お茶の水女子大学
日本言語文化学研究会
 

  【第34回 日本言語文化学研究会】

  【終了報告】

  ポスター発表  
 

       

  

  

 
     

  

  分科会  
 

   

    

 

 
     

 

  交流会  
 

 

 

 
     

 

 

   【各分科会の様子】

◆言文・第1分科会の様子(司会:菊池民子、記録:ナイダン・バヤルマ)

1分科会では以下の3件の発表が行われました。

申愛子(株式会社ファーストリテリング)による「在日中国系企業の企業内接触場面における関係構築−日本人従業員の中国人経営者との関係形成プロセスを通して−」では、以下の内容が報告されました。
 在日外資系企業−中国系企業で働く日本人従業員(JW)の中国人経営者(CE)に対する意味づけは接触場面のコミュニケーションにどのような影響を及ぼし、それによって、CEとの関係はどのように形成されるのかを、修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(MGT)を用いて分析した。その結果、顧客との結びつきを大切にするという意識がコア概念になり、両側に【母語話者意識の強いカテゴリー】と【従業員意識の強いカテゴリー】が生成された。「母語話者意識の強いJWCEとの関係形成プロセス」では、CEから分岐を起こすことで信頼関係が構築されず、「従業員意識の強いJWCEとの関係形成プロセス」は信頼関係の構築に失敗する第1段階を持つが、気づきがある場合、第2段階に進むことで信頼関係の構築に成功することが分かった。
発表後のコメント・質疑などは以下の通りでした。
・気づきの具体例を教えてください。
―日本語でコミュニケーションをするのが難しい。日本人が外国人に高いレベルの日本語を求めるのはどうかなどと疑問に思っている。これは、経営者の言っている日本語と考えていることにはすれ違いがあるのではないかということを前提としているからこのような気づきがあったかと思われる。また、お客さんが日本人だから自分の日本人としてのメリットを活かし、お客さんとどう接触するか、どういう会話を求めているかを知っているので経営者の伝えたいことを理解して伝えることで会社や経営者のために意見の場を提案したいなどが見られた。
2つの形成プロセスがあるが、従業員の意識が強い場合、やっているうちに経営者の見方に収斂していくが、母語話者意識が強い場合、自分が日本人で、日本で商売しているから自分は上だと考えている人の場合、なぜ収斂していくことがないのか?
―従業員が関係構築をうまくいかないといけないという考えもあるかも知れないが、中国人が経営しているが、自分は日本人だからお客さんと経営者の間に立つことができているというメリットを強く感じていることから経営者として見るのではなく、ただ仕事をしているだけで、この人の下で仕事をしているという考えが少ないと思う。
2つの意識をどう働きかけることで開発が見られると思っているか?
―今回の研究では、このような問題点があることが分かっただけで今後の発展までできていないが、母語話者意識の強い従業員に対して、まず相手を求めて、相手の言語や社会理解の不足に対する理解があって、次に自分が日本人であることを意識することで信頼関係が構築されるかと考えられる。
 
