お茶の水女子大学
日本言語文化学研究会
 

  【第38回 日本言語文化学研究会】

  【終了報告】

  ポスター発表  
 

       

  

  

 
     

  

  分科会  
 

   

    

 

 
     

   

 

  交流会  
 

 

 

 
     

 

【各分科会の様子】

◆言文・第1分科会の様子
                 (司会:原田三千代、記録:楊峻)

第一分科会では以下の3件の発表が行われました。

◆方頴琳(お茶の水女子大学大学院)「中国国内での接触場面における日本語学習者のコミュニケーション・ストラテジー―学習暦の違いに着目して―」:
中国国内での日本語学習者の学習暦の違いによるコミュニケーション・ストラテジーの特徴を解明することを目的として、以下の課題を設定した。@学習暦によってコミュニケーション・ストラテジーの使用頻度に差があるか、A学習暦によってコミュニケーション・ストラテジーの特徴が見られるか。コミュニケーション・ストラテジーを分類し、分析した結果、一、二年生と三年生の間のコミュニケーション・ストラテジー使用頻度に有意差があることが検証された。そして、談話上に現われた意味伝達問題の属性とコミュニケーション・ストラテジーの種類、使用頻度から学年全体と各学年のコミュニケーション・ストラテジー使用特徴を検討したところ、学年が上がるとともに語彙レベルの問題を解決するためのコミュニケーション・ストラテジーの多用から、文、コンテクストレベルの問題を解決するためのコミュニケーション・ストラテジー使用へと推移していく傾向が見られた。
会場からは以下のような質問があった。
・JSL環境とJFL環境の接触場面におけるコミュニケーション・ストラテジー使用が異なると述べたが、中国だからこその接触場面の特徴は何か→日本での接触場面においては、日本語レベルが上がることにつれてコミュニケーション・ストラテジーが多様化していくが、中国での接触場面においては、一、二、三年生が使用したコミュニケーション・ストラテジーはほぼ同じ種類である。
・ジェスチャーはどのように使われていたか。→一、二、三年生はほぼ同じ傾向。語彙が分からないときや、強調したいことがあるときに使っている。
・なぜ日本での接触場面に比べて中国での接触場面で多様なコミュニケーション・ストラテジーが使われているか→中国で日本人と接触するチャンスが少ないので、学習者は日本人と接するチャンスを非常に大切にして一生懸命コミュニケーションをとろうとしていると考える。

◆劉娜(お茶の水女子大学大学院)「中国人学習者のピア・レスポンスに対する意識―活動後の振返りシートから見た場合―」:
中国の日本語学習者の主体性を育成するために、日本語作文教育に新規の活動としてピア・レスポンスを導入することが考えられる。ピア・レスポンスを授業で応用する際の示唆を得るため、ピア・レスポンスを経験した中国人学習者はピア・レスポンス活動をどのように受け止めているかを課題とした。活動後の振返りシートの記述をカテゴリー化して、ピア・レスポンス活動の意義(T.自分自身の能力の向上、U.他者の存在による学び、V.情意面の満足感)と課題(T.日本語正確さに対する心配、U.活動デザインに関する問題点、V.日本語で自己表現することの難しさ)を見出した。
会場からは以下のような質問があった。
・主体性を重んじるために、ピア・レスポンスを導入したが、導入したピア・レスポンスは学習者の主体性の育成の面においてどんな成果があったか。→主体性は自律的に勉強できること、学習者同士間の相互作用を通して勉強を進めることだと思う。今回のデータから、学生たちは自ら質問したり、自分の考えを述べたりすることが見られたので、主体的に勉強しているといえる。
・グループを編成する時に、どんな工夫したか。→グループ編成している際に、日本語能力と人間関係が重要なので、今回はクラス長にグループを編成してもらった。
・中国でピア・レスポンスを実施する際に、難しい点は何か→学習者は正確さに対する心配がある、教師への依存心が強い。
・1週目のピア・レスポンスを導入した時に、「全体共有」のステップで何を共有したか→ピア活動でどんなことをしたか、どのような問題があったかという、ピア・レスポンスのやり方を共有した。
・学習者は、ピア・レスポンス活動は時間がかかるから、作文を書く回数が少なくなると答えていたが、いつものクラスではどうか。→従来のクラスでは、毎週1本の作文を書く。
・学習者は自分たちでエラーを直れないと言ったが、実際の産出はどうだったか。→教師添削群と比べて、ピア・レスポンスは劣ることはなく、仲間からのコメントが有効であった。しかし、学習者同士で確かに直せるところと直せないところがある。



                               楊峻(北京語言大学)

 

◆言文・第2分科会の様子
                (司会:野々口ちとせ、記録:金井淑子)

