お茶の水女子大学
日本言語文化学研究会
 

  【第36回 日本言語文化学研究会】

  【終了報告】

  ポスター発表  
 

       

  

  

 
     

  

  分科会  
 

   

    

 

 
     

 

  交流会  
 

 

 

 
     

 

 

   【各分科会の様子】

◆言文・第1分科会の様子
                 (司会:影山陽子、記録:半原芳子)

第1分科会では以下の3件の発表が行なわれました。

◆松尾麻里氏(お茶の水女子大学大学院修了生)「日本語ボランティアはどのような体験を通して活動を継続しているか−地域日本語学習支援の現場から−」:
 地域において共生的な日本語教育を実現するために地域日本語教育の実態を把握するという目的のもと、日本語ボランティアが実践でどのような体験をし、どのような意識を形成しながら活動を継続しているかをインタビュー調査、修正版グラウデッド・セオリー・アプローチにて分析した。その結果、1)日本語ボランティアは知識・技術の不足を感じるなどの困難を抱えながらも支援方法を模索していること、2)マンツーマン形式による丁寧な個別対応によって「ボランティアが支援し学習者が支援される」固定的な関係が築かれていること、が明らかになった。結果をうけて、地域日本語教育の場が今後共生に向けた実践の場となるために、@行政・日本語教育関係者・ボランティアの連携、A「共生言語としての日本語」の視点の導入、B共生言語の生成を促進し、関係形成を促す実践事例の提供の必要性、Cボランティアの「継続」を念頭においた養成・運営、が提案された。
 会場からは、分析の手順に関する確認や、ボランティアの心理が具体的に描写されているとのコメントの他、以下の質問が出された。
・地域のボランティアのどこが一番問題だと感じているか。
 −行政がいつのまにかボランティアに負わせてしまっていること(外国人住民への言語サービスと地域サービス)と、ボランティア自身のささやかな奉仕活動という認識のずれ。
・提案にある「実践事例」はどのようなものか。
 −ペアの活動内容を変えていくこと、コミュニティーを作る活動を取り入れること等。

◆田村知佳氏(大阪大学大学院生)「ドイツにおける日本語学習者の学習動機」:
 日本語学習者が急増しているドイツにおいて、「学習者がどのような動機の要因から日本語学習に駆り立てられたのか」、また「その動機は時間の経過とともにどのように変動していったのか」を、大学生3名を対象に、Episodic Interviewing(特定のテーマに関するこれまでの日常的な経験に関する調査方法)を行なった。その結果、一見日本語とは関連のなさそうな言語を学んだ過去の体験と関連していること、またそれをひとつの内在的目標として言語学習自体を楽しんでいる(「学習行動に対するエンジョイ」)ことが明らかになった。調査対象者が少数であることから一般化は難しいとしながらも、ドイツにおける日本語学習者の動機を分析するにあたり「学習行動に対するエンジョイ」もひとつの重要な観点であることが示唆された。
 会場からは、分析の手順に関する確認や、実際にドイツで日本語教育に携わっていた方からのコメントの他、以下の質問が出された。
・自分のために勉強するドイツ日本語学習者の特徴をどのように考えているか。
 −個人主義、集団主義という観点から今後分析することを考えている。
・複合言語主義を実践するEUにおいて、EUの言語以外の言語を学習する意義はどのようなものか。
 −複合言語主義は、提言と実践がまだ伴っていないように感じる。しかし、EUの言語以外の言語を学ぶことは複合言語主義の理念である言語的多様性を尊重する姿勢の涵養へとつながると考える。

