◆言文第一分科会の様子 (司会:原田三千代・記録:影山陽子)
第一分科会では以下の3件の発表が行われました。
◆堀川有美氏(国際交流基金日本語試験センター)・徳間望(韓国外国語大学校)「教室内評価としてのグループ・オーラル・テストの実施報告−評定者間信頼性と受験者の反応−」:
他者とのコミュニケーション能力育成を目標とした日本語会話クラスにおいて、到達度テストとして学習者同士の話し合いを評価するグループテストを実施した結果について、評定者間の信頼性と受験者の反応の2つの観点から報告した。教室内評価としてのグループ・オーラル・テストの実施上の問題点を探ることを目的とし、1)グループテスト受験時の受験者の反応はどのようなものか。2)コース担当教師と、他の日本語教師の評定結果にちがいはあるか、の二つが研究課題であった。結果は以下の通りであった。1)受験者の反応は、「面白い」「気に入った」「他の日でも同じ結果がでるだろう」「話す能力を正確に評価できると思う」など大変好意的であり、テストの手続きに不満がないことがわかった。2)コース担当教師のほうがコース担当外教師よりも平均点は高かったが、平均の差の検定を行ったところ有意差は得られず、評定の厳しさには違いがないことがわかった。相関分析でも、中程度の相関があった。
会場からは以下のような質問があった。
・クラス内でペアワーク、グループワークは行われていたのか。評価項目は→似たようなテーマで、グループワークをやっていた。しかし、テストでの評価項目はクラスでは見せていない、あとから作製したため。
・テーマを教師が選んだのはなぜか。→他のグループに問題が漏れないため(重なりを防ぐため)→もっとたくさん用意して学生が選んだほうがよかったかもしれない。
・評価項目から内容の深さを外したのはなぜか。→あえて外したのではなく、今期のクラスの目標に合わせたら今回のような実施になった。
◆鈴木(清水)寿子氏(お茶の水女子大学大学院生)「日本語教師のインターネット作文添削への態度−PAC分析による検討−」:
作文添削を教師と学習者にとってよりよい教育の実現の場にするために、添削活動の背景にある添削者の実践知、とりわけ学習者に対する認識を明らかにすることを目的とした。分析対象はボランティア作文活動団体「さくぶん.org」の実践研究グループに所属する添削者AとBを対象とし、分析方法としてPAC分析を用いた。PAC分析の結果、Aの態度構造としては、@外側への配慮、A言語面・内容面への対応、B学習者への理解、C想像力によって学習者につながる、というクラスター名があらわれた。Bの態度構造としては、@迷いと揺れ、A想像して選ぶ、B学習者が中心、Cやりとりの継続、D添削者の不安、E添削者の人間的学び、というクラスター名があらわれた。AとBの共通点として(1)添削への葛藤、(2)学習者の表現を最重視、(3)学習者の世界との交差、(4)添削活動の俯瞰的理解が確認された。今後の課題としては、学習者側が添削をどのように認識しているのか、また、さくぶん.org以外の通常の教室で行われる添削での添削者の態度構造の比較が挙げられた。
会場からは以下のような質問があった。
・さくぶん.orgとして添削者になんらかの指導や取り決めなどはあったか。→そういった具体的な指示は特にない。
・PAC分析のクラスターに対する抵抗感などはあったか。→一人はPAC分析を知っていた。項目について「なぜここにはいっているのか」といった疑問が出たことはあった。基本的に対象者と一緒に分析をしていくが、PACの分析の仕方も研究者によって違いがある。
◆楊峻(北京語言大学)「精読授業にグループワークを導入する可能性−会話活動と翻訳活動における実態の比較を通して−」:
中国の大学の日本語教育では「精読」といわれる文法学習を中心に据えた教師主導による一斉授業が各学年に主幹科目として設置されている。しかしながら、こうした授業のあり方に改善を求める声もある。本研究では、精読授業にグループワーク(以下GW)を取り入れる際の可能性と問題点を明らかにするために、1)GWを行う際に、精読受講生はどのような自発的な問いを発するか。2)その自発的な問いに対してどのように解決したのか。この2つを研究課題とした。授業実践として、精読授業の応用練習の時間にGWを導入し、会話活動と翻訳活動を行った。データとしては第三回目の授業をとりあげ、7グループの会話活動と翻訳活動におけるやりとりを録音し、文字化したものを用いた。補助資料として、受講生が書いた授業に対する感想およびフォローアップインタビューも用いた。各結果から以下のようなまとめが出された。@GWを取り入れた場合、受講生に自らどのように言葉を使うか考える機会を与えるため、創造的な言語使用の場を提供することができる。AGWを取り入れることで、人的リソースが増え、学習者同士の学びあいが生まれやすくなる。BGWを取り入れると、教師はサポート役となり、学習者の主体性が前面に出る。また、課題としてタスクデザインや内容を吟味する重要性や、活動の目的と意義を明確に受講生に伝える必要性なども示唆された。
会場からは以下のような質問があった。
・会話活動に対する受講生からの評価が、翻訳活動に比べて、否定的であったという結果だが、会話に慣れていないからか。また、教師はどうすればいいのか。→会話活動はやっていて慣れている。教師からの訂正が難しかった。翻訳活動に比べて即時性が求められるから。
・まとめのAに「受講生同士の学びあい」という概念が出ているが、どんな定義か。→
一人ではできないことが複数人だったらできることと定義したい。また、人的リソースとして教師と仲間を学習者が使い分けていることも感じられた。
影山陽子(日本女子体育大学)