第2分科会では、以下2件の発表が行われました。

◆西岡あや氏(お茶の水女子大学大学院修了生)による「言語少数派高校生の日本及び自己の捉え方はどう変わるかー文化祭展示への日本人フィードバックに注目したM-GTAによる分析―」では、以下の内容が報告されました。
 言語少数派高校生の全人格の育成を視野に入れた日本語教育と、学校教育における日本語教室の新たな可能性の探求を目的として、言語少数派高校生(韓国・中国、各1名)の切実な問題を文化祭で展示発表するという教育実践を行った。そして、発表準備活動の教室談話と、発表前後に行ったアンケートをデータとして、生徒が自己及び日本社会をどのように捉えていたかをM-GTAにより分析した。その結果、発表前は、日本のマスコミと日本社会を同一視し、日本のマスコミの母国に対する否定的な評価に規定されていた受け身的な自己が見られたが、発表後には、日本人からのフィードバックにより、マスコミ依存から脱却した主体的な自己(自文化・日本社会に客観的な視点をもつ)、ホスト社会に肯定的な自己(母国文化の媒介者・発信者としての存在意義)が捉えられた。

発表後のコメント・質疑などは以下の通りでした。
・高校生2名(韓国人と中国人)の母国と年齢が異なるが、同じ教育実践で同じような意識の変容があったのか、最初は違ったのではないか、発表後も二人の違いがあるのでは?
→中国人生徒は得意な分野(写真)の企画に積極的で、韓国人生徒(演劇部)は発表が苦手だが、年下なので同じクラスの先輩に従っていた。性格、趣味の違いは参加度に反映していた。
・結果図について:在籍校への信愛感はあるのに、やりたくないのはなぜか?学校生徒の
矛盾している気持ちは?
→やりたい気持ちはあるが恥ずかしい目立ちたくない気持ちがある。国際高校なので、第
二外国語で中国語を履修する生徒が多く、自分の母語を他の生徒が学んでいることに親し
みの基盤はあるが、自分が表立ってやることには抵抗がある。
・この結果図の中で伝えたいことと、展示テーマのズレを具体的に説明してほしい。
→生徒はマスコミ報道(餃子問題)に傷つき、そこから展示で伝えたいこととして、マス
コミに対する怒りを伝えようと考えたが、まとめ方が難しかった。そこで、自分の国の人々
の生の声を伝えるという方向に変更し、母国の紹介として若者の音楽・美術などを発信す
ることにした。
・ホーリステック教育理論と本実践との関連は?
→日本語教育への応用:縫部7つのうち該当するのは5つである。
・自己開示の活動は生徒が傷つく可能性も考えられるが、それをどのように考えているか?
人により目立ちたい人と、そうではない人がいるがそれをどう思うのか?
→無理にやるのはよくないので様子を見ながらだったが、やりたくない生徒に合わせた。
 
◆木原直子氏(早稲田大学大学院人間科学研究科)による「学習者の情意面を意識した外国語教育―台湾日本語専攻者向け会話授業のアクション・リサーチ」では、以下の内容が報告されました。
教師が、学習者の情意面に効果があると認識していることを会話授業で実践(半年以上)し、学習者へのアンケート(クローズ質問)調査で、学習者の認識が教師の認識と類似しているかどうかを確認した。実践は、「授業後の会話」、「日本語名」、「ビデオ教材の使用」の3点である。一連の調査の結果、教師の学習者の情意面にも気を配る態度が、学習者の情意面に正の影響を及ぼすことが明らかになった。

