お茶の水女子大学
日本言語文化学研究会
 

  【第35回 日本言語文化学研究会】

  【終了報告】

  ポスター発表  
 

       

  

  

 
     

  

  分科会  
 

   

    

 

 
     

 

  交流会  
 

 

 

 
     

 

 

   【各分科会の様子】

◆言文・第1分科会の様子
                   (司会:向山陽子、記録:白以然)

第1分科会では以下の3件の発表が行われました。
◆岡村郁子氏(お茶の水女子大学大学院生)による「「帰国生クラス」に対するイメージの検討―受け入れ形態よる差異に着目して―」では、
「帰国生クラス」と「一般混入クラス」に属する帰国中学生を対象にして、「帰国生クラス」に対する意識を調査した。その結果、帰国生はクラスに対する肯定度が高く、自由な雰囲気の中で「帰国生としてありのままの自分」を発揮できることなどのプラス面の意識を持っていた。反面、「緊張感の無さ」、「閉鎖性」などのマイナスイメージも持っていることがわかった。一方「一般混入クラス」の成員は「帰国クラス」に対する肯定度が低かった。しかし、帰国生として「違和感」「不適応」などに悩んでいる傾向があり、同化へのプレッシャーという「潜在的なカリキュラム」が存在することが窺われた。
と報告されました。発表後のコメント・質疑等は以下の通りです。
−中学生を取り上げた理由は⇒質問紙に答えできる年齢。また、帰国者と一般の区別が確実に行われているのも中学から。
−どのような受け入れ方が理想的か⇒それぞれ子供に合った学校を選ぶのが大切。どれが必ずよくて、どれが悪いとはいいがたい。ただし、日本語の能力が足りない子供を一般クラスに入れるときは注意が必要。
−潜在的なカリキュラムとは⇒目に見えない形で生徒に作用してくるもの。同化への要求、受験など。
−内からの同化のプレッシャーというのは外からのプレッシャーと関係があるものとして捉えられるか⇒外からのプレッシャーがなくても自ら海外の経験を封印しないという意識がある。
−意識のない学校、教員に対する対策は⇒様々な問題があるので地域および保護者の協力が必要。また、学年が上がるにつれクラス編成などのときも問題。

◆中川康弘氏(神田外語大学)による「バンコクに滞在する越日カップルのベトナム語継承実践−「子ども部屋時代」への移行期のなかで−」では、
バンコクに滞在している日本人とベトナム人の夫婦と2歳10ヶ月になる子供を5日間観察し、インタビューを行った結果を報告。家庭内の言語は、夫婦間は日本語、母親と子供間は日本語とベトナム語を併用している。ただし、日本語の割合が高くなっているが、これは日本語が限られた環境であるゆえ、将来日本で教育を受ける可能性の高い子供と母親自身の日本語維持のためという。夫婦は人格形成、帰属意識などのため両言語教育に積極的に取り組んでおり、日本に生活基盤を置くようになっても、ベトナム語の継承のため長期的に子供をベトナムに帰国させる計画も持っている。夫婦は、母語継承は親の問題という意識を持ちつつ、受入れ側となる日本社会の外部文化への尊重、構成員の啓蒙の必要性を指摘した。
と報告されました。発表後のコメント・質疑等は以下の通りです。
−夫婦の言語ネットワークはどのようなものか⇒外国人専用のマンションに住んでおり、住民の日本人とは交流が盛んに行われている。ベトナム語は奥さんが通っているヨガ教室での付き合い程度で足りないほう。
−母親は自分と子供の情緒面での共感からベトナム語の継承を望んでいるところはないか⇒もちろんそういった点もある。子供とのつながり、また多言語多文化を生きる子供の人格面への考慮なども含まれている。

