第2分科会では以下3件の発表が行われました。
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朴志仙氏(お茶の水女子大学大学院)による「韓国人日本語学習者の学習スタイル―Kolbの学習スタイル尺度(LSI)からの検討」では
Kolbの学習スタイル尺度(The
Learning Style Inventory:LSI)を用いて韓国人日本語学習者の学習スタイルについて測定を行った。その結果、@抽出された韓国人学習者の学習スタイル因子のうち「理性」因子がKolbの「抽象的概念化」のカテゴリーとの一致率が高い、A「理性」因子以外の3つの因子はKolbの学習能力と整合していないことから、韓国人学習者にはKolbの理論とは異なる学習スタイルが存在する可能性がある、という2点が示唆され、同時にKolbの尺度そのものの限界も示唆された。
との内容が報告されました。発表後のコメント・質疑等は以下の通りでした。
・「抽象的概念化」は因子分析の中ではどれに該当するのか?また「理性」因子がKolbの「抽象的概念化」のカテゴリーとの一致率が高い、という意味がよくわからない。もう少しよい表現の仕方があるのではないか。
―「抽象的概念化」はKolbの理論で用いられている言葉であり、発表者の因子分析によるものではない。本調査の因子分析により抽出された因子に含まれる項目のうち、「理性」因子の中の項目に、Kolbの「抽象的概念化」に含まれる項目と一致するものが多かったということである。
・先行研究の藤田(2002)の結果とこの調査の結果の異同は?
―藤田(2002)はKolb理論に基づいてはいるが尺度をそのままで用いたわけではないため比較は単純にはできないが、藤田では「理性型」と「活動型」の2因子という結果が出ており、本研究とも通じるところがあると思われる。
・対象者の条件(滞在期間などの属性)とスタイルの現われ方に関係があるのか。
―今回は限られた大学の優秀な学生のみが対象であったので、属性による検討は行っていない。今後はさらに対象者の枠を広げて検討したい。
・ご自身の韓国人学習者に対する教師としての経験に照らして、今回の研究結果をみて思い当たる点があるか?
―自分でも文法など段階を踏んでひとつひとつ積み重ねてやっていくタイプで、直感という学習スタイルではないように思う。韓国の学習者はコミュニカティブな方法より受身的な講義形式に慣れているためと思われる。
・Kolbの尺度を用いて学習スタイルを明らかにすることと、尺度を検討することのどちらが研究の目的なのか?
ご自身で新しい尺度を開発する可能性も含めて検討を望みたい。
―研究当初の目的は前者であったが、結果として尺度の検討も必要であるとの認識に至っている。尺度自身がきちんとしていないと学習スタイルを測ることができないので、今後の課題としたい。
◆李友敏氏(北京日本学研究センター)による「中国における日本語選択履修生のBELIEFSについて―日本語選択科目の改善を考える」では
中国の4つの大学における日本語選択履修生130名を対象にBALLI調査紙を使用し、@言語学習の適性 A日本語学習の本質 Bコミュニケーション・ストラテジー C日本語学習の動機 D教師の役割 E学習者の自律性 F教材・教授法、カリキュラムの設置、の7領域におけるBELIEFS調査を実施した。その結果、自国の学習者や自分自身についてあまり自信がない・日母語話者との日本語でのコミュニケーションを有意義と考えている・統合的動機が強い、教師に依存する一方、強制されずに自らの学習を望むという主体的認識、などの傾向が明らかになった。
との内容が報告されました。発表後のコメント・質疑等は以下の通りでした。
・調査を実施した4つの大学はレベル的にどの程度に位置しているのか。
―トップレベルの総合大学である北京大学はじめ、単科大学である中国海洋大学・北方工業大学、教員養成系の北京師範大学を対象としており、調査可能性も考え合わせていろいろなレベルから対象者を集めた。
・「教師への依存」と「自ら学習目標を持って勉強したい」というのは、矛盾ではないのではないか? 本調査の対象となっている選択履修生は主専攻の学生に比べて「自由に楽しもう」という気持ちが強いはず。非母語話者との交流も是とされているが、日本人とだけではなく仲間と日本語を話すこともそれはそれで楽しいと考えているであろう。そのあたりについて直感としてどう思われるか。
―ご指摘の通り、選択履修生は教師を必要としてはいるがもっと自分の興味に沿って勉強したいと考えていると思われる。
・本調査にあたり先行研究の調査項目を融合させたというのはなぜ、どのように?