小田珠生(お茶の水女子大学大学院博士後期課程)による「母語による言語少数派生徒への母語保持・育成教育の可能性」では、以下の内容が報告されました。
 「母語・日本語・教科相互育成学習モデル」(岡崎1997)に基づく支援授業に生徒の母親が支援者として参加した事例を「巨視的モデル」(Landry & Allard1994)の心理学的レベルを構成する成分に基づき分析し、親の教育権を保障し得るかという観点から支援授業の可能性を探った。その結果、親が自分の高い母語能力と子どもの高い日本語力を活かしながら、母語保持・育成教育に自律的に参加していることが確認された。
発表後のコメント・質疑などは以下の通りでした。
・「活力ビリーフ」とは何を意味しているのか?
8種類あるが、例えば、学校で自分の言語を使いたいというような意欲に関する考え方のことである。
・外国人の場合、母親が忙しくて支援に参加することはあまりできない方が多いが、今回の場合、母親は具体的にどのような状態にあり、どのように支援が始められたのか?
―生活のために働いている人が多いが、今回の場合、経済的に恵まれた家庭だったため支援活動に参加することができたと思う。夏休みに授業を見学しにきたとき支援のことをすすめたことで始めた。
・日本語の翻訳と母語の翻訳はどのように対応しているのでしょうか?
―翻訳作文をやった理由は、対象者は、教科書は理解できるがそれは表面的なもので、深く理解できていなかった。そのため、何度も書いていくうちに理解を深めていくことが目標であり、日本語か母語で作文を書くが、教材の理解が深まるためであれば新しい内容が追加されたり、削除されたりすることを気にせず、母語で頭を活性化させるために日本語を活かすという考えでやっていた。
・お母さんの日本語に対する考えはどういうものだったか?
―子どもの日本語は流暢だったが、お母さんから見れば、母語の方が不得意なのが際立ってきたので母語の方を意識していたが、日本語だけが伸びて欲しいとは考えていなかったと思われる。
宇津木奈美子(お茶の水女子大学大学院博士後期課程)による「子どもの母語を活用した学習支援における母語話者支援者の意識変容のプロセス」では、以下の内容が報告されました。
 「母語・日本語・教科相互育成学習モデル」に基づく教科書支援に参加した母語話者支援者の母語の活用に対する当初の懐疑的な意識はどのように変容したかを修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(MGT)を用いて分析した。その結果、母語話者支援者は当初、母語を積極的に活用することは、子どもに負担になると考えていたことと自分の役割が分からず、大きな不安を抱えていたが、母語によるやりとりを通して、子どもの母語力や母文化背景の実態を探り、そこから教材文と母語、母文化の接点を見つけ、それを母語による教材作成に結びつけていったことが分かった。
発表後のコメント・質疑などは以下の通りでした。
・相互育成のやり方として母語話者支援者は2つ場面に関わっているが、それぞれどういうことをやっていくのか?
―まず母語話者支援者と子どもは教科書の母語訳音読をし、母語でやり取りをしたあと、ワークシートで理解を確認する。その後、日本人支援者が加わって3人で、教科書の音読、内容のやりとり、そしてワークシートの順でやっていく。母語話者支援者が理解度を質問したりしてサポートするといった形で行う。
・日本語教育を専攻とする大学院生に着目した理由は何か?
―地域では母語支援は中国人がするが、日本語支援をどうして中国語でするのかという質問がよく聞かれる。しかし、せっかくの母語支援場面だから流暢な日本語能力を持つ大学院生を選ぶパターンがあるが、今回の場合、この3人は、最初は母語による支援を否定的に捉えていたが、継続的にやっていくなかで肯定的になり変化したことで選んだ。
・支援を受けていない子どもや同じ配偶で、日本人だけで行った場合と、あるいは中国人だけで行った場合などに比べてみることについてどう考えているか?
―地域では一人で教える場合が多く、このようにチームで教えるケースは少ない。しかし、母語話者支援者がいくら流暢な日本語能力を持っていても国語、文化、経済などをカバーすることは難しいと思う。
 

ナイダン バヤルマ(比較社会文化学専攻)
 

 

◆言文・第2分科会の様子(司会:佐野香織、記録:岡村郁子)

第2分科会では以下3件の発表が行われました。

     朴志仙氏(お茶の水女子大学大学院)による「韓国人日本語学習者の学習スタイル―Kolbの学習スタイル尺度(LSI)からの検討」では

Kolbの学習スタイル尺度(The Learning Style InventoryLSI)を用いて韓国人日本語学習者の学習スタイルについて測定を行った。その結果、@抽出された韓国人学習者の学習スタイル因子のうち「理性」因子がKolbの「抽象的概念化」のカテゴリーとの一致率が高い、A「理性」因子以外の3つの因子はKolbの学習能力と整合していないことから、韓国人学習者にはKolbの理論とは異なる学習スタイルが存在する可能性がある、という2点が示唆され、同時にKolbの尺度そのものの限界も示唆された。
との内容が報告されました。発表後のコメント・質疑等は以下の通りでした。

・「抽象的概念化」は因子分析の中ではどれに該当するのか?また「理性」因子がKolbの「抽象的概念化」のカテゴリーとの一致率が高い、という意味がよくわからない。もう少しよい表現の仕方があるのではないか。

 ―「抽象的概念化」はKolbの理論で用いられている言葉であり、発表者の因子分析によるものではない。本調査の因子分析により抽出された因子に含まれる項目のうち、「理性」因子の中の項目に、Kolbの「抽象的概念化」に含まれる項目と一致するものが多かったということである。

・先行研究の藤田(2002)の結果とこの調査の結果の異同は?

