お茶の水女子大学
日本文化研究の国際的情報伝達スキルの育成
コンソーシアム・シンポジウム一覧
第11回 国際日本学シンポジウム (平成21年度)

(1)
プログラム
講演・発表要旨
7月4日(土) Session1
「日本近世港町の社会・文化構造」
7月5日(日) Session2
「日仏交流の中のテキスタイル」
(2)
開会式
研究発表
(3)
パネルディスカッション
茶話会
(4)
公開講演会
研究発表
(5)
パネルディスカッション


 2009年7月5日(日) Session2 
「日仏交流の中のテキスタイル ~明治時代から今日まで~
-技術、デザイン、コレクション-」
(5) パネルディスカッション


セッションII「日仏交流の中のテキスタイル」
パネルディスカッションの報告
[司 会] 徳井 淑子
 本シンポジウムの目的は、日本とフランス(あるいはヨーロッパ)の交流のなかで、テキスタイルがどれほどの文化的役割を果たしたのかを問うことであった。東西のテキスタイルが、ときどきの社会・経済を背景とし芸術諸領域においてどのように展開し、相互に受容されたのか、講演者および研究発表者から最新の研究調査が報告され、染織・服飾史研究者にとっては特に多くの情報と新たな視座を与えられる会合であった。報告の最後に行われたパネルディスカッションでは、会場から広範な質問を受け、質疑を通してテキスタイルの社会・文化表象としての意味が明らかになるとともに、コレクション収集に関わる諸問題が浮き彫りにされ、意義深い研究会となった。

 深井晃子氏による講演は、西洋における日本服飾の受容を体系的に示し、造形原理の変更を迫る影響を及ぼしたこと、その背景に政治・経済など重層的な日本への関心のあったことを指摘するものだった。ゆえにパネルディスカッションでの質問は服飾造形の問題に集中し、ジャポニスムの介在によるヨーロッパの身体意識の変化、あるいはポワレやヴィオネの造形性との関わりに議論が及んだ。同じ19世紀後半の事象として、廣瀬緑氏からは、ミュールーズ染織美術館蔵の日本様式の織物図案の典拠が日仏の記録によって裏付けられること、また日本に向けてこれらの織物が輸出されたという興味深い報告がなされたが(筆者が代読)、氏の来日がかなわなかったため、質問を受けることができなかったのは残念であった。装飾意匠の問題は、さらに高木陽子氏の染型紙に関する調査と円谷智子氏のスカーフに関する調査によって新たな事象が加えられた。染型紙が観賞用として西洋で受容され、工芸・建築の装飾意匠として展開したことを明らかにした高木氏の報告には、日本から流出し、ヨーロッパで染型紙のコレクションが創設された経緯、あるいは日本における収蔵を問うものが多かった。一方、パリのガリエラ美術館蔵のスカーフを対象に、デザインの日仏比較を行い、プロパガンダとしてのスカーフの意匠を明らかにした円谷氏の報告には、プロパガンダ・デザインの生成の問題、風呂敷の意匠との関連、さらに横浜スカーフの織の技法に質疑が及んだ。ギメ美術館のオーレリー・サミュエル氏からは、クリシュナ・リブー・コレクションのなかで600点を占める日本の染織品について、遺品の歴史的背景はもちろん、リブー氏の織物研究に対する哲学や美術館の活動にいたるまで、行き届いた紹介が行われた。袱紗、型紙、袈裟、内掛から修験者の鈴懸やアイヌのアットゥシまでを含むこの広範なコレクションについては、その収集規範、あるいは遺品の使用者の記録による同定など美術館の調査について質疑が行われた。

 パネルディスカッションを通して、本シンポジウムの二つの意義がより鮮明になったと思われる。一つはコレクションの問題である。染織遺品や染型紙など、日本の文化財の豊かなコレクションがヨーロッパに存在し、またギメ美術館、ミュールーズ染織美術館、ガリエラ美術館などのテキスタイル・コレクションの存在が再認識されるとともに、コレクションの収集規範の問題が浮上したことは成果であった。二つ目は、当然のことながら異文化接触の問題にジャポニスムが好事例となることを確認できたことである。異なる文化が接触することにより新しい文化が創造されることは言うまでもないが、ジャポニスムはそれを検証するためのきわめて良い事例である。日本では捨てられる型紙が鑑賞として訴えるちからをもち、日本のモードは新たなヨーロッパ・モードを生み出す原動力となった。ローカルな文化がグローバルな影響を及ぼしうる可能性を、日仏交流という枠のなかで、しかもテキスタイルという対象に絞りながらも、本シンポジウムは明快に教えてくれたように思う。リブー氏が、ある文明を知るには、そこから生み出された織物を調査することに勝るものはないと語られたというサミュエル氏の報告は示唆多い。

 最後に、テキスタイル研究の一端を担うものとして、このようなテーマを企画くださったロール・シュワルツ=アレナレス先生と秋山光文先生をはじめ、比較日本学教育研究センターのみなさまに感謝を申し上げ、またパネルディスカッションを支えてくださった大学院教育改革支援プログラムのみなさまと、通訳を担当くださった梶浦彩子氏にお礼を申し上げる。


司会:徳井淑子(本学)より挨拶


































(1)
プログラム
講演・発表要旨
7月4日(土) Session1
「日本近世港町の社会・文化構造」
7月5日(日) Session2
「日仏交流の中のテキスタイル 」
(2)
開会式
研究発表
(3)
パネルディスカッション
茶話会
(4)
公開講演会
研究発表
(5)
パネルディスカッション