◆大山シアノ氏・大久保喜雄氏(カイ日本語スクール)「問題解決能力を養うための日本語授業の試み」:
 上級者としての日本語力をつける、問題解決の手法を取得する、授業を通して社会人基礎力の向上を目指す、という目的のもと行なわれた実践の報告。「問題解決能力」「基礎学力」など重要概念が理論をもとに丁寧に述べられた後、実践が報告された。そこでは、生活(例:進学の悩み)、ビジネス(例:仕事選びの悩み)、社会問題(例:救急医療問題)のトピックの中から、学生が問題を選び、その問題の原因や解決方法をグループで話し合い発表をする形がとられた。実践を学生からのフィードバックや、教師側からの観察をプラス面、マイナス面の両面から分析し、結果は、問題解決を通して学生自身が論理的な考え方が身についたという実感を得ていること、またグループ活動に主体的に参加している様子などが観察された。一方、手順の見直しの必要性や、グループ活動の際学生の役割が固定化するなどといった課題も明らかになった。しかしこれらは実践を改善するための貴重な資料となるものであり、これらを活かして今後も実践を継続していくことが述べられた。
 会場からは、実践への関心・興味を示すコメント、また実際に問題解決の手法を授業に取り入れている方からのコメントが寄せられた。主な質問は以下の通り。
・活動を通して文型が伸びないと感じている学習者にはどう対応できるか。
 −評価のあり方を検討していってはどうか。自分の評価、相手への評価といった2つの観点からの評価を取り入れることもできる。

 

原 芳子(比較社会文化学専攻)

 

 

◆言文・第2分科会の様子
                   (司会:金孝卿、記録:楊峻)

第2分科会では以下3件の発表が行われました。

◆王文賢氏(政策研究大学院大学・国立国語研究所・国際交流基金日本語国際センター)、早川正恭氏(中国海洋大学)による『個別会話における日本人教師の否定フィードバックと学習者の修正』では、以下の内容が報告されました。

日本語を主専攻の学習者を対象に、授業以外の時間で教師と学習者が一対一の場合、教師が使用する否定フィードバックを調べた。その結果、(1)教師による否定フィードバックの中、リキャストは最も使われていた。(2)文法エラーは意味の伝達に差し支えないため、交渉が要らない。(3)語彙エラー意味の伝達に関わるため、交渉がいる。(3)明示性の度合いが高いタイプのリキャストが成功アップテイクにつながりやすい。

発表後のコメント、質疑など以下の通りでした。
・教室外に注目する理由は何か。
→教室内では、学習者は教師のフィードバックに注意しないことで、自分の誤りに気つかないことがある。教室外の場合、教師と学習者一対一なので、学習者は常に注意を払うことができる。注意を払う場合、学習者は暗示的フィードバックに気づくかどうかを調査したかった。
・無視されたエラーとリキャストされたエラーと意味伝達はどんな関係にあるか。
→本研究では、リキャストは文法エラーへの対応が最も多いという結果が出され、先行研究と一致した。文法エラーにリキャストの多い理由は、母語話者が自然にエラーに気づくことができると考えられる。語彙や発音は発話に慣れていれば、意味交渉に差し支えないと思われる。
・リキャストの意味は何か。
→まず相手の言いようとする意味を分かって、その上で正しい言語形式を提供すること。
・教師対クラス全体と教師対一学習者という環境の違いを考察のところで踏まえるべきだと考える。学習者は30%のリキャストに対して反応がなかったが、反応がなかったから、誤りに気づかなかったと言えるのだろうか。
→教師は明確な意図で学習者のエラーに対応する場合、どのように対応するかを見たかった。L2教室の中で、言語形式は重要視される。言語形式に注目する場合、リキャストの与え方、学習者の反応の仕方は違うのではないかと考えた。また、ご指摘の通り、反応がなかったから、学習者は気づいていないとは断言できない。学習者は発話のチャンスがないことも考えられる。



◆蘇位静氏(愛国学園大学)による『言語少数派高校生は協働的読解活動にどう参加するか―言語能力差の有無に焦点を当てて―』では、以下の内容が報告されました。

言語少数派の高校生における支援の可能性を模索するため、協働的学習に基づいた読解活動を探索的に行った。M-GTで学習者のインタビューを分析した結果、言語能力差のないペアは、協働的読解活動をプラス評価している一方、言語能力差のあるペアは、協働的読解活動をマイナス評価している。今回の活動から、生徒の@既有能力への配慮、A言語能力の高い生徒への動機付け、Bタスクの吟味が必要であると示唆された。