  ―藤田(2002)Kolb理論に基づいてはいるが尺度をそのままで用いたわけではないため比較は単純にはできないが、藤田では「理性型」と「活動型」の2因子という結果が出ており、本研究とも通じるところがあると思われる。

・対象者の条件(滞在期間などの属性)とスタイルの現われ方に関係があるのか。

―今回は限られた大学の優秀な学生のみが対象であったので、属性による検討は行っていない。今後はさらに対象者の枠を広げて検討したい。

・ご自身の韓国人学習者に対する教師としての経験に照らして、今回の研究結果をみて思い当たる点があるか?

  ―自分でも文法など段階を踏んでひとつひとつ積み重ねてやっていくタイプで、直感という学習スタイルではないように思う。韓国の学習者はコミュニカティブな方法より受身的な講義形式に慣れているためと思われる。

Kolbの尺度を用いて学習スタイルを明らかにすることと、尺度を検討することのどちらが研究の目的なのか? ご自身で新しい尺度を開発する可能性も含めて検討を望みたい。

―研究当初の目的は前者であったが、結果として尺度の検討も必要であるとの認識に至っている。尺度自身がきちんとしていないと学習スタイルを測ることができないので、今後の課題としたい。

 

◆李友敏氏(北京日本学研究センター)による「中国における日本語選択履修生のBELIEFSについて―日本語選択科目の改善を考える」では

中国の4つの大学における日本語選択履修生130名を対象にBALLI調査紙を使用し、@言語学習の適性 A日本語学習の本質 Bコミュニケーション・ストラテジー C日本語学習の動機 D教師の役割 E学習者の自律性 F教材・教授法、カリキュラムの設置、の7領域におけるBELIEFS調査を実施した。その結果、自国の学習者や自分自身についてあまり自信がない・日母語話者との日本語でのコミュニケーションを有意義と考えている・統合的動機が強い、教師に依存する一方、強制されずに自らの学習を望むという主体的認識、などの傾向が明らかになった。

との内容が報告されました。発表後のコメント・質疑等は以下の通りでした。

・調査を実施した4つの大学はレベル的にどの程度に位置しているのか。

―トップレベルの総合大学である北京大学はじめ、単科大学である中国海洋大学・北方工業大学、教員養成系の北京師範大学を対象としており、調査可能性も考え合わせていろいろなレベルから対象者を集めた。

・「教師への依存」と「自ら学習目標を持って勉強したい」というのは、矛盾ではないのではないか? 本調査の対象となっている選択履修生は主専攻の学生に比べて「自由に楽しもう」という気持ちが強いはず。非母語話者との交流も是とされているが、日本人とだけではなく仲間と日本語を話すこともそれはそれで楽しいと考えているであろう。そのあたりについて直感としてどう思われるか。

―ご指摘の通り、選択履修生は教師を必要としてはいるがもっと自分の興味に沿って勉強したいと考えていると思われる。

・本調査にあたり先行研究の調査項目を融合させたというのはなぜ、どのように?

―1〜4は主に橋本(1993)、5~6は若井・岩澤(2004)、最後の領域は現在の状況から発表者が付け加えたものである。

・選択履修生はただ単位が取りたいだけのために学習しているのではないか。

―単位だけのためという学生も確かにいるが、日本語そのものやアニメやマンガ・文化に興味を持っているという動機の方が多いことが調査結果から伺われる。

・選択科目の授業は週何回か。日本語の単位は取りやすいのか。

―授業回数は大学によっても異なるが、週4時間程度。はじめの授業にきてあとはこないで最後の試験だけにくれば単位は取れるので、取りやすいといえる。

 

