お茶の水女子大学
日本言語文化学研究会


最終更新日:2011/01/13

【第41回 日本言語文化学研究会】

【終了報告】

  開会挨拶・ポスター発表  
 

 
     

  分科会  
 
 
     

  交流会  
 

 

 
     

 

【各分科会の様子】

◆言文・第1分科会の様子
                
(司会:田崎敦子、記録:原田三千代

第1分科会では以下3件の発表が行われました。
 

王亜茹(お茶の水女子大学大学院生)「多義後のプロトタイプ意味の認定法をめぐる一考察  ―動詞「とる」を事例に―

・概要:本研究は、動詞「とる」を事例に、異なるアプローチによってプロトタイプの意味が異なるかどうかを実証することを目的とし、@理論的プロトタイプの認定法では、「とる」のプロトタイプの意味は何か、A心理的プロトタイプの認定法では、「とる」のプロトタイプの意味は何か、B両者が異なるとしたら、どのように異なるのかという研究課題を設けた。その結果、理論的プロトタイプ、心理的プロトタイプのアプローチによって、異なるプロトタイプの意味が導き出された。前者による意味は、空間的用法と最も中心的な意味を基準に基づいて考察したところ、把握(手に持つ)であり、後者による意味は、自由産出法において、連想喚起力を認定基準にしたところ、獲得(それまであったところから自分の側に移す)であることが示唆された。また、理論的プロトタイプは多義語の意味構造の構成に有益で、心理的プロトタイプは多義語の機能的意味の理解に有益であるということが言える。今後の課題としては、対象者を増やし、コーパスなどを使用して、多義語の意味用法をより客観的に分類することである。

・フロアからの質問と発表者の回答

Q: 最終的な目的が違うので、異なるアプローチによって理論的プロトタイプ、心理的プロトタイプが考えられるのは一見当然のように考えられるが、どのように考えればよいか。 

A:研究の中には、他の動詞、格助詞などが対象となり、意味用法がはっきりしていないものがあるので、このような研究自体が必要だと考えられる。

Q:心理実験の前の直接経験や日頃の経験によって、プロトタイプの認定は影響を受けることはないのか。

A:山梨先生によると、心理実験によるプロトタイプはあくまで傾向であり、多くの人数をとればある程度の傾向は固まると言われている。

Q:プロトタイプが二つあった時の認定はどう考えればよいか。

A:松本先生は現在、2つのプロトタイプがあるという論文を執筆中。2つあることより、認定法によってどんなものが出されるかが重要である。

A:教師にとって、語彙の教え方としてどんなアプローチが有効か。

Q:どちらが有効か、またどちらが先の方がよいかはまだ実証されていない。今後の課題としたい。

高橋貴子(お茶の水女子大学大学院研究生)「映画シナリオにおける「助言・忠告」表現の表現選択についての社会言語学的一考察

概要:助言は発話する際には、話し手や聞き手の社会的属性といった社会言語学的知識が必要となる言語行動である。本研究は日本語母語話者の助言発話における聞き手の属性が当該発話の表現選択にどのように影響するのかを明らかにすることを目的とし、@助言表現にはどのような表現形式が存在し、使用頻度にはどのような特徴がみられるか、A聞き手の属性によって、助言表現の形式にはどのような特徴がみられるかという研究課題を設けた。データは『年鑑代表シナリオ集』(20052009)の映画シナリオ7編と2005年に放映されたドラマ1編を対象とし、分析対象となる発話は蒲谷・川口・坂本(1998)の行動展開表現類型を参考に抽出した。その結果、今回抽出できた助言発話は6201発話中23と非常に少なかったが、教科書に掲載されている「たらどうですか」「ほうがいい」以外にも「ください」「なさい、なよ」といった命令形や「だ、だよ」という自分の意見を述べる形式も使用されていることがわかった。さらに、「だ、だよ」は非明示的表現であるため、特に疎遠な関係で使用されており、「なさい、なよ」は親しい間柄でも夫婦や親子、兄弟といった親族間で使用される傾向があった。「ください」に関しては今回使用されていたのは特殊な場面であり、3例中2例は同一人物の発話なので、今後どのような属性の人に使用される傾向にあるのか、分析を進めていきたい。

・フロアからの質問と発表者の回答

Q:一文だけで助言の表現形式と言えるか。前後の文脈と合わせて助言と考えられるのではないか。

A:蒲谷先生の行動、決定権、利益が話し手にあるか聞き手にあるかという観点から見ていったが、この表現だけでは助言と言えない場合もあり、今後場面や文脈も考慮する必要がある。

