お茶の水女子大学
日本言語文化学研究会
 

  【第33回 日本言語文化学研究会】

  【終了報告】

  ポスター発表  
 

       

  

  

 
     

  

  分科会  
 

   

  

 

 
     

 

   【各分科会の様子】

◆言文・第1分科会の様子(司会:向山陽子、記録:岩井朝乃)

第1分科会では以下3件の発表が行われました。


◆三宅若菜氏(桜美林大学)による『自律学習を基盤とした日本語学習において教師が注目する諸側面―実践報告の分析から―』では、以下の内容が報告されました。
自律学習を基盤とした個別対応型日本語授業「チュートリアル」の実践についての報告資料11件を分析し、実践の中で教師が注目し、解釈した事柄を分析した。その結果、教師が捉えたチュートリアルの長所としては、一斉授業で除外されやすい部分を取り入れることができ、個々のニーズや動機を重視できるという点が挙げられた。短所は専門授業の課題消化の時間になったり、目標設定が困難になるケースが見受けられる点であり、リソースの選択理由と活用法を更に検討する必要がある。これらは、実践において教師に委ねられた自由と責任、即ち教師の実践知を示すものであり、教師オートミーの概念育成につながると考えられる。
発表後のコメント・質疑などは以下の通りでした。
・この実践におけるリソース以外の観点は何か。
―支援と目標である。これからの分析事項でもある。
・教師の役割の変化や個別性の対応は、三宅、福島(2005)の結果が裏付けられたということか。
―前回の研究は支援に関することが中心であり、今回はリソースが中心であるという違いがある。
・ 教師のオートノミーと自律性の違いはなにか。
―自律性とは普通学習者のオートノミーを意味するが、今回は教師オートノミーに着目している。
・ 「実践知の手がかりを得る」とは?
―まだ専門家の間でも方法論が確立していないが、「どう実践知を明らかにする方法の手がかり・内容」を含むものとする。


◆王文賢氏(政策研究大学院大学)による『インプット重視の指導法が日本語習得に果たす役割―『精読』授業での実践を通して―』では、以下の内容が報告されました。
 中国の大学の初級日本語科目『精読』を、従来の文法重視の指導法を行う統制群17名とインプット重視の指導法を行う実験群17名に分け、8ヶ月間の実験を行った。実験終了後、筆記テスト(語彙・文法、選択肢形式)と会話テスト(日本人教師との対話、ロールプレイ)を行った。その結果、筆記テストの結果には有意差はなかったが、誤用文の出現率は実験群の方が統制群よりも有意に少なく、複文の正用数は実験群が統制群よりも有意に多かった。以上から、インプット重視の効果が確認できた。
発表後のコメント・質疑などは以下の通りでした。
・現在はインプットとアウトプットを踏まえたインターアクション仮説が主流だが、なぜあえてインプット重視の指導法にしたのか。
―大学の授業で8ヶ月間行う実践だったため、進度を確保するという制約があった。インプット重視の方法ならば、教師のコントロールがしやすく大人数のクラスでも可能であるため。
・インプット重視の指導法の効果を見るなら、筆記、会話テストではなく、聴解、読解を見るのが妥当ではないか。アウトプットに注目したのはなぜか。
―従来は理解タスク・産出タスクを使っている。理解タスクで検証して差が出るのは当然かもしれない。インプットだけの実験で、産出能力にどれだけ影響があるかを見たかった。
・誤用の中の「応答の欠如」は数が少ないが、応答のあったものはどうか。
―統制群では、12人が12箇所で応答すべきところ、3人、3箇所のみ出てきた。実験群では10人が10箇所で応答すべきところ、9人が9箇所で応答できた。
・「応答の欠如」を取り上げた理由はなにか。
―会話テストであるため。従来のクラスでは応答の練習、習得は難しく、会話クラスでは応答表現の欠如は意味の伝達には支障がないため、教師がフィードバックしないことが多い。適切な応答は、大量のインプットがあって始めて習得できるものではないかと考えた。
・ 今後の課題の形式・意味・機能のそれぞれの処理をするタスクとは?
―形式は学生の生活に関連のあるインプットをし、具体的な場面を提示する。


