お茶の水女子大学
日本言語文化学研究会
 

  【第31回 日本言語文化学研究会】

  【終了報告】

  ポスター発表  
 

    

    

    

 
     

  

  分科会  
 

    

 
     

 

   【各分科会の様子】

◆言文・第1分科会の様子(司会:原瑞穂 タイムキーパー:楊虹)

 では3つの研究発表が行われた。まずは田渕七海子さんによる「日本語学習者と母語話者のe-mailを使用した作文活動におけるフィードバック」である。田渕さんはJFL環境にある学習者の日本語による作文へのフィードバックを協働学習という観点から先行研究のFBのコードを精緻化して分析を行った。口頭発表では、日本人大学生が積極的に学習者と関係作りを行っていることや、学習者が母語話者の助けを得て加筆していることなど、具体的な事例を伴う説明が行われた。質疑応答の時間においては、原田三千代さんが丁寧なコメントを述べ、また会場の方からも協働活動に対する捉え方などに関する質問が出された。

 次の発表は奥村三菜子さんによる「補習授業校における国際児にとっての日本語教育のあり方を考える」である。ドイツの海外教育施設における日本語補習授業校の現状を報告し、筆者の行っていた実践プロジェクトを紹介しました。それにより、言語(日本語)能力の捉え方について、日本人子女等の国際児を考えるときに、再考する必要があると指摘した。質疑応答の時間においては、三輪充子さんがコメントを述べ、会場からは、上野先生からもコメントや新たな研究へ向けてのアドバイス等をいただいた。

 最後の発表は堀川有美による「インタビューテストとグループテストにおける対話者の支援的発話の比較」である。インタビューテストとグループテストという二つの口頭テストの違いを、対話者の支援的発話が受験者の発話と評価に与える影響という観点から分析した。発表では、堀川さんは豊富な会話例を用いて、二つのテストでの支援的発話の特徴を描き出し、二つのテストの評価項目の違いや、グループテストにふさわしい評価尺度の作成の必要性を指摘した。質疑応答の時間においては、房さんにより丁寧な講評が行われた。

お茶の水女子大学国際日本学専攻 楊虹

 

◆言文・第2分科会の様子(司会:高崎三千代、タイムキーパー・李佳盈)

2分科会(302教室)では次の三つの研究発表が行われました。 

一つ目の発表は、小熊利江氏による「中東地域の日本語教師たちの感じる困難」です。小熊氏が「中東日本語教育セミナー」に参加した日本人教師を対象者にして調査を行いました。中東地域で日本語教育のリソースが不足の現状と教育に影響をもたらす特有の宗教と政治の要素を述べられました。それらを理解して日本語教育を行う必要性と今後の中東地域での日本語教育への支援のヒントを示しました。

二つ目の発表は、政策研究大学院大学大学院生のスィリポンパイブーン・ユパカー氏が「タイ語母語話者の日本語アクセント習得における『意識』の役割」を報告されました。異なるレベルのタイ人学習者を対象に、意識的学習はアクセント習得に役立つかどうかを調べました。結果として、無意識的学習者は、学習時間が長くても、アクセント正用率が上がらないに対して、意識的学習者は学習時間が短くても、高い正用率が見られました。また、上手な学習者の特徴として、以下の三点を述べられています:@アクセントの高低の基準を持っていること。A自己モニターを行っていること。Bアクセントを記号化し、記憶すること。

三つ目の発表は、お茶の水女子大学大学院生伊東あゆみ氏による「日本語学習者同士が読解過程を共有することの説明文理解への影響」です。本研究は説明文を刺激材料として、個人群とペア群を分けて、どのような内容理解(読解)を行われていたかを調べました。結果として、L2の日本語学習者が説明文を読む場合、抽象的な表現が書かれた内容が、具体例が書かれた内容より理解しにくいことが明らかになりました。また、ペアで読解過程を共有し、お互い理解の促進になるよう助け合ったり話し合ったりして読んだ場合、一人で読んだ場合と質的に違う表象が作られることが示されました。

近隣の教室からマイクの雑音が入ってきて、少し教室内の発表に影響してしまったが、各発表者にはコメンテーターからの専門的な解説や質問等がなされ、また、会場からも多くの質問が寄せられ、活発な討議が行われました。

お茶の水女子大学国際日本学専攻 佳盈 

 

 

 

◆言文・第3分科会の様子(司会:古市由美子、タイムキーパー:田崎敦子)