Q: データはどうして『年鑑代表シナリオ集』とドラマからとったか。データによって表現形式の結果が変わると考えられないか。

A:今回、親疎関係が見たく、シナリオであれば人間関係が見やすいと考えた。今後、データ数やデータ選択の妥当性を考えたい。

Q:聞き手の属性について、親疎、上下関係以外にも男女差によって表現形式が変わると考えられないか。

A:今回に限れば男女差は見られなかったが、それはシナリオの特徴なのか、日本人の特徴なのかわからない。今後の課題にしたい。

Q:「たほうがいい」は、「たほうがいいです」「他方がいいと思います」などのように、その形式を含んだものか、あるいは文末のいい切りの形のものか。

A:今回は「たほうがいい」のみ。今回はデータが23と少なく、文末までは見ていないので、もう少しデータを見る必要がある。

Q:シナリオの時代設定や人物の年齢はどうか。

A:時代は現代、年代は高校生から50代まで。高校生は聞き手になっている例のみであった。

Q:下から上の関係に対しても助言することも、今後の課題と考えられるか。

A:場面にもよるが、自分の意図を伝える場面がキーになると考える。今後の課題としたい。

方英愛(お茶の水女子大学大学院研究員)中国の基礎日本語授業における自律的学習の実践活動

概要:本研究は、上海海洋大学1年生、30名を対象にして実施した基礎日本語授業における自律学習の実践報告である。研究課題としては、@自律的な学習が身についたか、A学習者同士の学びが生じたかを設けた。実践活動では興味のある学習を5つのジャンル(語彙、文法、会話、読解、聴解)に分け、学生はその中から自由に自分のジャンルを選択した。選択したジャンルでグループを構成し、それぞれのグループでたてた学習計画に基づいて3カ月間活動し、半年後にアンケート調査と、その中の一人にSkypeによる方法でインタビュー調査を行った。その結果、自律学習の力は、一人学習のみではなく、グループの力によって身についたこと、さらに学生同士の学び合いで、自律学習も促進されることがわかった。また、問題点としては義務的な学習として取り組んだ学習者がいたり、教師の監督が必要であるという意見があったことから、学生に対する教師の働きかけについて、今後考慮の余地がある。

・フロアからの質問と発表者の回答

Q:活動の導入、学生への働きかけはどのようにしたか。

A:オリエンテーションで活動への参加を呼び掛け、それぞれの学生は興味を持った内容ついて選択した。

Q:学生のグループ活動について教師はどのように評価したか。

A:期末試験において、少し点数化して反映させた。

Q:グループはどのような基準で分けたか。学習能力など考慮したのか。

A:グループの提案はしたが、グループ分けはほとんど学生に任せた。興味を持ったから、話す練習をしたいからなどの理由があった。

Q:会話の授業では実際にどのように行われたのか。

A:教師は週に一回、授業が終わる前にどのように進めているかを聞いて、助言などを与えた。会話のモデル文を読んで、グループの中で練習、会話文を作って、ロールプレイ、月に一回、みんなの前で発表をした。また、土曜日の午後、2時間、日本人と日本語で相互学習をする場があることなども紹介した。

Q:調査方法について、インタビュー調査において、「先生は関わらない方がいい」という意見は出しづらいと思った。すぐに自律学習の効果と結び付けるのは飛躍しているのではないかと思った。今後、実験などを行って比較することで、自律学習がうまくいくようになったということを確かめればどうか。

A:質問自体の妥当性に疑問があるので、今後もう少し工夫したい。

Q:会話グループにおいて、自律学習の形で会話の能力にどのような効果が出てきたか。

A:半年後の学習そのものの効果は測っていないので、効果についてははっきり言えない。

Q:学習者は具体的に、どのような目標を持ったのか。語彙学習の場合は、ただ覚えるのか、あるいは、正しく産出するというところまで目指しているのか。

A: 語彙学習の目標は、語彙を深めるというよりは、語彙の量を増やすという目的を書いていた。1年生の段階なので、量に重点を置いていたのではないか。

原田 美千代 (桜美林大学)

 

◆言文・第2分科会の様子
                 (
司会:池田広子、記録:菅生早千江

第2分科会では、以下3件の発表が行われました。
 

◆インドネシアにおける内容重視のグループリーディングの試み

−対話的問題提起学習を取り入れて−アリアンティ・ヴィシアティ(お茶の水女子大学大学院生)

・概要:大学で日本語を学ぶ学習者は、学年が進むにつれ、読む対象も教科書からオーセンティックな文献へと範囲を広げていく。しかしインドネシア人日本語学習者にとって、漢字に対する負担感から読む活動を苦手とする学習者も多いという。発表者は、大学におけるアカデミック・リーディングの目的は文型や語彙を覚えこむことではなく、読み物の内容から学び、何かを考え或いは行動することだと捉えた。そして中級日本語学習者を対象に、「対話的問題提起学習」の考え方を取り入れた授業を試みた。

