お茶の水女子大学
日本言語文化学研究会
 

  【第1回 講演会】(終了)

  中国における日本語教育
―運用力養成のための教授法の開発に向けて―
 
 

日時 2005年5月20日(金) 13時半〜16時半

場所 お茶の水女子大学 人間文化研究科棟 6階大会議室

会費 会員無料 非会員500円


第1部 13時30分〜14時30分  問題提起  岡崎眸教授(お茶の水女子大学大学院)

第2部 14時30分〜15時30分  講演  馮峰教授(清華大学外国語学部日本語科主任)

第3部 15時30分〜16時30分  参加者による討論   



第1部【問題提起】岡崎眸教授 (お茶の水女子大学大学院)

高等教育の大衆化や日中間の人的・物的交流の拡大が進行する中で、中国においても、教授法への関心が高まってきた。特に実際の場面で、日本語を運用して必要なことを成し遂げることのできる力の養成に力点をおいた教授法の開発が要請されている。しかし、現場では依然として教える側も学ぶ側も共に「文法説明・文型の練習」を最も好きで意義ある教室活動として評価しているという実態がある。そこで、言語習得の基盤を創るという意味で重要であるにも関わらず会話練習に比べて注目されることの少ない聴解活動と、教師の訂正の仕方に議論が一面化されがちな作文活動を取り上げて、従来の中国における伝統的な教え方と対比しながら、この二つの技能領域における教授法開発の方向性を提起する。

 
第2部【講演】馮峰教授(清華大学外国語学部日本語科主任)

題目 「中国の大学における新世紀の日本語教育−運用力養成に向けて―」

中国における日本語教育は今、転換期を迎えている。これまでの日本語教育現場では文法や翻訳を重視し、実際のコミュニケーションはあまり重視されてこなかった。しかし、現在、日中間の学術やビジネスでの関係が深まる中、日本語を実際に使って何かを行うことができる運用能力が中国でも注目されるようになってきた。しかし、運用力を養成するには、現場でどんな抵抗があるのか、何をどのように行えばいいか。学習者の置かれている環境、ニーズ、教師陣、教授法、教科書、言語政策といった観点から中国における日本語教育の現状を報告した上で、話者自身の教授法の改善に対する模索実践を報告する。


第3部 【参加者による討論】

日本語教育に携わる中国人を囲み議論する場とする。積極的な議論への参加をお願い致します。

 

 
     

   

   【報告】

     
 

 馮先生の講演会には主催側の予想を超える約100名近い参加者が出席してくださった。中でも、外部からの非会員が40名を占めている。さらに、徐一平先生はじめ中国の日本語教育に関して指導的立場にいらっしゃる先生方も参加してくださった。第三部の討論の時間では、留学生たちからの質問で、活発な議論が展開された。

 
     

 

   【参加者の声】

お茶の水女子大学 国際日本学専攻 朱桂栄

「中国の大学における新世紀日本語教育―運用力養成に向けて」清華大学 冯峰先生

2005520日 お茶に水女子大学にで

冯峰先生のご講演を聴いて中国の日本語教育の現状と問題点について理解を深めることができました。以下、3点から冯峰先生のご講演の内容を簡単にまとめたうえで、私の感想を述べさせていただきます。

一、講演内容についてのまとめ

第一に、中国では日本語学習者が多様化していることが分かりました。日本語を専攻する大学院レベルの学習者の間では、現役の学生もいれば、就職経験を持つ社会人もいます。また海外での留学経験を持つ学生もいると聞いておりました。そのほか、日本語を専攻する4年制大学の本科生や、第二外国語として日本語を学ぶ大学生も多くいます。さらに、中学校、専門学校、短期大学、社会人向けの日本語養成クラスなど様々な教育機関が存在し、学習者数が増えている状況が分かりました。

第二に、教師陣について、現在、日本語ができる人材が各日本語教育機関で活躍しているが、日本語教育を専門とする教員がまだ少ない状況が分かりました。全体的に、教師の日本語教育水準の向上が期待されていることが分かりました。

第三に、冯峰先生がご紹介なさったように、清華大学はその一例ですが、日本語教師が自分の授業を見直し、絶えず授業の改善に努力している様子が分かりました。

二、私の感想

冯峰先生のご講演を聴いて、新世紀の日本語教育、日本語教師像についていろいろ考えさせられました。

第一に、日本語教育は、言葉の教育である以上、人間がどのように第二言語として言葉を習得していくか、つまり、学習者の認知構造、「学び」そのもののメカニズムを最大限尊重して、学習者の能動性がもっとも発揮できる状況の学びと教授法を探るべきだと思います。  