第3分科会では、以下の三つの発表が行われました。

まず、平野美恵子氏により「多文化共生指向の日本語教育実習におけるティーチャー・コミュニティー構築の過程」という題目の発表がありました。多文化共生指向の日本語教育実習における話し合いを縦断的に分析し、Teacher Communityの構築過程を明らかにしようとするもので、話し合いの展開が、3つのパターンに分類されること、その展開パターンは、時間経過に伴い変化するという結果が報告されました。こうした結果から、実習生が、相互作用の蓄積を通し、協働的な意思決定を行い、Teacher Communityを構築していく可能性が示唆されました。質疑応答では、展開パターンの変化のきっかけとなるものは何かなどの質問があり、展開の詳細について議論されました。

 次に、木村美希氏から「日本語非母語話者と母語話者を触媒する実習生のストラテジー」という題目の発表がありました。木村氏は、実習生と日本語クラスの参加者間の会話から、実習生の触媒者としてのストラテジーを分析し、そのストラテジーが参加者のコミュニケーションに与える影響を明らかにしました。質疑応答では、教師の触媒者としての役割を会話の中から見出すことの意義、また、教師ではなく、母語話者の参加者が触媒者の役割をする可能性などについて議論が行われました。

 最後の張瑜珊氏の発表「台湾の日本の女子大生同士における初対面会話の対照研究」では、台湾と日本の女子大生同士の初対面会話を、話題選択の観点から比較した結果が報告されました。両者の話題選択の差異を見るために、話題をタイプ別に分類し、初対面会話に現れるタイプを分析した結果、会話全体から見ると、台日間に出現する話題のタイプに差異は見られませんでした。でも、時間を細かく分けて分析すると、日本人の会話では、時間の経過とともに話題に変化があり、台湾人には、ほとんど変化がみられないという結果が示されました。質疑応答では、話題タイプの分類方法や、台日間の「親近感」の認識の相違を明らかにする必要性などについて議論されました。

 どの発表においても、質疑応答の時間に多くの質問や意見が出され、時間が足りないという状態でした。活発に議論が展開され、様々な視点から発表の内容について考えられたことで、それぞれの発表の意義がさらに深まったと思います。

東京農工大学 田崎敦子

 

 

 

◆言文・第4分科会の様子(司会:菅谷奈津恵、タイムキーパー・穆紅)
第4分科会では、次の3つの発表が行われました。

 一つ目は、向山陽子さんから「文法学習に関する信念・態度・ストラテジーと学習成果」という題目で、暗示的帰納的指導を受けている学習者が文法学習に関してどのような信念を持ち、指導方法をどのように受け止め、どのような文法学習ストラテジーを用いているかを調査し、それらと学習成果との関連を検証した研究が報告されました。それによると、Ellis(1994)の個人差モデルが支持され、文法指導の方法と文法学習に関する信念とが一致しない場合は学習成果が上がりにくいこと、また信念・態度が学習ストラテジーの選択に影響を及ぼし、それがさらに学習成果に影響するなどのことが示されました。

 二つ目は、尹喜貞さんから「学習環境および日本語能力が韓国人学習者の授受補助動詞習得に及ぼす影響」という題目で、韓国人学習者を対象に授受補助動詞の習得に学習環境(JSLとJFL)と日本語能力が与える影響を調べる研究が報告されました。授受補助動詞の習得は、学習環境、日本語能力によって異なり、視点の習得が進むにつれて授受補助動詞の習得も進むことが明らかになりました。

 三つ目は、徳田恵さんから「読解において推測を伴う外的支援は付随的語彙学習を促進するか?−多肢選択語注と単一語注との比較−」という題目で、「多肢選択語注+即時FB」、「多肢選択語注−即時FB」、「単一語注」の三つの読解条件を設けて、読解を通して付随的に語彙学習する際にどちらの読解条件がより語彙学習を促進するかに関する調査結果が報告されました。推測後に意味が確定できる「多肢選択語注+即時FB」条件群で意味を与える単一語注群より語彙学習が進んでいなかったが、長期的に見ると単一語注群では認知的な負荷が少ないため学習した語彙は忘れやすいなどのことが示唆されました。

 三つの研究とも独自の観点から分析がなされ、大変興味深い発表でした。コメンテーターからの鋭いコメントを通して研究の内容や意義をさらに明確的に理解することができました。また、聴衆からも多くの質問が寄せられ、会場では活発な議論がなされました。

お茶の水女子大学国際日本学専攻  穆紅

 

 

  交流会  
 

    

上野田鶴子先生の古希記念論集出版を記念し、ささやかなお祝いをしました。
先生からのご挨拶、『赤とんぼ』の大合唱など、穏やかな時間でした。
最後はみんなが「我よ我よ」とサインと求め、長蛇に列に。
ひとりひとりにメッセージもいただきました。
「夢を抱きつつ前進なさってください」というメッセージ、しっかりと受け止めました。

お茶の水女子大学国際日本学専攻 原瑞穂

 
     

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