お茶の水女子大学
日本言語文化学研究会
 

  【第37回 日本言語文化学研究会】

  【終了報告】

  ポスター発表  
 

       

  

  

 
     

  

  分科会  
 

   

    

 

 
     

   【各分科会の様子】

◆言文・第1分科会の様子
                 (司会:原田三千代、記録:影山陽子)

◆言文第一分科会の様子 (司会:原田三千代・記録:影山陽子)

第一分科会では以下の3件の発表が行われました。

◆堀川有美氏(国際交流基金日本語試験センター)・徳間望(韓国外国語大学校)「教室内評価としてのグループ・オーラル・テストの実施報告−評定者間信頼性と受験者の反応−」:
他者とのコミュニケーション能力育成を目標とした日本語会話クラスにおいて、到達度テストとして学習者同士の話し合いを評価するグループテストを実施した結果について、評定者間の信頼性と受験者の反応の2つの観点から報告した。教室内評価としてのグループ・オーラル・テストの実施上の問題点を探ることを目的とし、1)グループテスト受験時の受験者の反応はどのようなものか。2)コース担当教師と、他の日本語教師の評定結果にちがいはあるか、の二つが研究課題であった。結果は以下の通りであった。1)受験者の反応は、「面白い」「気に入った」「他の日でも同じ結果がでるだろう」「話す能力を正確に評価できると思う」など大変好意的であり、テストの手続きに不満がないことがわかった。2)コース担当教師のほうがコース担当外教師よりも平均点は高かったが、平均の差の検定を行ったところ有意差は得られず、評定の厳しさには違いがないことがわかった。相関分析でも、中程度の相関があった。
 会場からは以下のような質問があった。
・クラス内でペアワーク、グループワークは行われていたのか。評価項目は→似たようなテーマで、グループワークをやっていた。しかし、テストでの評価項目はクラスでは見せていない、あとから作製したため。
・テーマを教師が選んだのはなぜか。→他のグループに問題が漏れないため(重なりを防ぐため)→もっとたくさん用意して学生が選んだほうがよかったかもしれない。
・評価項目から内容の深さを外したのはなぜか。→あえて外したのではなく、今期のクラスの目標に合わせたら今回のような実施になった。

◆鈴木(清水)寿子氏(お茶の水女子大学大学院生)「日本語教師のインターネット作文添削への態度−PAC分析による検討−」:
作文添削を教師と学習者にとってよりよい教育の実現の場にするために、添削活動の背景にある添削者の実践知、とりわけ学習者に対する認識を明らかにすることを目的とした。分析対象はボランティア作文活動団体「さくぶん.org」の実践研究グループに所属する添削者AとBを対象とし、分析方法としてPAC分析を用いた。PAC分析の結果、Aの態度構造としては、@外側への配慮、A言語面・内容面への対応、B学習者への理解、C想像力によって学習者につながる、というクラスター名があらわれた。Bの態度構造としては、@迷いと揺れ、A想像して選ぶ、B学習者が中心、Cやりとりの継続、D添削者の不安、E添削者の人間的学び、というクラスター名があらわれた。AとBの共通点として(1)添削への葛藤、(2)学習者の表現を最重視、(3)学習者の世界との交差、(4)添削活動の俯瞰的理解が確認された。今後の課題としては、学習者側が添削をどのように認識しているのか、また、さくぶん.org以外の通常の教室で行われる添削での添削者の態度構造の比較が挙げられた。
会場からは以下のような質問があった。
・さくぶん.orgとして添削者になんらかの指導や取り決めなどはあったか。→そういった具体的な指示は特にない。
・PAC分析のクラスターに対する抵抗感などはあったか。→一人はPAC分析を知っていた。項目について「なぜここにはいっているのか」といった疑問が出たことはあった。基本的に対象者と一緒に分析をしていくが、PACの分析の仕方も研究者によって違いがある。

◆楊峻(北京語言大学)「精読授業にグループワークを導入する可能性−会話活動と翻訳活動における実態の比較を通して−」:
中国の大学の日本語教育では「精読」といわれる文法学習を中心に据えた教師主導による一斉授業が各学年に主幹科目として設置されている。しかしながら、こうした授業のあり方に改善を求める声もある。本研究では、精読授業にグループワーク(以下GW)を取り入れる際の可能性と問題点を明らかにするために、1)GWを行う際に、精読受講生はどのような自発的な問いを発するか。2)その自発的な問いに対してどのように解決したのか。この2つを研究課題とした。授業実践として、精読授業の応用練習の時間にGWを導入し、会話活動と翻訳活動を行った。データとしては第三回目の授業をとりあげ、7グループの会話活動と翻訳活動におけるやりとりを録音し、文字化したものを用いた。補助資料として、受講生が書いた授業に対する感想およびフォローアップインタビューも用いた。各結果から以下のようなまとめが出された。@GWを取り入れた場合、受講生に自らどのように言葉を使うか考える機会を与えるため、創造的な言語使用の場を提供することができる。AGWを取り入れることで、人的リソースが増え、学習者同士の学びあいが生まれやすくなる。BGWを取り入れると、教師はサポート役となり、学習者の主体性が前面に出る。また、課題としてタスクデザインや内容を吟味する重要性や、活動の目的と意義を明確に受講生に伝える必要性なども示唆された。
会場からは以下のような質問があった。
・会話活動に対する受講生からの評価が、翻訳活動に比べて、否定的であったという結果だが、会話に慣れていないからか。また、教師はどうすればいいのか。→会話活動はやっていて慣れている。教師からの訂正が難しかった。翻訳活動に比べて即時性が求められるから。
・まとめのAに「受講生同士の学びあい」という概念が出ているが、どんな定義か。→
一人ではできないことが複数人だったらできることと定義したい。また、人的リソースとして教師と仲間を学習者が使い分けていることも感じられた。

