第46回 日本言語文化学研究会 2013年6月29日(土)

第1分科会報告 向山陽子

(司会:堀切友紀子、記録:向山陽子)

 

■「帰国経験のある日系ブラジル人三世・四世のブラジル滞在中の体験およびエスニックアイデンティティに対する認識」
日本で生まれた、あるいは幼少期に来日した日系ブラジル人三世・四世にとって、帰国経験がどのような意味を持つのかを探ることを目的とした研究である。半構造化インタビューを行い、分析した結果、帰国経験をすることでブラジル人としてのエスニックアイデンティティが強化される場合と、その反対に非ブラジル人であることや自分の中の日本人的な部分に気づく場合があることが明らかになった。フロアからは今後の課題として、帰国前の日本語能力やエスニックアイデンティティも含めて帰国経験の影響を考察したほうがいいというコメントがあった。

 

■「日本語における次元形容詞「厚・薄」の意味拡張について」
三次元形容詞である「厚・薄」の意味拡張のプロセスを、「日本語書き言葉均衡コーパス中納言」における用法の分析から明らかにしようとした研究である。「厚」「薄」は対立する概念ではあるが、それぞれの意味拡張の様相は非対称的であるという興味深い結果が示された。フロアから用法の分類を発表者だけで行っていることに対して、それだけでは不十分であり、第三者による分類の妥当性の確認が必要であるという研究方法に関する指摘があった。

 

■「日本企業に入社した外国人社員の認識とその際用・育成に当たる人事担当者の認識」
日本企業の外国人社員受け入れの問題点を明らかにすることを目的とした研究である。アジア人財資金構想のプログラムを同じように優秀な成績でプログラムを修了した学生でも就職後に順調に勤務する場合と困難に直面する場合がある。そこにはどのような背景要因があるのか、留学生と企業の人事担当者の両方にインタビュー調査を行い分析した。その結果、順調に勤務する学生には、キャリアパスが見える中小企業に勤務している、高度な業務を任されている、上司とのコミュニケーションがあるといった共通点が見いだされた。この結果から、必ずしも大手企業が留学生の活躍の場とならないことが示唆された。

   

 

第2分科会 半原芳子

(司会:トンプソン美恵子、記録:半原芳子)


第2分科会では、以下2件の発表が行なわれました。

◆「中国の日本語専攻大学生を対象とした内容重視の会話教育の試み−自分にとって切実な問題に取り組む会話活動のやり取りから−」(秦松梅 お茶の水女子大学)

本研究は、中国の会話教育のあり方を提案することを目的に、中国の会話授業で行なった、学生(自=分)にとって切実な問題を取り上げた内容重視の日本語教育で学生がどのような経験をしているかを明らかにしたものである。分析の主な資料は授業中のやりとりを文字化したものである。分析の結果、学生は自分達の現実を他者とのやりとりを通じて、概念化・言語化・発音化していることが明らかとなった。この結果を支えたものとして、話題:自分達の現実を取り上げたものであること、事前準備:母語による事前学習を行なっていたこと、グループワーク:協働による学習であったこと、日本語母語話者:日本語母語話者が参加していたことを考察し、中国の会話教育の発展に向けた具体的な示唆を得た。

フロアからの主な質問と発表者の回答
Q:事前準備とはどのようなものか。その時の言語は何語か。
A:内容はトピックに関する記事を読むことである。資料は母語と日本語の両言語を用意した。事前準備の目的は学生の既有知識を活性化することであり、暗記を目的としたものではない。

Q:学生(17人)はどのようなレベルか。
A:全員N2に合格している。一人N1を取得している。全員同じクラスで既知関係にある。

Q:初級の学生にどのように応用できるか。
A:これからの課題だと思っている。初級の会話授業は機能面を重視した学習がよく行なわれている。同じ学生でも、機能重視の会話教育におけるその学生の会話と、こうした授業におけるその学生の会話は質がかなり異なるのではないかと思っている。

 
◆「接触場面における意味伝達の問題の発生−問題の種類とL2学習者の習熟度との関係−」(方頴琳 お茶の水女子大学)

これまで接触場面で意味伝達に問題が生じた場合において、問題処理の方法の使用実態、およびストラテジーと学習者のL2習熟度の関係については研究がなされてきた。本研究では、対処法だけではなく実際の会話で生じる意味伝達の問題の実態を探り、その問題と学習者の習熟度の関係を明らかにする。分析資料は、中国人日本語学習者(20名)と日本語母語話者(10名)の二者間初対面会話の録音・録画データである。分析の結果、習熟度の向上に伴い、意味伝達の問題が減少する傾向にあることが分かった。そして、習熟度に関わらず、「発話産出の問題」が多く現れることが明らかとなった。今後の課題として、意味伝達以外の問題、具体的には語用論的問題に着目すること等を挙げた。

フロアからの主な質問と発表者の回答
Q:理解の問題と産出の問題はお互いに関わりがある場合もあると思うが、その場合はどのように分析したのか。
A:二つを一緒にせず一つ一つカウントする方法で分析を行なった。

Q:分析枠組みに、Dörnyei&Kormos(1998)が提唱した「問題処理のメカニズム」を参照しているが、問題処理のメカニズムとコミュニケーションストラテジーの関係はどのようなものか。
A:Dörnyei&Kormos(1998)では、問題処理メカニズムの枠組みとコミュニケーションストラテジーの対応関係を示している。※Dörnyei, Z. and Kormos, J.(1998)Problem-Solving Mechanisms in L2 communication. Studies in Second Language Acquisition, 20. 349-385

 

ポスター発表の様子