◆村中雅子氏(お茶の水女子大学大学院)による「フランス在住の日仏国際カップルは子どもの日本語教育についてどのような教育観をもっているか」では

インターネット上で公開されている「フランス在住の日仏家庭の子育て」をテーマにした討論板における20ヶ月間148件の書き込みをデータとし、フランスという単一主義志向の社会で日本人親がどのような考えのもとで子供の日本語教育に取り組んでいるか・当事者の行為が社会とのかかわりを通してどのように方向付けられていくかについて、MGTAを用いて分析した。その結果、フランス社会やパートナーからのプラス・マイナス双方の影響を受ける中で、子供・親のどちらがリーダーシップを取るべきか迷いつつ、仲間と問題を共有したり、我が家式教育方針を考えるなどといった「日本語継承に臨む日本人親の教育観形成プロセス」が明らかになった。

との内容が報告されました。発表後のコメント・質疑等は以下の通りでした。

 ・インターネット上で公開されている討論板への書き込みをデータとしているが、それに   

  ついては研究倫理上の問題はないのか。少なくともサイトのアドレスなどを参考文献に     

  掲載する必要があるのではないか。

―同様にインターネット上のやりとりをデータとした社会学系の論文の著者に問い合わせたところ、すでに公開されているものについてはデータとして用いることに問題はないのでは、という返答を得ている。しかし、サイトのアドレス掲載も含め、倫理問題については今後さらに検討したい 。

・フランスでは日本語支援をするような動きはないが、アルジェリアやポルトガルなどで

は公教育で母語を保護するあまりかえって民族が孤立してしまうというお話があった。公教育による母語保持の成功例はないのか。

―フランスでは特に見受けられない。外国語教育として日本語を選択履修することはできるが、母語継承とは別物である。カナダではイマージョン教育の形で成功させている。 フランスではまずフランス語を勉強してからということで、移民の母語についてのフォローはない。

・「日本人親」というのは父親・母親どちらであるのか。

―インターネットの掲示板への書き込みであるので性別は不明。文章のスタイルからはかなりの方が女性なのではないかと思われる。

・フランス社会における日本語の地位はどのようなものか。

 ―高校で外国語として選択することができる。フランスに進出している日本企業からの

影響や、アニメ・マンガ、禅の精神などにより日本はブームになり認められている。

しかし日常的な言語として日本語に価値はなく、日常的に触れる機会もほとんどない。

・補習授業校における国際児に適した支援の検討を期待する、とのことであるが、アメリカの補習校では生徒の減少から予算の削減・派遣教員の減配など年々厳しい先細りの状態で、広がる一方の生徒側のニーズに応えることが困難であった。理想と現実のギャップは広がる一方であったが、フランスの補習校現状はどうか。

―フランスの補習校ではほとんど国際児であり、日本の学校教育を行うという文科省

の掲げる教育目標とは内実が乖離していた。また駐在員の多い大規模校と国際家庭が

多い学校でも求められるものが変わってくるので、ニーズに合った対応が望まれる。

 

岡村 郁子(比較社会文化学専攻)

 

 

 

◆言文・第3分科会の様子(司会:古市由美子、記録:堀切友紀子)