◆村中雅子氏(お茶の水女子大学大学院生)による「フランス在住日系国際児と日本人母親は日本語継承にどのような意味を見いだしているのか」では、
フランス滞在の国際家庭での日本語継承実態を母親(6人)と子供(5人)の立場から調査した。調査方法は半構造化インタビューで、分析には修正版グラウンデッド・セオリーを用いた。母親は子供の将来に有利な言語という「道具的側面」と、自分と子供をつなぐ言語という「情緒的側面」から日本語継承を肯定的に捉えていて「意識的な継承」を実践しようといていた。一方、国際児は日本語に関して、自分と母親をつなぐ言葉、役に立つ言葉という面と、フランス語に対してうまく話せないことばという意識を持っていた。国際児において「日本語継承」は母子関係を強める行為であり、将来の可能性を広げるものであるが、面倒な勉強という側面もあることが窺われる。
と報告されました。発表後のコメント・質疑等は以下の通りです。
−対象者の国際児の中で1人はフランスと日本両方で住んだ経験があり、4人はフランスでの経験しかない。両者間日本語に対する意味づけの差は⇒日本の幼稚園を経験したA君は日本人の友達を作ったが、もう随分時間がたったので本研究に影響を及ぼした可能性は低い。
−児童が継承に対する葛藤を経験する場面がインタビューの中で出てきたか⇒まだコンフリットを経験する年齢に達してない。フランス社会との関わりが多くなるほどフランスを本拠地として捉え、バランスが変わる可能性はある。
−日本語だけを使う母親は意識的に日本語だけを使っているのか⇒フランス語は生活に支障がない程度のレベルであるが、徹底的に日本語だけという意識を持っている。
−夫の理解とは?また夫が日本語を習うこともあるか⇒日本とかかわる仕事をしている夫は日本語ができるが、できない人が多い。夫の協力的な姿勢とは、母子間日本語の会話を支持してくれること、日本語の補習、教材などへの経済的な支援などが挙げられる。

白 以然(国際日本学専攻)
 

 

◆言文・第2分科会の様子
                 (司会:菊池民子、記録:野原ゆかり)

第2分科会では以下3件の発表が行われました。

◆郭末任氏(お茶の水女子大学)による『日本語母語話者と学習者の会話に挿入される相づちの実態』では、
日本語母語話者と韓国人学習者の接触場面において、コミュニケーションを維持していくための方略として相づちがどのように活用されているか、また、母語話者の相づち使用が話し相手によってどのように変化するかを明らかにした。その結果、接触場面では母語話者が、学習者が提供した情報を受け止め、繰り返したり、補充したり、拡張したりするなどの学習者の発話をフォローしながらそこで相づちを活用するのが多く見られた。このことから、談話の進行役を務めるという自覚をもつ母語話者はコミュニケーションを円滑に進めていくためにフォローのための相づちを方略として活用していることが分かった。そして、母語話者の相づちの使用変化は、話し手の「学習歴」と密接に関連し、学習者の学習歴が短いほど、「ターンの冒頭」の相づちの頻度が高くなることが分かり、接触場面での特徴を明らかにした。
との分析結果・考察が示されました。これに対して次の質問や意見が出されました。
・韓国語の相づちの機能とはどのように違うのか。
―韓国語母語話者同士、母語話者と学習者の接触場面の両方の会話を分析した結果、両方とも5つの機能(聞いている,情報の了解,同意の表示,感情の表出,間をもたせる)のうち、間をもたせる機能以外の4つの機能が確認された。
・相づちの出現位置について、なぜ冒頭に注目したのか。
―相手によって変化が生じるかという観点から見た場合、冒頭で学習歴に変化がみられたので、この位置を選んだ。
・日本語母語話者の特徴である冒頭の相づちが、相手の学習歴が長くなるにつれて減ってきているが、これはどうのように解釈するのか。
―相づちの場所は4つに分けられる。最初は「聞いている」で、母語話者同士の会話では80%を占める。次は「ターンの冒頭」、その次は「ターンを取っている間、何かを言ってもうひとつ相づちを打つこと」、最後は「間をもたせる」。学習歴が長くなるほど普通の会話になるので聞き手として打つ相づちが多く入り、その結果、割合にすると学習歴が低いほど、「ターンの冒頭」が高くなった。