発表後のコメント、質疑など以下の通りでした。
・言語能力差のあるペアで、言語能力の低い学習者は学びがあったのか、あるとしたらどんなものなのか。
→言語能力差のないペアはインタビューに積極的に答えた。一方、差のあるペア、特に言語能力の低い学習者は、インタビューにあまり答えなかったため、活動に対する気持ちは引き出せなかった。
・言語能力差のあるペアに今後どのように活動を改善していくか。
→教師は言語能力の低い人に注目しているが、言語能力の高い人への配慮は足りなかった。今後、ちゃんと言語能力の高い人に協働学習の意義を伝える必要がある。
・言語能力の要因だけではなく、性格の要因も考えられるのではないか。
→今回は、物理的なことでやむを得ずペアを組んだ。今後、性格や性別のことを考慮してペアを組む必要がある。
・同じペアでずっとやるのがいいだろうか。ペアを変えることも考えられる。日本語の学習だけではなく、人間育成の視点から見ることも必要ではないか。
→先行研究でペアを変えないほうがいいと言ったので、ペアを変えなかった。ご指摘の通り、今後人間関係構築の視点から考察する必要があると思う。
・差のないペアは実際にどんな状況であるか。
→差のないペアは相性がいい。中国人生徒は漢字に強いが、アメリカ人生徒はカタカナ語に強い。二人は補う形で活動を進めていた。
・段階を踏んでいろいろな活動をやったが、それぞれの活動の意図は何か。
→先行研究を基本に、修正して活動を行った。活動手順を再考する必要があると考える。
・協働学習の学習デザインが大事。仲間が一緒にやる必要性を考慮する必要がある。今回のデータは次のデータの比較対象になれる。協働学習を順調に進めるためには、言語能力は一つの要因で、他の要因もいろいろある。
→今後、活動をデザインする時に、言語能力だけではなく、いろいろな要因を考えていきたい。

◆堀川有美氏(東洋大学)、劉娜(お茶の水女子大学大学院生)による『Eメールでの作文フィードバックにおける添削者の思考のプロセス』では、以下の内容が報告されました。

Eメールでの作文添削において、添削者はどのようなことを考慮しながらフィードバック(以下FBとする)を決定しているだろうか。M-GTAで作文添削者のインタビューを分析した結果、添削者は実際にFBを決定するまでには2つのジレンマを乗り越えなければならない。これら2つのジレンマに対し、添削者は何らかのジレンマへの対処を行い、最終的にFBを決定する。どのようなFB方針を持つか、また、どのようなジレンマへの対処を行おうとするのかは、添削や作文学習に関する外での経験が影響を与えていた。

発表後のコメント、質疑など以下の通りでした。
・「言語面の分析」のカテゴリーがあったが、内容面についてのカテゴリーはない。また、「学習者によりそうFB」のカテゴリーに「内容を重視」の概念が存在する。言語面と内容面はどんなつながりになっているか。
→添削者は内容面についての語りはないため、図に表れていない。
・「添削者の願いを重視したFB」と「学習者によりそうFB」の2つのカテゴリーはジレンマになっているが、「学習者によりそうFB」の中に、「添削者の願いを重視したFB」も含まれているのではないか。
→ご指摘の通りである。「添削者の願いを重視したFB」はもっと大きな願いのような気がする。「添削者の願いを重視したFB」は、教師側の思っていること、例えば日本語形式や課題のジャンルなどが含まれている。
・「ジレンマへの対処」の中にたくさんの対処法が入っている。どの対処方がどのFBに対応しているか、この対処法はどこから来たのか、もう少し道筋を示したほうがよいのではないか。
→この部分は、今後の課題にしていきたい。FBへの対処はたぶん1対1の関係ではなく、もっと複雑な関係になると思う。
・2つのジレンマが出てきたのは面白い。「添削者の負担」と「学習者の負担」のカテゴリーはどんな関係であるか、それぞれの負担の特徴は何か。
→関係は出てこなかった。「学習者の負担」はあくまで添削者側の推測で、「添削者の負担」は添削者が実際に感じたものであるため、性質が違う。今後学習者の声を聞いていみたい。

楊 峻(北京語言大学)
 

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