第3分科会では以下3件の発表が行われました。

◆劉那氏(お茶の水女子大学大学院)による『ピア・レスポンス活動によって作文学習意識はどう変わるか―JFL環境の中上級中国語母語話者を対象に』では、
中国の大学で日本語を専攻としている学生を対象に、ピア・レスポンス活動によっての学習者の作文学習がどう変わるかを明らかにした。その結果、中国語母語話者の日本の作文学習観には、〈仲間の作文への寄与〉〈仲間のコメントへの信頼〉〈自己推敲能力への自信〉〈作文課題への取り組み〉〈教師や仲間への要望〉という5つの因子に分類された。そして、このうち、ピア・レスポンス活動の前と後では第1因子〈仲間の作文への寄与〉と第4因子〈作文課題への取り組み〉において、有意な差がみられた。ここから、学習者にとって新たな「読み手」という側面への意識の高まり、教師だけが情報源ではなくなった現代の中国の情報化などが考えられる。そして、今後は従来アジアの学生には適さないといわれていたピア・レスポンス活動を、中国の日本語作文指導に取り入れていくことの可能性が示唆された。
との分析結果・考察が示されました。これに対して次の質問や意見が出されました。
・学習者が「日本語が正しいかどうかわからない」という不安を抱えている場合など、教師の指導の仕方が必要だとの説明があったが、具体的にはどのような教師の介入が適切だと考えられるか。
―ピア・レスポンス活動で内容面や簡単な文法をチェック・訂正した後に、教師が形式や文法など細かい面のチェックを行うといった、ピアと教師添削の融合を行っていくのが効果的なのではないか、と思っている。
・第1因子〈仲間の作文への寄与〉に関しては、ピア・レスポンス活動前と後で有意な差がみられるのに、それと関連していそうな第2因子〈仲間のコメントへの信頼〉において有意な差が見られなかったということは、どう解釈するか。
―学習者同士の信頼感が、もともと高かったことが影響しているのではないか。
・今回の対象者は、〈仲間へのコメントへの信頼〉がピア・レスポンス活動をする前から非常に大きいようだが、普段はどのような活動をしているのか。
―通常は教師による文法指導中心で特にインターアクションのある授業ではないが、作文を教師に提出する前に、成績の悪い学生が成績のいい学生に一度見てもらってから提出するというケースが多かったという事情を聞いている。

◆楊峻氏(北京語言大学外国語学院)による『精読授業にグループワークを取り入れる可能性―日本語学習館の観点から―』では、
中国における日本語学習者が、日本語の応用練習の授業においてグループワークの会話活動、翻訳活動を行った際の言語学習館の変化を明らかにした。その結果、学習者には伝統的な教師主導の言語学習観と、グループワークに肯定的な非伝統側面が共存していることがわかった。また、グループワークが言語学習観に及ぼす影響としては、グループワークにおいて日本語で意味のあるやり取りをすることになじみにくかったり、教師が指導者ではなく支援者として介入することに不慣れであったりと、従来までの教師主導型になじんできた学習者の戸惑いが見られたが、一方でテキストにはないグループワークの翻訳活動の自然さから、活動自体に興味を引かれたりと言語学習観にも変化がみられることが明らかになった。
との分析結果・考察が示されました。これに対して次の質問や意見が出されました。
・質問紙項目の日本語学習の性質、という項目において、グループワーク実施前と実施後では反対に値が低くなっているがこれはどのように解釈するのか。
―もともと数値が高いので統計的に有意な差は見られなかったと考えられる。また、会話タスクが違うことによる影響もあると考えられる。
・今回の調査に用いた質問用紙はどのように作成したのか。
―事前に中国の大学で日本語を学習している学生を対象にパイロット調査としてインタビューを行い、そこから出てきた項目を用いて質問紙を作成した。
・今回グループワークを取り入れたのは会話授業と翻訳活動だったとあるが、これはどのような理由からなのか。
―中国の日本語学習、もしくは調査対象大学の日本語学習の特徴として、従来まで授業において必ず行われ、力を入れて毎回行われてきていたのが翻訳活動と会話だったため。

