お茶の水女子大学
日本言語文化学研究会
 

  【第32回 日本言語文化学研究会】

  【終了報告】

  ポスター発表  
 

    

   

 
     

  

  分科会  
 

    

  

 
     

 

   【各分科会の様子】

◆言文・第1分科会の様子(司会:鈴木伸子、記録:平野美恵子)

 第1分科会では、次の3つの発表が行われました。

 一つ目は、金珍淑氏により「朝・中・日3言語併用者の会話における一方進行コード・スイッチング」という題目の発表がなされました。3言語を駆使する朝鮮族が、言語生活の中でどのようなコード・スイッチング(以下CS)を行っているのか、量的・質的方法を用いて分析した結果が提示されました。結果、「言語の特徴」による一方向進行のCSが見られ、朝鮮語→日本語の一方向CSとしては「意味領域の違い」「曖昧な表現」「決まり文句」など、日本語における文化的側面が含有される表現を用いる際にCSが起こることが報告されました。また、朝鮮語から中国語への一方向的なCSとして、「敬語使用回避」などのCSが見られたことが、会話例を用いることで具体的に提示されました。 

二つ目は、半原芳子氏により「対話の実現に向けてー対話的問題提起学習の実践からー」という題目で、地域に住む日本語母語話者・日本語非母語話者間の対話提起学習における実践上の困難点が、やりとりの分析を通じて検証されました。結果、非母語話者が日本社会で生活する上での問題を提示した際、母語話者が提示した問題を一般化する、他人事のように扱うなど、母語話者の問題を真摯に受け止めていない姿勢が見られ、そのような姿勢が二者間の対話の実現を困難にしていることが示唆されました。 

 三つ目は、岩田夏穂氏による「接触場面における3人のやり取りに見られる会話参加−イニシアチブ・レスポンス分析による小グループのコード化の試み−」で、ターンを詳細にコード化することで、留学生1名と日本人学生2名による三者間会話の特徴が提示されました。その結果、予め会話参加者全員と顔なじみだった日本人学生の剛太はターン数が少なく、初対面の浩二とアルの二者間でのターンが多かったことが示されました。一方、剛太によるターン数が少ないもののイニシアチブの強いターンを主に発しており、やりとりにおけるターンの数が会話での力関係を示すわけではないことが示唆されました。

 いずれの研究も、日本語を用いた言語生活の多様化を反映しており、日本語教育を新しい視点から切り込む意欲的な発表でした。また、会話例などが具体的に提示されていたことで、研究内容がより興味深く感じられ、聴衆からも活発な質問・意見が寄せられました。
 

お茶の水女子大学 平野美恵子

 

◆言文・第2分科会の様子(司会:小田珠生、記録:内田安伊子)

第2分科会では3件の発表が行われました。

◆金孝卿氏(東京大学大学院工学研究科)による『日本語教室の「セルフ内省」活動における学習プロセスの実態−内省の観点とレベルに焦点を当てて−』では

教室での学習終了後,内省シートを記入することにより直前の学習体験について一人で振り返る活動を「セルフ内省」と呼び,その意義と課題を検討した。中上級学習者1012名に対して12回の当該活動を行った結果,内省の観点としては,対象タスク・言語学習・学習者自身・その他の4類が挙げられ,また,それぞれの観点において,事実や気付きの再生→関連付け・統合と価値付け→関連付けから統合および価値付け,というレベルの深まりが見られた。

との内容が報告されました。発表後のコメント・質疑等は以下の通りでした。

・授業の後に振り返りシートを書かせることはあるが,その内容についてこのように丁寧に検討したことがなかったことを反省している。

・内省の観点の広さや深さと言語能力との関連についてはどのように考えるか?−今回のデータからはなんとも言えないが,SLA分野の研究で,学習を意識化できる学習者は能力も高まるという結果が出ているので,おそらく関連があると考えている。

・初級の学習者に対してもさせることができるか?−母語または媒介後の使用を認めることによって可能だと考える。

・「気付き」と「意識化」との相違は何か?−「気付き」は単なる事実の再生。「意識化」は,そこに関連付け,統合,価値付けなどが加わる。

・意識化は言語化されなければならないか?−言語化されることは自分へのフィードバックになるので,言語化してこそ意識化の意味がある。

・個人内での変化はあったか?−あったと考えている。ただし,ピア活動を行ったので,変化を個人内部のものとしてよいかどうか断定できない。

・この研究とWenden(1991)との相違は何か?−内省の4つの観点がどのように関連しているか,を考察した点が本研究の独自性。

・「セルフ内省」は発表者のネーミングか?−そう。一人で行う内省という意味。

◆富谷玲子氏(神奈川大学)による『リソースの欠如と過剰−学習者がリソースを活用するための前提条件の分析−』では

日本語学習とリソースの関係を調査した先行研究のデータを整理分析することにより,リソース活用の促進あるいは阻害要因が明らかにした。促進の要因は,日本語に何らかの価値付けをしている共同体に参加し,そこで日本語の使用を決意することである。一方,阻害要因としては,適切なリソースに手が届かないという物理的条件,知識や経験の不足からある対象をリソースとして自らに関連付けられないこと,さらに,リソースと学習者の接触を阻む存在,が挙げられる。