                           影山陽子(日本女子体育大学)

 

 

◆言文・第2分科会の様子
                (司会:菊池民子、記録:野々口ちとせ)

第2分科会では以下3件の発表が行われました。

◆朴貞玉氏(お茶の水女子大学大学院)による『日本における韓国人父母の言語教育観―父母の日本滞在歴と子供の学年との関連を中心に―』では、以下の内容が報告されました。
日本にある韓国学校の児童・生徒の父母へ質問紙調査を行い、父母の子供に対する言語教育観の構造と、日本滞在歴・子供の学年との関連の有無を明らかにした。まず、子供に対する言語教育観の構造では、4つの因子−1)韓・日・英のトライリンガル重視 2)韓・日のバイリンガル重視 3)韓国語重視 4)日本語重視−が抽出できた。これらの中で、日本滞在歴との関連を調べたところ、滞在6年以上の長期型の親は滞在3年から6年の中期型の親よりもバイリンガルを重視する傾向が見られた。一方、子供の学年と言語教育観との関連には有意な差が見られなかった。この結果から、日本の韓国学校に子供を通わせる親は、日本滞在歴が長ければ長いほど子どもたちに韓・日のバイリンガルを重視し、長く日本に住んでいることが子供の将来にプラスになることを望んでいると考えられる。
発表後のコメント・質疑などは以下の通りでした。
・韓国学校に子どもを通わせている親を対象にすれば、言語教育に熱心であることは予想されるのでは?
―確かに、日本の公立校と違い、韓国学校は韓・日・英の3言語での教育方針をとっているため、言語教育への親の関心は予想できた。
・長期型がバイリンガル重視になるという結果について、「学校選択の幅を広げるため」という考察があったが、他の要素は考えられないのか?
―韓国では受験競争が厳しいので、本国と日本の両国で受験が可能であることは大きいと考えた。
・ 先行研究との違いは?
―親を対象とした大規模な質問紙調査はない。20人の親を対象とした調査はあるが、本研究では369家庭を対象としていて、規模が異なる。

◆小松奈々氏(お茶の水女子大学大学院)による『上級日本語学習者との会話における母語話者の言語行動』では、以下の内容が報告されました。
 上級日本語学習者に対する母語話者の言語行動を、初中級日本語学習者に対する場面や母語場面と比較し、その発話特徴を明らかにした。発話カテゴリー別に分析した結果、母語話者は上級学習者に対し、対初中級学習者と比較すると母語話者に近い言語行動をとっているが、母語場面と比較すると意味交渉を多く用い、情報提供を抑えていた。また、上級学習者からの情報提供が多く、全体に発話の不均衡があることが確認された。
発表後のコメント・質疑などは以下の通りでした。
・対初中級学習者のデータが一二三(1999)によるものだったが、条件をそろえるために自分でデータにとるべきでは?
―それが理想的だが、本発表では準備できなかった。そのため、今回の分析では母語場面との比較に重点を置いた。
・上級学習者からの情報提供が多かったデータでは、話題が学習者の母国のことだった点が影響しているのではないか。
―話題の影響はあるだろうが、上級学習者が母語話者の反応に応えることなく情報提供を続けた点が特徴と考えられる。
・「会話を円滑に進めるためのストラテジー」の指導とは具体的にどのようなものか?
―驚き・同意の反応にちがいがあることに気づかせる活動が考えられる。
・(フロアからの提案)学習者の母語での会話の円滑な運用も参考にするといいのではないか。
・日本語母語話者のような返答ができるようになるためには、教室だけではなく接触場面を多く経験することが有効ではないか。
―確かにJSLとJFLの違いはあるかもしれない。

◆福富理恵氏(お茶の水女子大学大学院)による『接触場面における母語話者と学習者のスピーチレベルの使い分け−スピーチレベルシフトの生起状況を中心に−』では、以下の内容が報告されました。
 「知り合いだがそれほど親しくはない」という相手との会話において、母語話者と学習者はどのようにスピーチレベルを調整しているのかを明らかにするために、上級日本語学習者と知り合いの母語話者3組のペアを対象として普通体シフトの生起状況を分析した。その結果、3組とも、丁寧さを損なわずに心的距離の短縮や冗長性の軽減を行える「シフトT」を巧みに使用しながら、相手との距離を調整していた。ただし、学習者には、産出の負担が大きくなるとスピーチレベルにまで意識を向けることができず、丁寧さを損なう恐れのある「シフトU」を使用する例も見られた。
発表後のコメント・質疑などは以下の通りでした。
・先行研究との違いは?
―先行研究では初対面会話を対象としたものが多く、また学習者に注目しているが、本研究では学習者と母語話者の両者をみている。
・母文化の影響や個人差はあるか?
―「シフトT」の10分類の中でどれを使うかには個人差が見られた。母文化の影響はわからない。フォローアップ・アンケートの回答には、ある学習者が自分の文化では1歳でも年上なら人間関係に影響すると書いていたので、年齢差が影響した可能性はある。
・日本語を教えるときは「ます体」から始める。その影響は考えられないか?
―学習歴についてはたずねていないが、本研究の対象者は日本に長く住んでいる学習者なので、それはあまり関係しないと考えている。


野々口ちとせ(お茶の水女子大学)
 


 

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