お茶の水女子大学
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平成21年度 第5回公開講演会

講演者   青山 友子 先生
   (オーストラリア・クィーンズランド大学 上級講師)
テーマ    よしながふみのマンガに見る〈食〉とジェンダー
日 時    2009年12月11日(金)17:00~18:30
会 場    本学 文教育学部1号館1階大会議室
司 会    菅 聡子 (本学教授)


 第5回公開講演会は、クイーンズランド大学の青山友子先生を講師に迎え、多くの学内外からの出席者の参会を得、活気のある時間を共有することとなった。青山先生は、本学英文科のご卒業で、現在はオーストラリアのクイーンズランド大学で、日本語・日本文学ならびに日本文化の教鞭をとっておられる。オーストラリアにおける日本学研究をリードする存在である。

 今回は、「よしながふみのマンガに見る〈食〉とジェンダー」というタイトルで、近現代日本文学に現れる〈食〉の表象を出発点に、現在、もっとも先鋭かつ魅力的にクィアを描き抜群の人気を得ている漫画家・よしながふみの『きのう何食べた?』を中心に、〈食〉の表象が現代日本社会のジェンダー・イシューを浮き彫りにするさまを論じられた。

 もちろん、参会者の多くがよしながふみファンであることは明らかだったか、しかしだからこそいっそう、参会者に新たな関心をもたらしたのは、講演の前半部でたどられた、近現代日本文学において、〈食〉を語る特権を与えられてきたのは男性である、という指摘であった。女性と料理、といえば、石垣りんの「私の前にある鍋とお釜と燃える火と」をすぐに思い出すが、青山先生によれば、文学作品において女が許されたのは〈ケ〉の料理、すなわち日常的な食事を供することであって、その場合においても、食べる行為においては女は後回しである。たしかに、石垣の詩がうたったのも、家族に日常の食事を供する女の〈ケ〉の労働への讃歌であった。対して、美食の言説、グルメの誇示は男の特権であって、〈食〉の表象をめぐっては明確なジェンダー配置がなされている。

 このような近現代日本文学の系譜とは異なって、よしながふみのマンガにおける〈食〉の表象においては、男(それもゲイ)による日常の料理というジェンダー区分の越境が幾重にも行われている。とくに『きのう何食べた?』では、ユーモラスな雰囲気のなかに、日本の現代社会に潜在するさまざまな深刻な問題(同性愛差別、DV問題など)がさりげなく描かれ、読者に思索の契機を与える。マンガのビジュアル面での分析を含め、ロラン・バルトからデボラ・ラプトンまで広範な資料を参照されての講演は、参会者の関心を大きくかつ深く進展させたと思われる。それを証するように、質疑応答の時間には、会場からの質問や意見があいつぎ、活発な討論がなされた。近現代日本文学への新しい視野を参会者が獲得したことがうかがわれる、有意義な公開講演会であった。

【文責:菅 聡子】





 
(2010/01/05up)