お茶の水女子大学
日本文化研究の国際的情報伝達スキルの育成
コンソーシアム・シンポジウム一覧
コンソーシアム(平成19年度)
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第1分科

第1分科では、2日間を通じ合計で4つの講演と7つの研究発表が行われた。会場は国内外、学内外から多くの参加者が詰めかけ、一時は座席が足りず他教室から補充を余儀なくされたほどであった。

第1分科では韓国、中国、米国、チェコ、台湾からの講演・発表があり、院生は博士課程5名、修士2名であった。院生の発表では日本語学や日本語教育の教員からのコメントはもちろん、他分野の教員からのコメントや質問、先輩からのコメントなども多く、これらの内容は今後の彼らの研究に大いに参考になったと思われる。

第1分科の講演や研究発表を振り返ると、日本語学・日本語教育学のいずれにおいても、この国際日本学コンソーシアムのめざしている、「国際性」と「学際性」の追求にふさわしい講演や発表が多く見受けられた。11の講演、発表のうち、「国際性」というキーワードに合致するものが7、「学際性」というキーワードに合致するものが6といずれも過半数を上回っていた。

「国際性」について述べると、日英、日中、日中韓といった対照言語学的研究や言語類型論的研究が3(金杉、徐、趙)、米国、中国、韓国など、海外における教員または院生の日本語教育実践に関係する研究が5(ウェイ、徐、尹、粟飯原、高宮)であった。「学際性」については、言語と文化の関わりについて述べた研究が3(金杉、徐、梁)、文化を取り入れた総合的日本語教育についての研究が3(尹、ウェイ、高宮)であった。また今回の発表では認知言語学的観点から言語を分析する研究が3(趙、徐、梁)見られたが、認知言語学は言語学理論としては文化的知識を重視しており、その意味で認知言語学的観点からの言語研究は学際性を求める本コンソーシアムの目標に合致していると言えるであろう。

次に研究手法について述べると理論重視と実証重視といったコントラストが見られた。具体的には中韓台の研究は認知言語学や関連性理論などの理論に基づく研究が多かったが、欧米日の研究ではデータに基づき実証を重視した研究が多かった。また1日目の日本語学では共時的研究と通時的研究があった。一方2日目の日本語教育学では教育重視と習得重視といったコントラストが見られた。中韓の研究では教育のあり方について述べる研究が多かったのに比べ、米日の研究では習得過程について述べたものが目を引いた。理論重視と実証重視、教育重視と習得重視、共時と通時とはどれも日本語学、日本語教育学研究の重要な研究アプローチであり、研究方法を異にする様々な研究が取り交わされたことは、研究の幅を広げる意味で院生には大いに参考になったと思われる。同じ研究でも国により研究方法に傾向が見られることから、国を越えての発表の場は、相互に補完し合うことが可能となったと思われる。

当初学際性を追求し、様々な研究分野を集めての研究発表は興味を引かないのではないかといった懸念もあったが、3日目の意見交換では、むしろこういった学際的な場は研究の幅を広げる点で非常に有効であり、今後も続けるべきという意見が多数であった。また第1分科の教員、院生たちの多くは第2分科にも参加していた。海外においては日本文化への関心が動機づけとなって日本語を学んだり、日本語教育で日本文化を扱ったりと、日本語と日本文化とは分離することが難しく、その意味でこういった学際的な場は大いに役に立ったと思われる。




【以上、文責 森山新】
(2008/01/22up)


第2分科

第2分科では、3日間にわたり3つの分科会がもたれ、講演4つ、研究発表8つが行われた。朝早くからの分科会が2つあったにもかかわらず、どの分科会も満員となり、席を増設した場合もあった。第1分科からも多くの人たちが参加したこともあり、また、一昨年度・昨年度の魅力ある大学院教育イニシアティブで行われた共同ゼミに参加した学生が知り合いになった海外の大学の教員・学生による講演・研究発表を聞きに来た例もあり、共同ゼミ・コンソーシアムによる継続的な国際教育研究の成果の表われと言えよう。

第1日目の分科会では、前近代の日本における宗教と近代日本の法制が取り上げられ、講演は英国の教員、研究発表は中国・日本の学生(博士課程1名・修士課程1名)によって行われた。第2日目の分科会では、近現代の日本文学について、講演は英国の教員、研究発表は英国・韓国・台湾・日本の学生(博士課程3名・修士課程1名)によって行われた。第3日目の分科会では、前近代の歴史と文学が扱われ、講演は韓国・チェコの教員、研究発表は日本の学生(博士課程1名)とリサーチフェローによって行われた。どの分科会も本学の専門の教員が司会を担当し、本学の他の教員や学生が多く参加して、活発な討議が繰り広げられた。どの講演・研究発表もよく準備されたもので、大変レベルが高かったという評価が聞かれた。