との分析結果が示されました。これに対して次の質問が出されました。

・リソースの定義は?−本研究では,「環境の中から学習のために学習者が選び出したもの」と捉えている。定説として確立されてはいないが,一般的には,リソースとは「物・人・ネットワーク」の三者,あるいはこれに「情報」を加えた四者と考えられている。

・たとえば,こどもが学校の勉強の予習をする場合,母語で学習内容を予習して授業に望んだら,授業の内容をよく理解できた,ということがあったとする。このとき,母語または母語で理解していった内容は,リソースといえるだろうか?−本研究ではなるべく簡潔な見方で定義したいので。内面化されたものはリソースとは捉えない。 

◆石橋玲子氏(茨城大学留学生センター)による『日本語学習者の文章構成における第一言語の影響−中国人母語話者の論説文を対象に−』では

中上級学習者16名がa.日本語で,b.中国語で,c.中国語で書いたものを日本語に直して,それぞれ書いた論説文を比較することにより,第二言語の文章構成に及ぼす母語の影響を探った。その結果,aとbの構成パターンは類似しているが,主題文の位置は異なることがわかった。また,構成の観点から質的な評価をおこなったところ,aとbの得点には相関がなかった。以上から,第二言語による作文の構成面に影響を与えるのは,第二言語能力と第二言語による作文学習の経験ではないか,ということが示唆された。

との考察結果が発表されました。この結果に対しての質疑は以下の通りでした。

・構成パターンの比較において,第二言語で書いた作文にはだらだらした文,意見のない文が多い,とあるが,これは習熟度が関係するのではないのか?−その通りだと考える。

・cを書かせるとき「bに忠実に」ということをどの程度協調したか?−特に「忠実に」とは指示していない。

16名の間の能力の差は?−プレースメントテストで振り分けて同じクラスになったメンバーなので,当初の能力は均一のはずである。

・作文のサイズはどのくらいか?−40分内で書けるだけ書かせた。字数などのデータは今持っていないので答えられない。

・cの場合,一度母語で書いたことが学習効果を生んでいると考えられないか?たとえば,そのときのアウトラインを生かす,などということができたのではないか?−bとcは構成パターにも相関あり,という結果からも示唆されるとおり,学習効果はあったと考える。

早稲田大学日本語教育研究センター 内田安伊子 

 

 

 

◆言文・第3分科会の様子(司会:倉田芳弥、記録:白以然)

第3分科は、談話に関する3つの研究発表が行われた。最初にタイ出身のモンルタイさんが「タイ語母語話者初級日本語学習者の「聞き返し」ストラテジーの使用と有効性について」を発表、2番目に遠山さんが「注意の分配が語用論的知識の習得に与える影響」を、3番目の楊晶さんが「相づちの中日対照研究」を発表した。3つの研究は、実際の学習者と母語話者のコミュニケーションにおいてなりうる問題を指摘、その解決のための知見を提供するための研究といえる。20-30人くらいの人が聞きに来て、討論もスムーズに行われた。

お茶の水女子大学国際日本学専攻 白以然

 

 

 

◆言文・第4分科会の様子(司会:原田三千代、記録:孫愛維)

第4分科会(304教室)では次の三つの研究発表が行われました。 


一つ目の発表は、国際交流基金日本語国際センターの篠崎摂子氏による「中国における非母語話者日本語教育の質的変化−大平学校と北京日本学研究センターにおける実践から−」です。篠崎氏が大平学校とその後身の北京日本学研究センターにおけるコースの変遷、日本語教育の展開について報告し、今後中国における日本語教育の方向性についても述べられました。

二つ目の発表は、筑波大学留学生センターの石上綾子氏が「外国人児童を対象とする母語を活用した教科学習支援の縦断研究」を報告されました。コロンビア出身の一児童を対象に、1年間母語を活用した学習支援が役立つかどうかを調べました。結果として、母語の活用によって、日本語が上達のみならず、校内国際集会にも積極的に参加するようになりました。

三つ目の発表は、高崎三千代氏による「海外日本語学習者にとっての日本人ホームステイの意義−フィリピンの事例からの考察」です。日本語を専攻する大学生が日本人高校生を受け入れたフィリピンでの事例から、海外で日本研究を専攻している学生にとって、ホームステイがどのような意義があるかを考察しています。その結果、ホームステイによって、受け入れ側は、日本語の重要性を認識することが出来たことを明らかにしました。

各発表者にはコメンテーターからの質問等がなされ、また、会場からも多くの質問が寄せられ、活発な討議が行われました。
 

お茶の水女子大学国際日本学専攻  孫愛維

 

 

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