◆遠山千佳氏(立命館大学)による『第2言語としての「は」の習得―相互行為能力の観点から―』では、
KY コーパスを用いて、英語、中国語、韓国語の母語話者が「は」の構文をどのように習得していくかを発話態度、及び第一言語(L1)の関わりから考察した。文レベルと談話レベルの分析結果から、L1の主題の捉え方は「は」構文の使用に影響を与えるが、日本語の口頭能力に影響を与えるとは限らないこと、また、相手との相互行為を通してコンテクストを創り上げていくための「は」構文の機能が増加することは、日本語の口頭能力と相関を持っていることがL1に関わらず示唆された。このことから、係助詞「は」は参加者や環境などの制約のある社会的文脈の中で、情報のみならずモダリティ的発話態度の伝達を実現する「相互行為能力」が顕著に影響する項目であると考えられる。
との分析結果・考察が示されました。これに対して次の質問や意見が出されました。
・データを見ると、初級から超級に見られる一般的な特徴だと思うが、「は」に見られたのはどういうものか。
―精緻化して伝えられるようになるということ。
・日本語教育で、実際に会話指導などではどのような応用が考えられるか。
―日本語母語話者の分析を通して、書く時と話す時の「は」は違っていることが分かった。話す時の「は」は場面をこちらから設定するのではなく、自由会話で見ていくのがいい。交渉に関しても場面を設定してやってもらうのではなく、一つの方法として、談話の中の一部として示すということも考えられる。
・今回分析したのは全体の中のどれくらいか。残りは今後どのように見ていくのか。
―レベルによってかなり違う。初級の場合は一質問一答えがほとんどで、分量的には多くなっている。割合は測っていない。今回は隣接部分だけを分析したので、今後は全体部分について、何を行っているかを分析したい。

◆ナイダン バヤルマー氏(お茶の水女子大学大学院)による『動詞と形容詞の否定形の形成過程 ―モンゴル語を母語とするJSL年少学習者の場合―」の事例を通して』では、
モンゴル語母語話者の年少者(中学生)を対象に、動詞と形容詞の否定形に焦点を当てて縦断的に分析を行い、その形成過程を明らかにした。発話データと参与観察ノートの分析結果から、1)動詞と形容詞の否定形は、語または表現全体を定式表現として使用する段階を経て習得される。2)形容詞の過去否定形の方が習得が遅れる。3)動詞は誤用が少なく順調に習得されるのに対し、形容詞は正誤の変異性が高く習得が遅れることが分かった。そして、このような習得過程は用法基盤モデルの考えと近く、まだ研究が少ない中・高学年の学習者の習得過程を示せた。
との分析結果・考察が示されました。これに対して次の質問や意見が出されました。
・動詞の場合、定式表現で覚えるというのはどのように判断したのか。
―国で半年間日本語指導を受けてきたため、動詞は最初誤用も少なく、産出も多かった。そして、それらのほとんどが教科書で使われていたものだったので、教科書で覚えたものをそのまま使っているのではないかと判断した。
・動詞と形容詞を比べると、動詞の否定形のスキーマを作りにくい、形容詞のほうは作りやすいという点に関して、平仮名で書けば「く」が「か」で、全く違う音になると言えるが、ローマ字書きをすれば、子音のあと「u」を落として「a-nai」をつければいいとすれば、形容詞と同じだという議論もできると思う。文字から学んでいるということを前提にしてこのような議論になっているのか。
―そこまで考えていないが、なぜ動詞のほうが定式表現で、形容詞の方がスロット付スキーマになっているのかを考えれば、たぶんこのようなことで、そうなったのだろうと思った。
・1年間の縦断研究で気づいたことは?
―日本人との会話で覚えてきたものを自分なりにルールを作って、定着していっているということが分かった。
 

野原 ゆかり(比較社会文化学専攻)

 

 

 

◆言文・第3分科会の様子
        (司会:原田三千代、記録:テンヂャローン・モンルタイ)

第3分科会では以下3件の発表が行われました。

◆齋藤孝滋氏(フェリス女学院大学)『共生言語としての柔道用語をもととした変容日本語の特徴―世界マスターズ柔道選手権大会とフェリス女学院大学講道館日本語教育ボランティアの参与調査をとおして―』では、
柔道家の間で共生言語として使用されている変容日本語について、柔道用語と標準日本語との対象をとおして、その特徴を分析した。具体的な例として、評価に関する変容日本語【イッポン、ワザアリ、ユーコー、コーカ】、違反に関する変容日本語【シドー、シドーシャ】、行動に関する変容日本語【マテ】について取り上げられた。本研究で対象とする柔道家の接触場面において使用される「柔道用語を基とした変容日本語」は、岡崎眸(2007)が共生日本語教育の特徴を示す中で指摘する共生日本語の要素を満たすものであると、判断できる。
との分析結果・考察が示されました。これに対して次の質問や意見が出されました。
・柔道の用語の意味合いの幅が広いが、その用語の使用に差が見られるか。
―用語の使用に差があると考えられる。例えば、「一本」の意味合いはグループ差に変容もあると考えられる。
・ほめる時に使う言葉は「一本」以外に何かあるか。
―身振りや手振りなどで表すことが見られたが、国によって違いがあると考えられる。それについて今後はさらに研究したい。
国際化の影響によって、柔道の用語の使用について、同じ用語を違う意味で使っている場合はあるか。
―あると考えられるが、今後はさらに明らかにしていきたい。

