第1分科会では以下3件の発表が行われました。
◆三宅若菜氏(桜美林大学)による『自律学習を基盤とした日本語学習において教師が注目する諸側面―実践報告の分析から―』では、以下の内容が報告されました。
自律学習を基盤とした個別対応型日本語授業「チュートリアル」の実践についての報告資料11件を分析し、実践の中で教師が注目し、解釈した事柄を分析した。その結果、教師が捉えたチュートリアルの長所としては、一斉授業で除外されやすい部分を取り入れることができ、個々のニーズや動機を重視できるという点が挙げられた。短所は専門授業の課題消化の時間になったり、目標設定が困難になるケースが見受けられる点であり、リソースの選択理由と活用法を更に検討する必要がある。これらは、実践において教師に委ねられた自由と責任、即ち教師の実践知を示すものであり、教師オートミーの概念育成につながると考えられる。
発表後のコメント・質疑などは以下の通りでした。
・この実践におけるリソース以外の観点は何か。
―支援と目標である。これからの分析事項でもある。
・教師の役割の変化や個別性の対応は、三宅、福島(2005)の結果が裏付けられたということか。
―前回の研究は支援に関することが中心であり、今回はリソースが中心であるという違いがある。
・ 教師のオートノミーと自律性の違いはなにか。
―自律性とは普通学習者のオートノミーを意味するが、今回は教師オートノミーに着目している。
・ 「実践知の手がかりを得る」とは?
―まだ専門家の間でも方法論が確立していないが、「どう実践知を明らかにする方法の手がかり・内容」を含むものとする。
◆王文賢氏(政策研究大学院大学)による『インプット重視の指導法が日本語習得に果たす役割―『精読』授業での実践を通して―』では、以下の内容が報告されました。
中国の大学の初級日本語科目『精読』を、従来の文法重視の指導法を行う統制群17名とインプット重視の指導法を行う実験群17名に分け、8ヶ月間の実験を行った。実験終了後、筆記テスト(語彙・文法、選択肢形式)と会話テスト(日本人教師との対話、ロールプレイ)を行った。その結果、筆記テストの結果には有意差はなかったが、誤用文の出現率は実験群の方が統制群よりも有意に少なく、複文の正用数は実験群が統制群よりも有意に多かった。以上から、インプット重視の効果が確認できた。
発表後のコメント・質疑などは以下の通りでした。
・現在はインプットとアウトプットを踏まえたインターアクション仮説が主流だが、なぜあえてインプット重視の指導法にしたのか。
―大学の授業で8ヶ月間行う実践だったため、進度を確保するという制約があった。インプット重視の方法ならば、教師のコントロールがしやすく大人数のクラスでも可能であるため。
・インプット重視の指導法の効果を見るなら、筆記、会話テストではなく、聴解、読解を見るのが妥当ではないか。アウトプットに注目したのはなぜか。
―従来は理解タスク・産出タスクを使っている。理解タスクで検証して差が出るのは当然かもしれない。インプットだけの実験で、産出能力にどれだけ影響があるかを見たかった。
・誤用の中の「応答の欠如」は数が少ないが、応答のあったものはどうか。
―統制群では、12人が12箇所で応答すべきところ、3人、3箇所のみ出てきた。実験群では10人が10箇所で応答すべきところ、9人が9箇所で応答できた。
・「応答の欠如」を取り上げた理由はなにか。
―会話テストであるため。従来のクラスでは応答の練習、習得は難しく、会話クラスでは応答表現の欠如は意味の伝達には支障がないため、教師がフィードバックしないことが多い。適切な応答は、大量のインプットがあって始めて習得できるものではないかと考えた。
・ 今後の課題の形式・意味・機能のそれぞれの処理をするタスクとは?
―形式は学生の生活に関連のあるインプットをし、具体的な場面を提示する。
◆劉娜氏(お茶の水女子大学大学院)による『JFL環境における中上級中国語母語話者を対象とするピア・レスポンスの可能性』では、以下の内容が報告されました。
JFL環境における中上級中国人学習者を対象とするピア・レスポンス活動の有効性を検証することを目的として、教師添削群35名とピア・レスポンス群36名で4ヶ月間の実験を行った。実験終了後、日本語母語話者6人に基準に従って3段階評価をしてもらい、両群の7回目の第一作文と自己推敲作文の評価得点についてt検定を行った。その結果、評価項目に有意差はなく、ピア・レスポンス群と教師添削群は同質であることが分かった。一方で7回目の第一作文では「形式面」の「文法の正確さ」と「構成の適切さ」において有意傾向が見られ、ピア・レスポンス群の評価特典が僅かに高かった。7回目の自己遂行作文の「内容」合計得点と「トピックとの整合性」「具体的叙述」に有意差が見られ、ピア・レスポンス群の評価特典が高かった。
発表後のコメント・質疑などは以下の通りでした。
・先行研究では、アジア系の学習者はピア・レスポンスに適さないとあるが、難しいと思った点はあるか。
―教師自身が協働学習を経験していないため、意義を聞いても実感がないことと、学習者が教師主導型の授業に慣れているために教師に答えを求めがちであるという点があった。
・ピア・レスポンスをする際、学習者のビリーフに対する働きかけはしたのか。
―導入が肝心で、1回半(2時間)を導入に使った。意義を説明するだけでなく、態度やコメントの出し方なども指導し、活動モデルをビデオで見せたりもした。作文だけでなく、人間関係の構築など、社会的な効果もある。
・仲間から学べるという意義や、意識変容という効果をどう調べるのか。
―これから発話分析をする予定。
・教師添削型でも、作文の内容にコメントすることもできると思うが。
―今回は内容面に触れていたのはピア・レスポンス群のみであった。
岩井朝乃(お茶の水女子大学大学院)