◆劉娜氏(お茶の水女子大学大学院)による『JFL環境における中上級中国語母語話者を対象とするピア・レスポンスの可能性』では、以下の内容が報告されました。
 JFL環境における中上級中国人学習者を対象とするピア・レスポンス活動の有効性を検証することを目的として、教師添削群35名とピア・レスポンス群36名で4ヶ月間の実験を行った。実験終了後、日本語母語話者6人に基準に従って3段階評価をしてもらい、両群の7回目の第一作文と自己推敲作文の評価得点についてt検定を行った。その結果、評価項目に有意差はなく、ピア・レスポンス群と教師添削群は同質であることが分かった。一方で7回目の第一作文では「形式面」の「文法の正確さ」と「構成の適切さ」において有意傾向が見られ、ピア・レスポンス群の評価特典が僅かに高かった。7回目の自己遂行作文の「内容」合計得点と「トピックとの整合性」「具体的叙述」に有意差が見られ、ピア・レスポンス群の評価特典が高かった。
発表後のコメント・質疑などは以下の通りでした。
・先行研究では、アジア系の学習者はピア・レスポンスに適さないとあるが、難しいと思った点はあるか。
―教師自身が協働学習を経験していないため、意義を聞いても実感がないことと、学習者が教師主導型の授業に慣れているために教師に答えを求めがちであるという点があった。
・ピア・レスポンスをする際、学習者のビリーフに対する働きかけはしたのか。
―導入が肝心で、1回半(2時間)を導入に使った。意義を説明するだけでなく、態度やコメントの出し方なども指導し、活動モデルをビデオで見せたりもした。作文だけでなく、人間関係の構築など、社会的な効果もある。
・仲間から学べるという意義や、意識変容という効果をどう調べるのか。
―これから発話分析をする予定。
・教師添削型でも、作文の内容にコメントすることもできると思うが。
―今回は内容面に触れていたのはピア・レスポンス群のみであった。


                                                                                            岩井朝乃(お茶の水女子大学大学院)


 

 

◆言文・第2分科会の様子(司会:内田安伊子、記録:滑川恵理子)

第2分科会では、以下3件の発表が行われました。

♦金井淑子氏(お茶の水女子大学大学院修了生)による「地域日本語支援においてNNSボランティアは何を実現しているか」では、
 地域の日本語支援の場にNNSが参加することによってどのような変化がもたらされるのであろうか。本研究では、ある地域の日本語教室におけるNSボランティア、NNSボランティア、学習者の3者の組み合わせによる学習場面を取り上げ、3者間の「発話の機能」を分析することにより、NNSボランティアがどのような活動を行っているかをまとめた。その結果、NNSボランティアは単なる通訳の役割ではなく、心理面のサポートも含めた学習者の理解を促すサポートを行い、また、NNSボランティアによって学習者のこれまでの人生の豊かな体験の一端が語られるなど豊かな学習が展開されていることがわかった。
との内容が報告されました。発表後のコメント・質疑等は以下の通りでした。
・NNSボランティアの数を増やすだけでなく、その他に何が必要か?
→母語話者の意識をかえることができ、また、複数の視点が得られる。○○人と捉える考え方
 が少なくなった。数だけでなく、事前にNSとNNSの話し合いがあるとよい。
・テキストを使用するか、使用しないかについて。
→どのようにテキストを使うかによる。教科書を使って生活に身近な表現を取り上げる。
・会場の出席者の中でNNSボランティアと一緒の教授活動の経験がある人に挙手してもらい、
 その時の様子を話してもらう。
→NSに影響を与えた。教師と学習者に分かれてしまうという意識を変革できた。学習者は正し
 い日本語でなくては、という束縛から開放された様子。
・学習者がNNSボランティアを好意的に受け止めない場合もあるのでは?
→このケースでも、事後インタビューで、母語を通したために時間内の自分の発話が減ったと
 いう学習者からの意見もあった。

♦福島育子氏(帝京平成大学)(濱川祐紀代氏(桜美林大学)は都合により欠席)による『「地域の日本語教室」に「漢字」は必要か〜あるボランティアの事例から〜』では、
 日本社会では漢字を避けて生活することは不可能に近いが、地域で生活を営み、かつ学校に通う機会をもたない学習者はその問題にどう対処しているのだろうか。本研究では、その疑問を明らかにするため、ある地域の日本語教室で長年活動しているボランティア1名を対象に、ほぼ独話形式のインタビューを行った。インタビューでは、調査者が「日本語教室の活動内容と漢字指導の実態を聞きたい」と依頼したにも関わらず、対象者による自発的な漢字指導についての回答がなく、調査者が最後に漢字指導について質問してようやくそれについての回答が得られた。このことから、日常生活で漢字が必要だということがわかっていても、話すこととしての「生活日本語」が優先され、学習者とボランティアとの間の温度差が生じていることがわかった。ボランティアが漢字も含めて学習者の生活場面をもっと具体的に把握するための学びや知恵が必要であろう。
との内容が報告されました。発表後のコメント・質疑等は以下の通りでした。
・インタビューは1人のボランティアを対象とするものであったが、学習者も含め両面からの声を聞くべきでは?
→過去に学習者を対象とするインタビューを行ったこともあるが、学習者は研究対象になりたがらない、教えてくれる側のボランティアに対し遠慮があるので本音を聞けないという事情がある。
・学習者は研究対象になりたがらないと言うが、学習者側に利益になる研究を行うのだとその主旨を説明すれば、協力してくれる人もいる。
・漢字の必要度を調べて学習者に提供するというかたちでは、教師と学習者の立場がはっきり分かれてしまい、「共育」を掲げる地域の教室にはなじまないのではないか?
→「学習」という意味ではなく、一緒に漢字を学べるということ。学校で習うようなかたちではなく、生活を基本とした漢字を考える。