発表後のコメント・質疑などは以下の通りでした。
・教師のふるまいが学生同士の関係に影響を与えることはなかったか?  
→教師は発言のチャンスや情報(例えば、机間指導中に聞かれた質問の答え)が全員に行きわたるよう、公平をこころがけた。
・オーセンティックの教材として、なぜNHK「エリンが挑戦!日本語できます」を使うの
か?
→この番組自体は日本語教育用にデザインされたので純粋なオーセンティック日本語教材
ではないが、実際に用いた部分(「おそばを」食べよう)は「やってみよう」の部分で、外
国人がそば職人からそばの食べ方を教えてもらい、実際に食べてみるというコンテンツで
ある。このコンテンツから日本語を学ぶという目的ではなく、素材として用い、このコン
テンツを話題として、おそばについて会話したり、食べ方の順序について話し合う為の「話
題」として用いた。この話題に関して、授業でインターアクションすることが重要であり、
学習者が個人でできないことを、教室でやることに意義がある。受け身でテレビを見てい
るのとは異なり、会話形式で素材として発展させることでオーセンティック教材と呼ぶ。
・日本語学科はあまり日本語名をつける習慣がないのに、なぜ日本語名をつけることを考
えついたのか?
→ある時、学習者から「日本語名をつけてください」と頼まれたのが、名前に関して意識
し始めるきっかけであった。その後、あるクラスで学習者に日本語名があるか聞いてみた
ところ、全員もっていたので、その学習者を日本語名で呼ぶようにした。日本語名で呼ば
れている学習者の日本語に対する認識が、そうでない学習者と異なるように感じられたの
で、学習者の認識も教師の認識と類似しているのか調べてみたくなった。
・台湾の英語学習希望の学生は、その後日本語に対する興味を持ったか?木原氏はどのよ
うに感じたか?
→分析はしていないが、日本語に興味を持っていない学習者に名前など表面上のことをし
てもあまり意味がないと思われる。日本語に対する動機づけがなされていない学習者に関
しては、個人ベースで話し合い動機づけることが必要だと思われる。
・会話の授業での情意面を取り上げているが、情意面を意識した作文ではどうか?他に応
用していけるのか
→作文は学習者との交流が大切である。教師がいかに学習者の自律を促すかが大事で、興
味のある題材を選ばせる。

                          金井淑子(中国帰国者センター)

 

◆言文・第3分科会の様子
                (司会:古市由美子、記録:田代ひとみ)

第3分科会では、以下2件の発表が行われました。

◆三輪充子(東京医科歯科大学国際交流センター)・徳永あかね氏(神田外語大学留学生別科)・張瑜珊(お茶の水女子大学大学院)による『在台湾日系企業の日本人駐在員は業務遂行上においてどのようなコミュニケーション・ストラテジーが必要だと認識しているか—国際ビジネスコミュニケーションで求められている日本語の視点から—』では、以下の内容が報告されました。
 台湾に進出した日系企業の駐在員が現地社員との間でどのような折り合いをつけて業務を遂行していくのかインタビュー調査を行い、PAC分析の技法を用いて、2名の日本人駐在員(A氏、B氏)の態度構造を分析した。A氏の結果では、台湾人社員とのコミュニケーションが十分成立していないと認識されており、その原因を相手に求めていると解釈された。B氏の結果では、業務遂行上のコミュニケーションを「共通のことばをつくり出す」ことだと考えていることが示され、相手の視点に立ち、言葉だけに頼らず視覚に訴えるなどの工夫を行っていたことが明らかになった。両氏を比較検討すると、A氏の、相手の無理解に非を見いだす態度がコミュニケーションの不成立を導き、B氏の、無理解であることを前提に共通理解の探る態度がコミュニケーションの成立を促すことが窺われた。B氏からは日本語母語話者と非母語話者がコミュニケーションを行う場で創造する共生日本語への指向が見いだされたが、これを涵養するには日本人側の、日本語を学ぶ姿勢が必要であろう。
発表後のコメント・質疑などは以下の通りでした。
・A氏とB氏の勤務する会社は台湾で創業何年目か、資本比率、社員数と日本社員の割合について知りたい。
—どちらも台湾法人の会社で、A氏の会社は台湾人・日本人とも多い。B氏の会社は数名の駐在員と台湾人だけ。他については手元にデータがない。
・A氏とB氏の態度構造の違いを生み出した原因は?
—いくつかあるが、台湾とかかわった年数や現地法人の事務所の在り方、社内・社外の環境的要因が考えられる。
・A氏が駐在2年目、B氏が4年目という点から意識の違いがあるのか。
—葛藤の時期にあるA氏だが、4年駐在してもB氏のようになるとは思えない。だからこそ何らかの介入が必要と考えられる。

◆曹美蘭氏(中国佳木斯大学日本語科)による『日本技能者センターから中国の大学に派遣される日本人教師に対する調査研究』では、以下の内容が報告されました。
中国の大学に赴任する日本人教師のうち、「日中技能者センター」から派遣された日本人教師15名を対象に、中国での日本人教師の実態についてアンケートによる調査研究を行った。目的は、@中国の日本語教育現場における日本人教師を取り巻く諸問題とその原因を探る、A問題の改善策を探る、の2点である。アンケートでマイナス評価項目となったのはスケジュール、使用教科書、学生のカンニングである。これらは現地の関係者とのコミュニケーション上の問題ではなく、中国の組織によるもので、日中社会的文化的違い、特に管理組織の違いから来るといえる。教科書の問題は解決の可能性はあっても時間がかかり、カンニング現象は受験政策・教育加熱から起きた問題で、短時間では解決できないと考えられる。
発表後のコメント・質疑などは以下の通りでした。
・日中技能者センターとは。日本人教師の以前の担当科目は何か。スケジュールはカリキュラムと同じか。カンニングは大学のレベル差によるか。
—日中技能者センターは財団法人で、中国国家外国人専門家局を通じて各大学に教師を派遣する。日本人教師は8割以上小中学校の教師で国語教師に限らない。スケジュールはカリキュラムとは違い、大学の年歴である。カンニングは、都市部の重点大学とランクが下の大学とでは事情が異なる。親の期待から学費を4倍ぐらい払って、大学に入る資格のない学生が入ってしまう。勉強の習慣がなく、定期試験を受けるため1/3近い学生はカンニングをする。勉強ができる学生も奨学金を得るためカンニングをする。
・赴任教師の担当科目と使用教科書は。
—教科書は当大学作成の『基礎日本語』、3,4年精読は上海外語大の『日語』(旧版)を使用。その古さが指摘される。
・日本で2週間の研修後、日本人教師は中国の大学で何を担当するのか。
3,4年の中級以上の精読授業。その他、日本文学、作文、文化など。
 