◆滑川恵理子氏(お茶の水女子大学大学院)『子どもは「母語による先行学習」をどのように「日本語による先行学習」に結びつけるか−低学年の子どもを対象とする国語の学習支援から−』では、
中国出身の低学年の子どもを対象にし、その子どもの日本語での学習に視野を広げ、子どもが「母語による先行学習」をどのように「日本語による先行学習」に結びつけているのか、その実態を探った。その結果、国語の学習において、@母語で学んだ内容を自発的に日本語での学習に生かす、A日本語での学習に意欲をもつ、B母語訳を逐語的に日本語に結びつけるのではなく全体的に把握し日本語での学習に生かすなど、子どもが「母語による先行学習」で学んだ成果を生かして「日本語での先行学習」に順調に取り組んでいる様子が観察された。対象の子どもは朱(2007)の対象の子どもより年齢が低いのだが、低学年の児童であっても、「母語による先行学習」がこのような可能性をもっていることが示された。
との分析結果・考察が示されました。これに対して次の質問や意見が出されました。
・ 取り上げられた例は2つだが、他にどのようなものが見られるか。
―子どもの活発な日本語の使用が見られた。日本に来て8ヶ月間なので、日本語がまだたどたどしいが、JTが子どものたどたどしい発言をまとめてもう一度言い返す。
・2つの言語(母語と日本語)と教科の勉強に対して、子ども自身はどう考えているのか。
―子どもの年齢はまだ低く、自分の行った活動について振りかえることがまだできないが、観察の限りでは、子どもがいやがる様子が見られず、母親と一緒に母語を勉強するのが好きなようである。今後は同じ対象者の縦断的なデータをとり、研究を行いたい。
・ 子どもは3年生なのに、日本に来てからなぜ2年生に編入されたのか。
―2年生に編入したのは、学年を下げるわけではなく、子どもは9月に入学したため、時期が半年ぐらいずれているからである。
・ 支援はいつ行っているのか。
−放課後に行われた。
・ 母語の支援は子どもの日本語習得にどのようにつながるのか。
―日本語の習得は急いでいるわけでなく、子どもの日本語はまだたどたどしいが、他の子どもとやりとりができ、学校の先生と親の間の通訳ができる。

◆ 洪在賢氏(ホン チェヒョン)(筑波大学大学院生)『ピア活動における仲間との学び合
いはインタラクションのパターンによってどう異なるか』では、
韓国における文科系の学習者(初中級〜中級レベルの文型・文法の学習)を対象にし、
Storch(2002)を踏まえて、日本語教室におけるピア活動の相互作用のパターンを調べた。その結果、ピア活動への参加の対称性と相互性が高いほど、仲間同士の学びあいは、協働的になる。協働学習が起こるピア活動を導くためには、学習者たちが、@問題が発生した時、相手がその問題についてどう思っているか、また相手の問題解決の方法は何かをきちんと聞く必要がある、Aその相手の考え方を踏まえて、自分の考え方(賛成・反対)を表示する必要がある、Bまた、途中で問題解決を放棄しない、といった意識を持つように、練習する必要がある。
との分析結果・考察が示されました。これに対して次の質問や意見が出されました。
・ ピア活動で使用された再構築タスクの正解はあるのか。
―学習者が習った文法を使ったタスクであり、タスクのモデルはあるが、正解はない。
・ パターン1〜4はどのように変わるか。パターンとタスクの課題との関係はあるのか。
―パターンとタスクの課題との関係があると考えられるが、今回はまだ考察していない。
・ 学習者が協力しあっているが、どうしても情報が足りない場合はどうなるのか。
―学習者の動機とタスクの目的との関係についてもっと深く分析する必要があると考えられる。
・ パターン1〜4の判断はどのように行ったか。対称性と相互性は具体的にどのようなものなのか。
―StorchのEquality理論とリネのGround theoryを参考にし、分析を行ったが、時間の制限があるため、リネの理論について今回の発表では述べないことにした。
・ ピア活動中では教師の介入はあったのか。
―ほとんどは介入しなかったが。学習者の質問があった際に、教師が個人的に応答した。また、教師に頼ろうとするグループも見られた。

テンヂャローン・モンルタイ(国際日本学専攻)

 

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