♦森下雅子氏(早稲田大学)「外国人の語りにみられる参加の軌跡              —外国人支援コミュニティにおける参加のデザインー」では、
 イラン人、バングラデシュ人など少数派在日外国人は、多数派外国人のように既存のコミュニティを持たず、また、学校のような組織的な学習の機会に恵まれていないが、ラジオやテレビ、パソコン、また人的ネットワークを生かし、積極的に日本社会に適応している。本発表では、そのような少数派外国人の中で特にイラン人のAさんとバングラデシュ人のBさんに焦点をあて3年間に3回行ったインタビューから、14〜15年という長期にわたる日本での生活の間に国際ラウンジの学習者からボランティアを提供する側に変わったのだが、その積極的な活動はもとからの国際ラウンジの日本人ボランティアに必ずしも歓迎されていないという実情がわかった。「一方的支援」ではなく、当事者である外国人の声を生かし「共に町づくりに参加する」という関係が構築できるような学習環境のデザインを考えるべきである。
との内容が報告されました。発表後のコメント・質疑等は以下の通りでした。
・「学習環境デザイン」という表現について、「参加=学習」と考えてよいのか?
・発表の中の「8つのポジション」に興味をもったが、このカテゴリーはデータをとる前に作成したのか?
→得られたデータからカテゴリーを抽出した。
・この「8つのポジション」の中に、カテゴリー間をまたがるものがあるのでは?
→重なる部分もある。
・対象者に女性はいないのか?
→男性のみ。彼らのネットワークを明らかにするには、友だちの友だちがどうなっているか、その中で誰がリーダーになっているか、などを調べたい。
・国際ラウンジは設立されてからかなり年数が経っているようだが、主要な構成メンバーは変わらないのか?
→メンバーの大きな変化はなかった。この団体は区役所の別館にある。この団体が英語表記のお知らせを掲示板に掲示したことで、他の団体の中で英語表記のお知らせを掲示するところが出てきた。

                           滑川恵理子(国際日本学専攻)

 

 

 

◆言文・第3分科会の様子(司会:金孝卿、記録:朴志仙)

第3分科会では以下3件の発表が行われました。

◆ 李志暎氏(新大久保語学院)による「提案とその応答はいつ出現するのか:ビジネス・ミーティングにおける韓日対象」では
会社間のビジネス・ミーティングにおいて、提案とその応答の出現に韓日間でどのような相違があるのかを分析した。
韓国人と日本人のそれぞれ三つのグループのビジネミーティングを分析した結果、言語面だけでなく、参加のし方の面においても違いが見られ、決定以前の提案応答までのプロセスが異なっていることが明らかになった。
との内容が報告されました。発表後のコメント・質疑等は以下の通りでした。
・「韓国組み:BC(D)→F 日本組み:ABCD(E) →F」との説明があったが、これは直線的な流れなのか?
―直線的ではない。
・会話例の01K1は、背景説明と分析しているのだが、話題提示とは解釈できないのか。
―「〜についてですが」のようにメタ言語的な表現のみ話題提示として分類した。
・実際の機能を考えると、表現のみで判断するのはどうかとの印象を持ったが・・・
―本データの特徴として日本人の話題開始の際にはメタ言語的な表現が目立ったため、別枠にして分析したが、今後検討の必要がある。
・日本人のほうがメタ的な表現を多く使用している。メタ的な発話が使われると効率が高い印象があるが、無駄が多いような結果になった理由は?
―例えば、すぐ本題に入らず「これから会議を始めます」との段階を経ることなどが挙げられる。
・そのような枠組みを始めに提示することや、担当者をまず通すことは、効率のいい感じだが、そのような結論に至らなかった理由は?
―発話数や、提案から提案応答までの所要時間などを判断基準にした。今後検討していく。