                                                    田代ひとみ(東京外国語大学)


 

◆言文・第4分科会の様子
                (司会:田崎敦子、記録:半原芳子)

第4分科会では以下2件の発表が行われました。

◆吉田好美氏(お茶の水女子大学大学院)「勧誘場面の断りに見られる「弁明」について−日本人女子学生とインドネシア人女子学生の比較−」:
 日本人とインドネシア人の断りのコミュニケーションの差異を明らかにするため、双方の、勧誘に対する断り発話における「弁明」及び「不可表現」の使用頻度と、断り発話に対する勧誘者の「言語行動」についてどのような違いがあるかを探った。分析データは、日本人女子学生同士とインドネシア人女子学生同士のロールプレイ会話を使用した。分析の結果、日本人女子学生は「弁明」を使用して断る傾向があること、インドネシア人女子学生は「不可表現」を使用して断る傾向があることが分かった。断り発話に対する勧誘者の言語行動については、「弁明」のみを使用した断り発話を日本人女子学生は「受諾」するのに対し、インドネシア人女子学生は「再勧誘」する傾向が強いこと、また「不可表現」を使用した断り発話についても日本人女子学生は「受諾」、インドネシア人女子学生は「再勧誘」する傾向が示された。
 会場からは以下のような質問があった。
・インドネシア人女子学生の場合、弁明であっても不可表現であっても再勧誘するのであれば、いつ納得するのか。→基本的に何回か交渉してから受諾するという傾向が見られる。
・ロールプレイは自然な会話と異なるため、ロールプレイの影響が結果に反映したと考えられないか。→自然な会話を分析することは望ましいが実際は倫理的な課題もあり難しい。双方ロールプレイに慣れていない点で条件は同じであり、そうした状況において差が確認されたことは、両者の断りのストラテジーの違いを示すものと言える。


◆宇津木奈美子氏(お茶の水女子大学大学院生)「地域の日系南米人の教科学習支援に対する意識形成のプロセス−国語教材文の翻訳活動を通して−」:
 外国にルーツを持つ子どもと同じ母語を持つ地域の母語話者が、子どもの学習支援(母語支援)においてどのような関わり方ができるかを探るため、実際に中学の国語教材文の翻訳を行なった日系南米人支援者2名にインタビューを行ない、彼らの翻訳支援に対する意識形成のプロセスを探った。結果、自らの翻訳が子どもの教材理解の助けになっていること、また翻訳作業を通じて自分自身の日本語学習に役立っていることが翻訳支援をする上での彼らの原動力になっていることが確認された。また、翻訳した教材文が学校の授業で十分に機能し、自分が子どもに貢献できる存在として認められているという実感が達成感となっていたこと、そしてこの翻訳支援においては日本人コーディネーターのサポートが不可欠であったことが示された。以上の結果を踏まえ、地域の母語話者が子どもの教科学習支援に関わる豊かな人的資源であることを提示した。
 会場からは以下のような質問があった。
・具体的にどのような経緯で2名が翻訳活動に関わるようになったのか。→自分の知人や、知人の紹介等で。
・日本人コーディネーター(=発表者)と支援者で具体的にどのようなやりとりがあったのか。→日本語の教材文に主語を入れてリライトしたり、古典など文化的な背景知識が必要なときにサポートしたりした。
・支援者の意識形成のプロセスを見たのはなぜか。→2名とも次第に翻訳活動に熱心に取り組むようになっていった。そのプロセスを見ることで、地域の母語話者支援者が子どもの学習支援に関わっていける環境を創るためにどのような働きかけが必要か具体的な示唆が得られると考えた。
 


半原芳子(AOTS横浜研修センター)

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