◆堀川有美氏(稚内北星学園大学)、武田知子氏(恵泉女学園大学)、鈴木美希氏(日本学生支援機構)、清水寿子氏(お茶の水女子大学大学院)、徳丸智子氏(日本女子体育大学)らの共同研究(代表発表者;堀川氏)による『Eメールでの作文添削活動における添削行動決定要因 ―「さくぶん.orgプロジェクト」の事例を通して』では、
Eメールでの作文添削活動において、添削者の添削行動決定の背後にどのような要因があるのかを事例を通して分析した。具体的には、@FB回数、添削箇所数、A記載個所・コメントの有無、B対象、C添削内容という側面に注目して分析を行ったところ、「掲示板に投稿する」という活動への配慮や、全体のフィードバックの量・視覚的見やすさの考慮、「学習者に自己推敲してもらいたい」という添削方針の影響、Eメールのやり取りを複雑化しないための手段などが、実際に添削された作文と助言者インタビューから明らかになった。このことから、添削者の添削行動決定の要因として、活動自体の特性や、Eメールという媒体の特性、FBの量と複雑度、他の学習者・助言者の存在、助言者自身の方針、学習者自身の問題などが存在し、それらが相互に影響を与えあっていることが示唆された。
との分析結果・考察が示されました。これに対して次の質問や意見が出されました。
・今回の結果では、形態的要素への添削が約8割とあるが、形態的要素以外の要素の分析はやはり難しいのか。
―先行研究などと比べると多いのかどうかは検討が必要。むしろ紙媒体の場合より、方法やコメントなどが多いという印象。Eメールだから形態的要素以外の添削が行いにくいのではなく、むしろ添削者の方針など他の要因が大きいのでは。
・作文Bのやり取りで直接訂正に変化しているのは何故か。
―自己推敲してほしいという添削者の思いと、掲示板に投稿しなくてはいけないという実際的な締切の両方が交錯して、結果的に直接訂正という形をとったと考えられる。
・「関係作り」に関しては作文Aで表れ、作文Bでは表れていないのはどうしてか。
―作文Aでは一度目で新しい添削スタイルを取り入れ、それが定着したことにより、作文Bの二度目ではそのスタイルを改めて提示する必要がなくなったためだと考えられる。
・相互の作文を学習者同士、添削者同士が鑑賞しあえることについての効果はどのようなものがあるか。
―今回の分析の対象外だが、今後引き続き分析・考察・発表していく予定。
 

堀切友紀子(国際日本学専攻)

 

◆言文・第4分科会の様子(司会:半原芳子、記録:石井佐智子)

第4分科会では以下3件の発表が行われました。

◆平野美恵子氏(稚内北星学園大学)による「日本語母語話者・非母語者実習生による相互作用の批判的再検討―多文化共生指向の日本語教育実習から―」では
多文化共生指向の日本語教育実習における実習準備期間における実習間の話し合いを質的に分析した。
その結果、日本語母語話者(以下NS)、非母語話者(以下NNS)実習生の双方が自身のマイノリティとしての体験が語っていた。しかし、NNS実習生からその体験が語られることはNS実習生より少なかった。そして、NNS実習生が「微妙な問題で話しにくい」とテーマの深刻さを感じていることなどが明らかになった。
と報告されました。発表後のコメント・質疑等は以下の通りです。
・教室活動ではなく、実習の準備段階を追った理由は(もっと詳しく)?
―実習ではNNS参加者(主に定住外国人)が多く問題提起をするが、「日本人でもそう」「日本語が上手だったら」とNS参加者はそれを一般化する傾向があり、日本社会への同化を求めたり、NSの気持ちに寄り添えないと報告されている。NNS参加者に寄り添うためには実習生自身がマイノリティの人々との共生を感じていないとできないと考えられる。実習準備は実習生がNS、NNS間の問題を知り、どう寄り添うかを考える期間であることから、準備段階を実習の根幹をなす重要なものとして着目した。
・NNS実習生は日本での実体験を語らないとあるが、これは経済的にも言語的にも優遇される大学院留学生だからではないか?NNS参加者と境遇が異なるからでは?
―準備段階でNNS実習生からはNNS参加者との間に共通項を見出せないという声があった。しかし、あるNNS実習生は「自身の辛い体験を語りたくない」と述べており、境遇の相違よりも実習生その体験を引き出せなかった可能性もあると考えている。
・NS、NNSをマジョリティ対マイノリティという2項対立ではなく、あるときには誰もがマジョリティにもマイノリティにもなるという視点から見ては?社会文化的なテーマではなく、普遍的なテーマにすれば2項対立がなくなるのでは?
―普遍的なテーマから多面的に見ていくことも考えている。ただ、実習で用いる問題提起型学習や多文化共生を考えると、参入側、受け入れ側という観点や社会文化的なテーマは不可欠である。NS、NNS間の2項対立を可視化することによって、共生の前にどんな問題が潜んでいるかがわかりやすくなるのではないか。

