お茶の水女子大学
日本文化研究の国際的情報伝達スキルの育成
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大学院教育改革支援プログラム・ 比較日本学教育研究センター・女性リーダー育成プログラム 主催

平成21年度 第6回公開講演会

講演者   遠藤 織枝 先生
   (元・文教大学大学院教授)
テーマ   女性と文字―平仮名・ハングル・中国女文字―
日 時    2009年12月18日(金) 17:00~18:30
会 場    本学 共通講義棟3号館105室
備 考    図書館1階ロビー展示ケースにて、「中国女文字」資料展示が開催された。
   12月14日(月)~24日(木)
 「中国女文字(女書nu-shu)」とは中国湖南省江永県の女性たちによって伝えられてきた文字である。遠藤織枝先生は長年「中国女文字」を調査・研究され、貴重な資料を収集してこられた。この度、これらの資料を国会図書館に寄贈されるのに先立ち、本学図書館で特別展示「中国女文字」(12月15日~24日)が開催され、それにあわせて本プログラム主催の公開講演会でお話していただく機会を得た。学内外から41名もの参加者を集めた。

 講演会ではまず、おなじく女性と大きな関わりをもって作られ使われてきた、日本の平仮名と朝鮮のハングルについて、その成立過程と利用状態を概観された。ついで中国女文字が生みだされ伝播した湖南省江永県の地域性や風習について紹介された。この地域には女性たちが義理の姉妹関係「結交姉妹」を結ぶ習慣があり、遠くに嫁いでいった「結交姉妹」に思いを伝えるため、漢字をまねして独特の文字を作ったという。その他、嫁いで3日目に実家から届けられる「三朝書」や、結交姉妹の申出書・受諾書などにも女文字が使用された。漢字と比べて縦に細長く、「゜」が使われ、右上から下に向かって書かれる。20世紀初期には女文字を習い日常的に使う女性が少なくなかったが、解放以降は女性も漢字教育を受けられるようになったこともあり、現在では女文字の使い手はわずかに残されるのみとなった。会場では伝承者のひとりである陽煥宜が、95歳で亡くなる2週間前に女文字を書き記す貴重なビデオ映像が流された。また最後の伝承者と思われる何艶新は、子どものころ祖母から習い憶えたものの、学校で漢字を習うようになってから忘れていた。しかし聞き取り調査を受けている内に思い出し、急速に筆写能力を回復し、女文字で長文の自伝を書き綴るまでになったという。最後に平仮名・ハングル・中国女文字という3つの文字の共通点・相違点を比較検討され、女性たちがそれらの文字を使用してきた文化的意義を述べられた。

 そのあと質疑応答の時間が設けられたが、参加者から「結交姉妹の習慣はほかの地域にもあったのか?」「中国女文字はほかの少数民族文字のように、装飾文様として利用する動きはあるのか?書き言葉としては残らなくても、そのような形で残そうとはされていないのか?」「三朝書を持って行く人の立場について」「現地政府による中国女文字の保護状態、また観光資源としての活用の見通しについて」「漢字から女文字への変形過程について」「異体字の数について」など活発に質問がなされ、たいへん有意義な講演会となった。

【文責・野田 有紀子】
 




なお2009年12月15日~24日まで、図書館1階ロビーにて、中国女文字資料の特別展示が開催されました。


(2010/01/05up)