◆李貞ミン氏(東京学芸大学)による「新聞社説における『主張のストラテジー』に関する韓日対照」では
韓日両言語観における「主張のストラテジー」の違いを、新聞社説を対象として文章構造の観点から探った。韓日の全国紙の新聞社説J:156文章、K:196文章をマクロ構造とミクロ構造の観点から分析した。
その結果、文章全体における主張(主題文)の出現位置や、主張を説得するための文章の展開方法に違いが見られた。
との内容が報告されました。発表後のコメント・質疑等は以下の通りでした。
・ミクロ構造の分析の際、問いを立てるような質問や、「一例を挙げてみよう」のような文はどの枠に入るのか
―問いを立てるような質問は、書き手の読み手への働きとして伝達的表現。「一例を挙げてみよう」は社説ではあまり現れないが、もしあるのなら伝達的表現になる。
・第1文のaに対して4つ、第2分に対して4つと、合わせて16通り考えられると思うが、独立して分析した理由は?
―第1文のaで80%以上が話題提示の客観的提示だったため、大まかに分析した。細かくはみてない。今後検討する。
・会話の中の主張で誤解を経験したことはあるか。つまり、文章の構造は会話に反映するのか。
―そのような経験が研究動機となり、文章構造の面から社説を分析することになった。
・日本語も韓国語も動詞が最後にくる。文の観点からは説明が難しくないのか。
―起承転結や、結論は最後に述べるといった教育は一緒だと思う。しかし、一概に文構造が同じだからといって文章構造が一緒とは言えない。

◆田代ひとみ(東京外国語大学)による「日本語学習者の文章プロダクト研究における課題:読み手との相互交渉という観点から」では
日本語の作文プロダクト(書かれた作文)の研究を概観した。国語学・日本語学、日本語教育における先行研究(言語の形態からアプローチ)では、@接続表現に問題が生じやすいA複文や接続詞などの使用が増加する中級から上級にかけてのレベルの文章に問題が生じやすいことから、学習者とJPの文章の比較以外の分析の必要性が伺われた。一方、テキスト言語学・文章理解・作文評価に関連する先行研究(文章の機能からアプローチする研究・読み手との相互関係に焦点を合わせた研究)では、文章を構成する要素として結束性と首尾一貫性の観点を取り入れていた。
プロダクト研究においては、言語面だけでなく内容面の分析する必要があり、読み手の観点を取り入れることや評価基準の検討が課題とされる。
との内容が報告されました。発表後のコメント・質疑等は以下の通りでした。
・プロダクト研究では斎山(1997)が内容面の分析を行なったようだが、より具体的な説明がほしい。また、内容では母語での影響もあると思うが…
―斎山以外には評価を取り入れた研究がない。母語話者別、評価別の分析の結果、意見文では、評価別では現れなかった。首尾一貫性、主張の根拠など内容面に大きな違いが出た。言語面では接続がうまく使われてなく、母語話者別、評価別に異なる。
・質的な観点を取り入れたほうがいいとのことだが、具体的なアイディアは?
―ブラジル人児童の作文を何人かに見てもらい、いいと思うもの、悪いと思うものを並べてもらい、わかりやすさ・わかりにくさの理由をあげてもらったのが評価基準になった。言語面と内容面両方が出てきて妥当性があると思った。しかし、評価基準はやはり難しい。
・内容面の評価項目を考える時に、どの文脈で書かれたのか、読み手は誰なのかも重要な要因になるのでは?
―評価者はネイティブの人だったが、今後様々な読み手が広がると思うので、評価者にノンネイティブを含めるなど、複数の手法を組み合わせる必要がある。今回ではプロダクトに絞って発表したが、そのような研究は今後考えなければいけないと思う。
・結束性、一貫性などわかりにくさの観点からの研究だが、具体的な項目が気になる。お勧めの文献は?
―概観はPolio(2003)、評価はWeigleを薦める。


朴志仙(国際日本学専攻)

 

 

◆言文・第4分科会の様子(司会:古市由美子、記録:小田珠玉)

