人生の語りを聞くということ―ライフストーリーの可能性―
白田千晶(お茶の水女子大学大学院比較社会文化学専攻M2)
ことばによって生み出される個人のストーリーは、語り手と聞き手の双方で創り出されるものである。「語り」はしばしば話し手に重点が置かれ、聞き手の立場や聞き方はあまり考慮されない。特に研究においては、インタビューでは、語り手の語りの内容のみがデータとして価値のあるものとされ、聞き手、すなわちインタビュイーの立場は重視されてこなかった。今回、桜井先生の講演会で特に印象に残った部分が、インタビューの聞き手であるインタビュイー、そしてスクリプトを分析する研究者の位置づけである。インタビューにおいて、2人が築き上げる関係を重視することは、研究者と対象者が互いに影響し合い、互いに成長し続ける関係にあるということである。大切なことは、聞き手は「語り」の内容にじっくり耳を傾け、文脈に寄り添って聞いていくことであり、それによって相手とどんな関係を築いていくのか。「語り」を語る、あるいは聞く過程で、創り上げる関係に気をとめることによってライフストーリー研究の意義を見出すことができるだろう。インタビューの時間は、インタビュアーとインタビュイー双方が互いに成長できる実りある時間であり、人間関係の構築に大きく貢献すると考えられる。
現在、グローバル化による人の大移動、環境汚染、情報化社会などにより、世の中がものすごいスピードで変化している。そのような社会の中で、「大量」「スピード」などといったいわゆる「効率的」なものが重視され、「個」「個人」はあまり重視されない傾向にある。世の中に、個人の声が発信されにくくなっているのである。このような中、ライフストーリーインタビューは、人間ひとりひとりの価値観や考え方、生き方に注目し、個人をじっくり見ていくことによって、これまで声にならなかった声なき声を世の中に発信していくことが可能となる。
ライフストーリーインタビューは、私たちの言語生活をより豊かなものにし、よりよい人間関係構築の可能性を示唆してくれるだろう。今後、ライフストーリーインタビューがますます発展し、さまざまな分野において取り入れられることを期待したい。