第1分科会では以下の3件の発表が行われました。
◆岡村郁子氏(お茶の水女子大学大学院生)による「「帰国生クラス」に対するイメージの検討―受け入れ形態よる差異に着目して―」では、
「帰国生クラス」と「一般混入クラス」に属する帰国中学生を対象にして、「帰国生クラス」に対する意識を調査した。その結果、帰国生はクラスに対する肯定度が高く、自由な雰囲気の中で「帰国生としてありのままの自分」を発揮できることなどのプラス面の意識を持っていた。反面、「緊張感の無さ」、「閉鎖性」などのマイナスイメージも持っていることがわかった。一方「一般混入クラス」の成員は「帰国クラス」に対する肯定度が低かった。しかし、帰国生として「違和感」「不適応」などに悩んでいる傾向があり、同化へのプレッシャーという「潜在的なカリキュラム」が存在することが窺われた。
と報告されました。発表後のコメント・質疑等は以下の通りです。
−中学生を取り上げた理由は⇒質問紙に答えできる年齢。また、帰国者と一般の区別が確実に行われているのも中学から。
−どのような受け入れ方が理想的か⇒それぞれ子供に合った学校を選ぶのが大切。どれが必ずよくて、どれが悪いとはいいがたい。ただし、日本語の能力が足りない子供を一般クラスに入れるときは注意が必要。
−潜在的なカリキュラムとは⇒目に見えない形で生徒に作用してくるもの。同化への要求、受験など。
−内からの同化のプレッシャーというのは外からのプレッシャーと関係があるものとして捉えられるか⇒外からのプレッシャーがなくても自ら海外の経験を封印しないという意識がある。
−意識のない学校、教員に対する対策は⇒様々な問題があるので地域および保護者の協力が必要。また、学年が上がるにつれクラス編成などのときも問題。
◆中川康弘氏(神田外語大学)による「バンコクに滞在する越日カップルのベトナム語継承実践−「子ども部屋時代」への移行期のなかで−」では、
バンコクに滞在している日本人とベトナム人の夫婦と2歳10ヶ月になる子供を5日間観察し、インタビューを行った結果を報告。家庭内の言語は、夫婦間は日本語、母親と子供間は日本語とベトナム語を併用している。ただし、日本語の割合が高くなっているが、これは日本語が限られた環境であるゆえ、将来日本で教育を受ける可能性の高い子供と母親自身の日本語維持のためという。夫婦は人格形成、帰属意識などのため両言語教育に積極的に取り組んでおり、日本に生活基盤を置くようになっても、ベトナム語の継承のため長期的に子供をベトナムに帰国させる計画も持っている。夫婦は、母語継承は親の問題という意識を持ちつつ、受入れ側となる日本社会の外部文化への尊重、構成員の啓蒙の必要性を指摘した。
と報告されました。発表後のコメント・質疑等は以下の通りです。
−夫婦の言語ネットワークはどのようなものか⇒外国人専用のマンションに住んでおり、住民の日本人とは交流が盛んに行われている。ベトナム語は奥さんが通っているヨガ教室での付き合い程度で足りないほう。
−母親は自分と子供の情緒面での共感からベトナム語の継承を望んでいるところはないか⇒もちろんそういった点もある。子供とのつながり、また多言語多文化を生きる子供の人格面への考慮なども含まれている。
◆村中雅子氏(お茶の水女子大学大学院生)による「フランス在住日系国際児と日本人母親は日本語継承にどのような意味を見いだしているのか」では、
フランス滞在の国際家庭での日本語継承実態を母親(6人)と子供(5人)の立場から調査した。調査方法は半構造化インタビューで、分析には修正版グラウンデッド・セオリーを用いた。母親は子供の将来に有利な言語という「道具的側面」と、自分と子供をつなぐ言語という「情緒的側面」から日本語継承を肯定的に捉えていて「意識的な継承」を実践しようといていた。一方、国際児は日本語に関して、自分と母親をつなぐ言葉、役に立つ言葉という面と、フランス語に対してうまく話せないことばという意識を持っていた。国際児において「日本語継承」は母子関係を強める行為であり、将来の可能性を広げるものであるが、面倒な勉強という側面もあることが窺われる。
と報告されました。発表後のコメント・質疑等は以下の通りです。
−対象者の国際児の中で1人はフランスと日本両方で住んだ経験があり、4人はフランスでの経験しかない。両者間日本語に対する意味づけの差は⇒日本の幼稚園を経験したA君は日本人の友達を作ったが、もう随分時間がたったので本研究に影響を及ぼした可能性は低い。
−児童が継承に対する葛藤を経験する場面がインタビューの中で出てきたか⇒まだコンフリットを経験する年齢に達してない。フランス社会との関わりが多くなるほどフランスを本拠地として捉え、バランスが変わる可能性はある。
−日本語だけを使う母親は意識的に日本語だけを使っているのか⇒フランス語は生活に支障がない程度のレベルであるが、徹底的に日本語だけという意識を持っている。
−夫の理解とは?また夫が日本語を習うこともあるか⇒日本とかかわる仕事をしている夫は日本語ができるが、できない人が多い。夫の協力的な姿勢とは、母子間日本語の会話を支持してくれること、日本語の補習、教材などへの経済的な支援などが挙げられる。
白 以然(国際日本学専攻)