第4分科会では以下3件の発表が行われました。

◆清水寿子氏(お茶の水女子大学大学院生)による『実習生の共生日本語教育イメージの変容:比喩生成課題による検討』では
教師がいかに共生日本語教育に取り組み、役割を見出しているかを明らかにするために、共生日本語教育を初めて経験する実習生のイメージを、〈教師〉〈参加者〉〈教室〉の相互作用に着目して分析した。その結果、実習生が生成する「比喩」は、〈教師〉〈参加者〉〈教室〉それぞれについて役割・機能といった動的なものと、特徴という静的なものに分類され、また動的な比喩の時期的な分析から、〈教師〉〈参加者〉〈教室〉〈社会〉が共生日本語教育の実践を通して相互に関わっていくことが明らかになった。また今回の結果からは、共生日本語教育の教師の役割のうち、アドヴォケーターの役割は見られなかった。
との分析結果・考察が示されました。これに対して次の質問や意見が出されました。
・実習に対してどのようにイメージが変わるのかが分かって興味深かったが、調査者自身は実習に対してどのような比喩を用いるか?
 −「万華鏡」。その人がそこにいることによって全体像が決まるから。
・内省レポートよりも比喩という方法を選んだのはどうしてか。また、内省レポートを分析していた場合、どのような結果が出ていたと考えるか。
 −「教師の知識構造を形式する『イメージ』は最も包括的に教師の感情や価値・要求・信念が結合し、比喩の形で定式化されたものであり、教師の行動を直感的に導く働きをするもの」と定義されているから。また、内省レポートを分析することでは、「自分が認識しているもの」を明らかにすることが可能だと考えている。
・説得力のある結果になってはいるが、縦断的なデータの良さは、変容を見ることが出来る点。一人ひとりの縦断データをもっと生かす方法があるのではないか。
・「アドヴォケーターを必要だと感じていない」という解釈もできるのではないか。/「アドヴォケーター」という答えが出ないのは、データを採取した時期や実習生の背景(NSかNNSかなど)にも関係があるのではないか。
−内省レポートを分析するなどによって検討していきたい。


◆半原芳子氏(海外技術者研修協会横浜研修センター)による『対話的問題提起学習における母語話者参加者の共生意識の変容:PAC分析による事例研究』では
ある対話的問題提起学習への参加者の「共生」に対するイメージを、PAC分析(個人的態度構造分析)の手順にしたがって縦断的に追うことにより、対話的問題提起学習への参加を通じて変化する個々人の心理的側面について検証した。その結果、参加前は〈交流〉〈個を見ていくこと〉〈共生を難しくするもの〉の三つにイメージ付けされていたものが、参加後は〈相手を理解し認める〉〈お互いに歩み寄る勇気〉〈日本人側の配慮〉となったことが明らかにされた。このことにより、文化交流志向の強かった参加者が、対話的問題提起学習への参加を通じて共生を自分に引きつけて考えるようになり、また共生を実現するために対話が重要であると捉えるようになったことが確認された。
との分析結果・考察が示されました。これに対して次の質問や意見が出されました。
・NNSではなくNSを対象にしたのはなぜか。
 −対話の実現にはNSの参加の仕方により大きな課題があると考えられるから、また自分がNSだから。しかし、NNSに関しても今後分析していきたい。
・他人事ではなく自分に引き付けながら考えられるようになるという、対話の重要性が示されたと思う。それは、NS同士の関係にも当てはまるのではないか。
・PAC分析のことがよく分からないのだが、三つの分類に優先順位はあるのか。
 −どれが中心的、というものではない。
・事例研究でありながら説得力があるのはPAC分析を用いたからだと思った。
 −(発表者から質問)しかしPAC分析で明らかにされるのは「認識」であって「行動」ではない。「行動」を見たいのであればどうしたらよいだろうか。
−(質問者からアドバイス)「行動」を見るのであれば、観察しかないであろう。


◆野々口ちとせ氏(お茶の水女子大学)による『共生を目指す対話をどう築くか:ある地域日本語教室の事例から』では
共生を目指す日本語学習として対話的問題提起学習に取り組んだある地域日本語教室での教育実践を分析し、「対話を通して問題はどのように具体化しどう位置づけられたか」及び「対話において教師はどんな役割を果たしているか」の二点を検討した。その結果、問題は対話において明確化、共有、深化、社会化、転移されながら位置づけられており、その際教師は「対話のステップ」に沿った話し方を示すことで、自分に引きつけて考える姿勢や双方の立場で考える姿勢を促していた。このことが、問題の本質を探る姿勢につながっていると考えられる。また教師は、言語上の手助けの求め方や手助けする方法を、身をもって示すことにより日本語を第二言語とする参加者の言語習得の促進に寄与していた。
との分析結果・考察が示されました。これに対して次の質問が出されました。
・教師が対話のステップを示すことによって「自分に引きつけて考える姿勢」や「双方の立場で考える姿勢」を促している具体的な場面を教えてほしい。
 −(会話の文字化資料等を用いて説明)
・「自分にひきつけて考える」ことや「双方の立場で考える」ことは、対話のステップ(ステップ1.〜6.)のどの段階に当てはまるのか。
 −対話のステップを示すことが、「自分にひきつけて考える」ことや「双方の立場で考える」ことを促す。一つひとつ当てはまる、というものではない。
 

小田珠生(女子美術大学)

 

 

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