は被使役者が無情名詞の方がより習得されているが、自動詞使役文は有情名詞の方がより習得されている。 RQ2は「CJLによる自動詞使役形と他動詞の使い分けには、習熟度による差異が見られるか」であった。これについて、自動詞使役形と他動詞の両方が使われる文は区別に関するインプットが不明瞭であるため、そのニュアンスの違いも微妙であり、習熟度が上がっても習得が難しいという仮説を立てた。結果は仮説の通りであった。 以上の通り、自動詞使役形と他動詞の使い分けはCJLにとって難しいことが明らかになった。特に自動詞使役形と他動詞が両方とも使える文は上級になっても依然として難易度が高かった。そのうち、被使役者が無情物名詞の自動詞使役文は習得し難いことが分かった。 |