第1分科会では以下の3件の発表が行なわれました。
◆松尾麻里氏(お茶の水女子大学大学院修了生)「日本語ボランティアはどのような体験を通して活動を継続しているか−地域日本語学習支援の現場から−」:
地域において共生的な日本語教育を実現するために地域日本語教育の実態を把握するという目的のもと、日本語ボランティアが実践でどのような体験をし、どのような意識を形成しながら活動を継続しているかをインタビュー調査、修正版グラウデッド・セオリー・アプローチにて分析した。その結果、1)日本語ボランティアは知識・技術の不足を感じるなどの困難を抱えながらも支援方法を模索していること、2)マンツーマン形式による丁寧な個別対応によって「ボランティアが支援し学習者が支援される」固定的な関係が築かれていること、が明らかになった。結果をうけて、地域日本語教育の場が今後共生に向けた実践の場となるために、@行政・日本語教育関係者・ボランティアの連携、A「共生言語としての日本語」の視点の導入、B共生言語の生成を促進し、関係形成を促す実践事例の提供の必要性、Cボランティアの「継続」を念頭においた養成・運営、が提案された。
会場からは、分析の手順に関する確認や、ボランティアの心理が具体的に描写されているとのコメントの他、以下の質問が出された。
・地域のボランティアのどこが一番問題だと感じているか。
−行政がいつのまにかボランティアに負わせてしまっていること(外国人住民への言語サービスと地域サービス)と、ボランティア自身のささやかな奉仕活動という認識のずれ。
・提案にある「実践事例」はどのようなものか。
−ペアの活動内容を変えていくこと、コミュニティーを作る活動を取り入れること等。
◆田村知佳氏(大阪大学大学院生)「ドイツにおける日本語学習者の学習動機」:
日本語学習者が急増しているドイツにおいて、「学習者がどのような動機の要因から日本語学習に駆り立てられたのか」、また「その動機は時間の経過とともにどのように変動していったのか」を、大学生3名を対象に、Episodic
Interviewing(特定のテーマに関するこれまでの日常的な経験に関する調査方法)を行なった。その結果、一見日本語とは関連のなさそうな言語を学んだ過去の体験と関連していること、またそれをひとつの内在的目標として言語学習自体を楽しんでいる(「学習行動に対するエンジョイ」)ことが明らかになった。調査対象者が少数であることから一般化は難しいとしながらも、ドイツにおける日本語学習者の動機を分析するにあたり「学習行動に対するエンジョイ」もひとつの重要な観点であることが示唆された。
会場からは、分析の手順に関する確認や、実際にドイツで日本語教育に携わっていた方からのコメントの他、以下の質問が出された。
・自分のために勉強するドイツ日本語学習者の特徴をどのように考えているか。
−個人主義、集団主義という観点から今後分析することを考えている。
・複合言語主義を実践するEUにおいて、EUの言語以外の言語を学習する意義はどのようなものか。
−複合言語主義は、提言と実践がまだ伴っていないように感じる。しかし、EUの言語以外の言語を学ぶことは複合言語主義の理念である言語的多様性を尊重する姿勢の涵養へとつながると考える。
◆大山シアノ氏・大久保喜雄氏(カイ日本語スクール)「問題解決能力を養うための日本語授業の試み」:
上級者としての日本語力をつける、問題解決の手法を取得する、授業を通して社会人基礎力の向上を目指す、という目的のもと行なわれた実践の報告。「問題解決能力」「基礎学力」など重要概念が理論をもとに丁寧に述べられた後、実践が報告された。そこでは、生活(例:進学の悩み)、ビジネス(例:仕事選びの悩み)、社会問題(例:救急医療問題)のトピックの中から、学生が問題を選び、その問題の原因や解決方法をグループで話し合い発表をする形がとられた。実践を学生からのフィードバックや、教師側からの観察をプラス面、マイナス面の両面から分析し、結果は、問題解決を通して学生自身が論理的な考え方が身についたという実感を得ていること、またグループ活動に主体的に参加している様子などが観察された。一方、手順の見直しの必要性や、グループ活動の際学生の役割が固定化するなどといった課題も明らかになった。しかしこれらは実践を改善するための貴重な資料となるものであり、これらを活かして今後も実践を継続していくことが述べられた。
会場からは、実践への関心・興味を示すコメント、また実際に問題解決の手法を授業に取り入れている方からのコメントが寄せられた。主な質問は以下の通り。
・活動を通して文型が伸びないと感じている学習者にはどう対応できるか。
−評価のあり方を検討していってはどうか。自分の評価、相手への評価といった2つの観点からの評価を取り入れることもできる。
半原 芳子(比較社会文化学専攻)