第二に、学習者が何のために日本語を学び、日本語学習に対して、どんなニーズがあるか十分に把握する必要があると思います。日本語教師として、そのニーズに応えられるよう授業の内容や授業方法などを工夫すべきだと思います。

第三に、国際社会や中国社会が著しい変化をしています。このような社会の変化が日本語人材の養成にどんなニーズがあるか常に目を向ける必要があると思います。社会に通用できる主体性を持つ人材の育成に日本語教育の分野で一役を果たさなければなりません。

第四に、日本語教師として、日本語を教えること以外に、日中関係をどう捉えるかなど、日中友好を促すために、日本語教師がどんな役割を果たすべきか考える必要があると思います。

時代の変化とともに、教師は、常に自分の教授行動を見直し、多方面にわたる日本語教師の役割を自覚し、教師力の向上を目指すべきだと思います。冯峰先生のご講演どうもありがとうございました。                                                

 お茶の水女子大学国際日本学専攻 朱 桂栄(しゅ けいえい)

 

 

東京農工大学 田崎敦子

 日頃,多くの中国人留学生と接しているため,彼らの教育の背景を知りたいと思い,講演会に参加しました。最初の岡崎先生のお話では、運用能力を重視した聴解、作文の具体的な教授法の例が示され、その重要性,有効性を認識した上で,中国の日本語教育についてのお話を聞くことができました。続いて,ヒョン先生から紹介された中国の日本語教育への取り組みは、学習者のニーズ分析,授業評価などをもとにした教授法の改善で,大変意欲的なものでした.期待以上の情報を得ることができ、大変刺激を受けました。

 ヒョウ先生,徐先生のお話は、要点が明確で、わかりやすいだけでなく、ユーモアに溢れ、フロアは笑いが絶えず、どんどんそのお話に引き込まれていきました。質疑応答のときには、中国人留学生からの質問も多く、中国の日本語教育の教える側、学ぶ側のやりとりを実際に聞くことができ、そこから現状の課題や将来像がさらに見えてきたような気がします。こうした現場の声に直接触れる機会を、今後もこの研究会で作っていただけたらと思います。

 帰り道、講演会を振り返りながら、今後、中国の新しい日本語教育を受け、来日する留学生はどんな学生だろうと思い、会うのが楽しみになりました。それから、もうひとつ。中国の先生方のお話を思い出しながら、あの聴衆を引きつける日本語のコミュニケーション能力は、どのように習得されたのだろうと思い、その教授法、学習方法がとても知りたくなりました。

東京農工大学 田崎敦子

 

 

 

お茶の水女子大学 国際日本学専攻 単娜

 終始笑い声が絶えない会場で、馮先生のユーモアあふれたご講演を拝聴しました。

馮先生はまず、中国の大学における日本語教育の背景や実情をご紹介くださって、その後、中国の大学でなされている主な教授法をご紹介くださいました。最後に、馮先生ご自身が清華大学で実際にどのようなことをなさっているのか、実践報告という形でその模索や試行錯誤をご紹介くださいました。中国の日本語教育の歴史的変遷から現場の実情まで、幅広い話題をご提示くださいました。大変有意義な時間を過ごすことができました。

 特に印象深かったのは、馮先生が自分の教え子を、年齢層、教職経験などの特徴に応じて、「単純な学生タイプ」、「成熟の円滑タイプ」、「教室活躍タイプ」という三つのグループに分けて、対象者別にニーズに応じた教授法を取っていらっしゃることです。自分などのグループに属するのだろうとワクワクしながら、学習者重視のアプローチで、いわゆる学習者中心の教授法をお取りになっていることに大変感動しました。

 馮先生はまた日本語教員採用について、中国の大学の現状を語ってくださいました。今の中国の大学で教鞭をとるのに、博士号を持つのが当然のことであり、それもまた面接を受ける条件の一つに過ぎないという恐ろしい現状に圧倒されてしまいました。

 最後に、馮先生ご自身が模索中の「五自」教授法をご紹介くださいました。その趣旨もまた前半の岡崎先生の講演でご提言になった、「学習者同士の協働を軸に据える」教授法の開発という内容と見事に一致しました。お二人の先生方のお話を伺って、中国における日本語教育の明るい未来が私に見えてきたような気がします。
 

お茶の水女子大学国際日本学専攻 単 (たん な)

 

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