本発表では、学習者にとって身近な社会問題から4つのテーマを取り上げたうち、インドネシアのごみ問題を扱った授業に関して報告された。首都におけるゴミ問題とゴミ回収業従事者に関する読解テキストは、インターネットに掲載されたオーセンティックなものを用いた。その記事を読むために、手順として、スキーマを活性化させるために関連するインドネシア語の記事を読む、写真、画像を見て話し合う、グループで話し合うといった活動を行い、そのプロセスを設けたことで、読解テキストの大意の理解が深まったという報告であった。発表では、グループでの話し合いのやり取りのデータから、一人では読みとれなかった内容をやり取りの中で確認し理解していく様子、またテーマを自身の問題として捉え、関心を深めていく様子が報告された。本実践を通して、学習者がテキストからの学びを実感することで、読解活動、アカデミック・リーディングに対する動機を高める可能性が示唆された。

・フロアからの質問と発表者の回答

Q: インドネシアでの大学における日本語教育で、読解とはどのような位置づけか。また対話的問題提起学習は学習者からはどのように受け取られたか。

A: インドネシアでは、読解は、テキストを読んで内容について質問で確認することを、文型を学習する目的で行われている。今回は、学習者の受け取り方は調査していないが、グループで読むことで難しいものも理解しやすかったというコメントがあった。

Q:ピアリーディングでの読みによって多くの気づきを得たことが、個人で読む場合にも有益となるか。

A:本発表では触れなかったが、知識を教え合う中で、読みのストラテジーについてもお互いに学ぶような場面もあった。それらは個人で読むときにも取り入れることができるものだと思う。

Q:今後、どのように教育実践につなげていくと考えているか。

A:可能性としては、アカデミックリーディングの授業として実施したが、通常の読解授業でも取り入れることができると思う。

Q:学生は活動を通して何を学んだと言えるか。

A:内容について話し合う際に、問題の所在の確認、原因、解決策の3点を順に質問することで、話し合う際に焦点を絞れるようにした。そのことで深く内容を理解できたと思う。

Q:アカデミックリーディングに対する取り組みとしての今後の課題は何か。

A:今までの読み教材は、いろいろな資料から寄せ集めたようなもので、内容に深く自分を関わらせて読むということはなかったと思う。今後自分に必要な文献を読むときにも、本当に内容を理解するために読むという読み方ができるようになれればいいと思う。

◆「教科・母語・日本語相互育成学習モデル」に基づく支援活動における子どもと母語話者支援者の横の関係―母語支援場面に着目― 王 植(お茶の水女子大学大学院生)

・概要:本発表は、「教科・母語・日本語相互育成学習モデル」(以下、「モデル」)に基づいた中学2年生の中国人生徒に対する中国語母語話者の教科学習支援について考察したものである。「モデル」では、学習支援の流れは、まず子どもに対して「母語による先行学習」、次に「日本語による先行学習」が行われた後、子どもが在籍級の授業に臨むよう計画される。「モデル」に関する先行研究では、教科学習で母語を取り入れる有効性や意義は十分に議論されているものの、先行研究で言及されている「一緒に学ぶ」関係については研究対象とされていない。そこで本発表では、支援者と子どもとの関係について、「教える」と「教わる」の関係を「縦の関係」とすることに対して、「一緒に学ぶ」関係を「横の関係」と捉え、その様相を明らかにすることを目的とした。国語の先行学習を母語で実施している時の会話をIRE分析することでデータとし、「横の関係」がどのようなものであるかを明らかにすることを試みた。

発表では、発話データを示し、子どもの方から支援者に「あなたはどう思う?」という働きかけをして支援者の意見や感想を求めるなどして、「一緒に学ぶ」関係を構築していく様子が説明された。そして、「横の関係」は、支援者が子どもの問いに対して、無視せず向き合って真剣に考えることで、構築されていくものであるとの見解が述べられた。

・フロアからの質問と発表者の回答

Q: 「横の関係」を構築するための具体的な支援の方法とは何か。また、支援者が知識をもっていないような場合は関係が悪くならないか。

A: 支援者が、教科科目学習を援助しなければならない、先生役にならなければならない、と力まないことだと思う。知識を与えることがこの支援の目的ではない。一緒に考えたり、一緒に調べたりするプロセスも大切だと思う。

Q:「あなたはどう思う?」のような子どもからの質問は、支援が開始された当初から見られたものか、それとも回を重ねて支援者から刺激を受けるなどして、見られるようになったものか。