今回は日本文学については近現代に講演・研究発表が集中したのに対し、日本文化においては前近代の講演・研究発表が多かったのが通常とは異なった点と言える。また、日本文学については、女性やジェンダーを扱ったものが多くみられ、世界的な傾向でもあるが、本学におけるジェンダー研究の蓄積に呼応しているかのようであった。

海外の日本学は、現在日本で行われている研究とはまた違った展開をみせていることがうかがえて興味深い。たとえば、日本文学について言えば、現在日本ではあまり研究されていない梶井基次郎、有島武郎、安西冬衛などの作家が取り上げられている。また、近世神道史を対象とした講演では、明治の神仏分離の発端が近世にあったことが指摘され、『伊勢物語』に関する講演では、奈良時代と平安時代の「みやび」の違いが指摘されるなど、細かい実証主義に陥っている日本の学界ではみられない大局的な見方が示され、海外から見た「日本」という視点の有効性が感じられた。日本学とは、日本において外国を対象とした研究を行っている、たとえば歴史学における西洋史のような存在なのではないだろうか。

また、海外の日本学研究者の日本に対する姿勢として、海外と日本の相違点に着目するのではなく、日本との共通点をもって日本学にのぞんでいるという発言も印象的であった。共通点をふまえてこそ、相違点の比較の意味がいきてくるのである。

今回はアジアと欧米の日本学の違いについても考えさせられた。日本を客観的な学問対象とすることができる欧米と、戦争という歴史的背景のあるアジアにおける日本学との違いである。特に日本史についての韓国教員の講演では、戦争という歴史があるため、どうしても客観的に日本史に対することが難しい韓国の社会的事情が述べられたが、アジアにおける日本学については多かれ少なかれ同様の背景が存在すると考えられる。それをどのように乗り越えていくのかが今後の課題である。



【以上、文責 古瀬奈津子】
(2008/01/23up)


第2分科会第1日目〜グローバル教育プログラムとしての日本学コンソーシアムの可能性〜

第二分科会第一日目は、日本文化に関する報告が3本行なわれた。SOASの教員による近世における神道史に関する報告は、延暦寺における仏教と神道の対立が近世初期から存在していたことを指摘したもので、近代初頭における神仏分離の理解に修正を迫る内容であり、神仏習合・神仏分離に関する歴史学からのあらたなアプローチであるとともに、倫理学との学際的接点を求めるものであった。この点で、本学大学院生による第3報告の空海における神仏習合思想に関する報告と呼応するものであったため、会場の討議は中国の禅宗の無の思想や朝鮮半島における仏教受容のあり方など、東アジアにおける宗教の融合という広範な問題へと発展し、日本学ならではの論議となった。第一報告の学際的内容がこうした方向を触発したと言うことができ、二回目を迎えたコンソーシアムの深化を示すこととなった。

また、本学への国費留学生による第二報告は本国の大学に提出する修士論文の準備報告であり、現代中国において日本の立憲制確立過程への関心の強さを示すものであった。アジアにおける歴史学的なアプローチからの日本近代への興味は、従来の明治維新への一極的集中から脱して、近年は近代化にかかわる様々な論点へと急速に多様化しており、その内容も現代政治の文脈で理解されるような一面的な対日理解でははかれない段階に達しつつあるが、本報告もそうした傾向を反映したものと言え、海外(この場合は中国)の日本研究の現状を知る上で貴重な情報を提供してくれたのであった。

 日本学が学際的分野であり、日本に関する総合学であるということは、すでによく指摘されており、毎夏に開かれる本学の国際日本学シンポジウムでもよく示されているが、今回の分科会で強く感じたのは、そうした学際性や総合性は、地域それぞれの歴史や文化に根ざしており、日本に対する関心の持ち方も自ずから異なっていること、それだからこそ、そうした多様な日本への関心をお互いにすり合わせ、みずからの関心や方法を検証する機会として、このコンソーシアムが非常に有効である、ということである。

世界各地域における日本学の特徴を明らかにすることは、それぞれの地域の歴史・文化的特徴を明らかにすることにもつながっており、さらには日本学を媒介として、世界の各地域がそれぞれの歴史・文化的特質(ひいては現代における対日関心のあり方)を相互に再認識する機会ともなるのである。その意味でこのコンソーシアムは、グローバルな視点を共有し、確認することができる貴重な教育的チャンスであり、主催する本学や本学の学生にとっても、得ることの非常に多いプログラムなのである。今回の分科会は、相互に報告内容が連関していたこともあって、こうした点がよく浮き彫りにされた。今後のコンソーシアムの展開のあり方に、ひとつの方向を示すものとなったように思われる。


【以上、文責 小風秀雅】
(2008/03/03up)


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