―1〜4は主に橋本(1993)、5~6は若井・岩澤(2004)、最後の領域は現在の状況から発表者が付け加えたものである。
・選択履修生はただ単位が取りたいだけのために学習しているのではないか。
―単位だけのためという学生も確かにいるが、日本語そのものやアニメやマンガ・文化に興味を持っているという動機の方が多いことが調査結果から伺われる。
・選択科目の授業は週何回か。日本語の単位は取りやすいのか。
―授業回数は大学によっても異なるが、週4時間程度。はじめの授業にきてあとはこないで最後の試験だけにくれば単位は取れるので、取りやすいといえる。
◆村中雅子氏(お茶の水女子大学大学院)による「フランス在住の日仏国際カップルは子どもの日本語教育についてどのような教育観をもっているか」では
インターネット上で公開されている「フランス在住の日仏家庭の子育て」をテーマにした討論板における20ヶ月間148件の書き込みをデータとし、フランスという単一主義志向の社会で日本人親がどのような考えのもとで子供の日本語教育に取り組んでいるか・当事者の行為が社会とのかかわりを通してどのように方向付けられていくかについて、MGTAを用いて分析した。その結果、フランス社会やパートナーからのプラス・マイナス双方の影響を受ける中で、子供・親のどちらがリーダーシップを取るべきか迷いつつ、仲間と問題を共有したり、我が家式教育方針を考えるなどといった「日本語継承に臨む日本人親の教育観形成プロセス」が明らかになった。
との内容が報告されました。発表後のコメント・質疑等は以下の通りでした。
・インターネット上で公開されている討論板への書き込みをデータとしているが、それに
ついては研究倫理上の問題はないのか。少なくともサイトのアドレスなどを参考文献に
掲載する必要があるのではないか。
―同様にインターネット上のやりとりをデータとした社会学系の論文の著者に問い合わせたところ、すでに公開されているものについてはデータとして用いることに問題はないのでは、という返答を得ている。しかし、サイトのアドレス掲載も含め、倫理問題については今後さらに検討したい
。
・フランスでは日本語支援をするような動きはないが、アルジェリアやポルトガルなどで
は公教育で母語を保護するあまりかえって民族が孤立してしまうというお話があった。公教育による母語保持の成功例はないのか。
―フランスでは特に見受けられない。外国語教育として日本語を選択履修することはできるが、母語継承とは別物である。カナダではイマージョン教育の形で成功させている。 フランスではまずフランス語を勉強してからということで、移民の母語についてのフォローはない。
・「日本人親」というのは父親・母親どちらであるのか。
―インターネットの掲示板への書き込みであるので性別は不明。文章のスタイルからはかなりの方が女性なのではないかと思われる。
・フランス社会における日本語の地位はどのようなものか。
―高校で外国語として選択することができる。フランスに進出している日本企業からの
影響や、アニメ・マンガ、禅の精神などにより日本はブームになり認められている。
しかし日常的な言語として日本語に価値はなく、日常的に触れる機会もほとんどない。
・補習授業校における国際児に適した支援の検討を期待する、とのことであるが、アメリカの補習校では生徒の減少から予算の削減・派遣教員の減配など年々厳しい先細りの状態で、広がる一方の生徒側のニーズに応えることが困難であった。理想と現実のギャップは広がる一方であったが、フランスの補習校現状はどうか。
―フランスの補習校ではほとんど国際児であり、日本の学校教育を行うという文科省
の掲げる教育目標とは内実が乖離していた。また駐在員の多い大規模校と国際家庭が
多い学校でも求められるものが変わってくるので、ニーズに合った対応が望まれる。
岡村 郁子(比較社会文化学専攻)