A:支援を始めて間もないころから見られた。「縦の関係」から「横の関係」に変わった、というものではないと思う。これは、「モデル」に基づく支援の特徴かもしれないと思う。「モデル」では既有知識に結び付けて考えることを大切にするため、人の意見を聞きたくなるのではないかと思う。そのために、そのような発話が早くから見られたのかもしれない。

Q:データからは、「武士」が子どもと支援者ともに詳しくは知らないトピックだったから「横の関係」が見られたが、支援者がよく知っているトピックの場合は、「縦の関係」に変わる、ということはないか。

A:全部が「横の関係」というわけではなく、支援者が主導している場面も当然見られた。しかし、すべてのやりとりが「横の関係」である必要もないと思う。子どもが主導して会話を展開する、という場面があるということが「横の関係」を示すものだと思う。

Q:「(学習者から教師に質問するなど)下の立場の者から上に質問する」ということが、関係を縦から横に変える鍵だと思う。しかし、「縦の関係」を「横の関係」に変えることで、失うものもあるのか?

A:この支援活動では自分の母語を使って者を考える力をつけることを目的としているので、正解を求めてそこで終わりではなく、相手の理解を聞くことで自分の視野も広がることなどが、大事にしたい点だと思う。「横の関係」によって失うことがあるかといえば、支援者が教える経験を積みたいと思っていたら、そうした期待は失われるかもしれないが。

Q:「横の関係」を構築することは、教科科目の支援としてどのような意義があるのか。

A:「母語であれば会話のイニシアチブが取れる」という経験が、自信となり、今後日本語を使用する場でも積極的になれる可能性があると思うが、今後調査していきたい。別の点では、「横の関係」を構築しながら、母語を用いて考える力を養成することにつながると思う。それが日本語使用場面にもいい影響をもたらすものであれば素晴らしいが、今後調査していきたい。

2言語を4年間育成した子どもの会話力―OBCテストの結果から― 滑川恵理子(お茶の水女子大学大学院生)

・概要: 本発表では、両言語をともに伸ばす「相互育成学習モデル」を援用した学習支援を4年間継続的に受けた小学校6年生の中国人児童に対して実施した、OBCOral Proficiency Assessment for Billingual Children)(バイリンガルの子どものために考案された会話力のテスト)の結果を基にした報告がなされた。Cummins(1984) の「2言語相互依存仮説」では、母語と第二言語は表面的特徴の点で異なっているが、思考や認知活動を司る深層の部分では共有の言語処理を行っているとされる。そのため、2つのことばをもつ子どもは母語で獲得された思考力や抽象的概念を第二言語に転移させることができるため、第二言語のみによる学習よりも、母語を活かして学習した方が有効であるとされる。しかし、2つの言語をともに伸ばす学習の実践と研究の蓄積はまだ十分ではないのが現状である。

本発表では、OBCテストの評価項目や実施タスクに関する説明とともに、タスクにおける発話例が紹介された。OBCテストの結果から、対象とした子どもは支援当初の小学校3年時と比較すると、L1を保持伸長させながら新たに日本語が獲得されている様子が観察された。中でも、L2 日本語では学習したことがあるがL1中国語では学習したことのない、公害を扱った認知タスクにおいて、中国語でも専門用語も含めた説明を試みるなど、L2 日本語からL1中国語へ転移している様子が観察された。本研究は、来日当初から2言語を伸ばす学習支援を継続的に行うことにより、2言語が相互に関連しながら発達していく実態を事例で示した点で、意義深いと思われる。

・フロアからの質問と発表者の回答

Q: L1中国語からL2日本語に転移している様子とはどのようなものか。

A: 4年前の、子どもが小学校3年時のデータを紹介する。「アリの行列」について説明するタスクで「目が見えないけれども触覚で周りを確かめて進む」様子を、既有知識を活用し、知っている限りの日本語を使って説明している(会話データ開示)。

Q:子どもの支援を続けていく中で、本人の意識的なL1学習の態度の変容というものは見られたのだろうか。

A:発表で省略してしまったところだが、今後の課題はその点だと思う。今のところは本人の変化は感じられず、母親が熱心であるという印象である。対象者が思春期を迎えるころでもあり、どのように自分の母語と向き合うのかは、これから変わっていくところかと思う。

Q:今現在の子ども本人の読み書き能力はどのくらいか。

A:読み書き能力を測るツールのひとつとして、音読で評価する方法もある。L1中国語の音読については、本人はとても上手にできる。来日時点以前で学んでいなかった中国語の語彙もよく知っているが、ただし内容理解については正確さが不安定なものもある。全般的にいってL1中国語は非常によく保持していると思われる。L2日本語については、書いたものであれば、日本人児童と比べても遜色ないほどで、よく上達していると思う。

菅生 早千江 (国際日本語普及協会)

 

 
 
 

 

 

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