◆杉原由美氏(お茶の水女子大学大学院)による「日本語母語話者と非母語話者の相互学習型活動における参加者のカテゴリー化実践―大学授業でのグループディスカッションを対象に―」では
大学授業で行われた日本語母語話者(以下NS)と非母語話者(以下NNS)の相互学習型活動におけるグループディスカッションを対象に現場の相互行為そのものに着目し、参加者の関係性を分析した。分析は、エスノメソドロジーの会話分析を用いたカテゴリー化実践の観点から行った。
その結果、NSの発話で対話は進み、NNSに対してNSが説明を行ったり、迷いがあったときはNS同士で相談したりしながらNNSの意見もくみ上げ、全体のコンセンサスを図っていくという相互行為が編成されていた。
と報告されました。発表後のコメント・質疑等は以下の通りです。
・グループでのやりとりで、あるNNSが却下されながらも自分の発言を意味あるものとして挑んでいく様子が印象的だが、この場合、このNNSがNS側に寄り添うことによってある種の同化を受け入れたのではないか?
―この場面ではNNSのチャレンジ、あきらめない姿勢とNSの歩み寄りが見られた。カテゴリー化の歩み寄りが見られたため、多文化共生の糸口と捉えた。
・NNSによる働きかけの大きさを感じ、NSの言語行動を歩み寄りとして見ることは難しい。一連のやりとりの中でNSの歩み寄りが強く見られた場面を報告して欲しい。
―NS、NNSの人数にかかわらず、NSがイニシアチブを握ることが多いが、このグループのやりとりでは転換点が見られた。この転換点が顕著だったのは当グループのみであった。

◆唐澤麻里(文化外国語専門学校)による「日本語教育におけるシャドーイングの有効性―1名の学習者を対象とした短期実験からの多角的考察―」では
日本語教育におけるシャドーイングの有効性を(1)聴解力の伸長、(2)ワーキングメモリに関わる能力の伸長、(3)発音の変化、(4)学習者がシャドーイングの効果をどのように捉えているか、という観点から分析した。
その結果、(1)聴解力に大きな伸長は見られない、(2)ワーキングメモリ容量の増大が見られた、(3)誤用の減少と母語の影響にも改善が見られた、(4)聴解面や発音面のみではなく、新規語彙・表現習得や学習動機にシャドーイングの効果を見出していた。
と報告されました。発表後のコメント・質疑等は以下の通りです。
・意味を考えずに、聴いたものを繰り返すというのはどういうメカニズムなのか?
―メカニズムはよくわからない。ただ、シャドーイングにはプロソディーシャドーイング(音声を重視し、わからない語があっても繰り返す)、コンテンツシャドーイング(意味を確認した上でシャドーイングを行う)というものがある。
・ベースライン期と処遇期は同じ教材を用いたのか?
―異なる教材を用いた。
・発音指導は行ったのか?
―行わなかった。
・使用教材を選ぶ際に気をつけた点は?
―会話など複数の人数によるものだと、わかりにくいと思い、時事ニュースを選んだ。
・発音面で改善が見られたとあるが、改善の見られなかったアクセント等はあるか?
―「フィリピン」のアクセントは改善されなかった。タイ語母語話者には「す」と「つ」の使い分けが難しいようで「つうさん」も改善されず、「すうさん」のままだった。
・シャドーイングを導入するのに一番効果的な時期は?
―英語教育では初中級に効果が出やすいという報告がある。
・シャドーイングの効果的な方法は何だと思うか?
―シャドーイングの録音を聞くことにより、気づきがあるようだ。また、その録音を聞くことによって、「次回こそはパーフェクト」という動機付けにもなるようである。
・学習者が録音をチェックするのは一般的なのか?
―英語教育では学習者が録音を聞き直すよう薦める研究もある。今回の処遇はそれにならって行った。
・先行研究との違いは?
―短音と拍の改善が見られた点が本研究の特徴だと考えている。
・発音の評価者は何名か?評価者によって基準が異なることもあると思うが…。
―研究者本人と日本語教師の2名で評価項目を定めた。評価はこの2名で一致したものを扱った。また、タイ語母語話者に気づいたこと等をコメントしてもらった。


石井佐智子(比較社会文化学専攻)

 

 

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