お茶の水女子大学
日本文化研究の国際的情報伝達スキルの育成
講演会報告一覧
大学院教育改革支援プログラム・ 比較日本学教育研究センター・女性リーダー育成プログラム 主催

平成21年度 第3回公開講演会

講演者   李 在鎬 先生
   国際交流基金 日本語試験センター 専門研究員
テーマ   コーパス日本語学講演会
  「コーパス分析と日本語(教育)研究、認知言語学」
日 時    2009年10月20日(火)13:20~16:30
会 場    本学 人間文化研究科棟5階SCS室
司 会    森山 新 (本学 比較日本学教育研究センター長)
 


 2009年10月20日、大学院教育改革支援プログラム・比較日本学教育研究センター・女性リーダー育成プログラムの主催で国際交流基金日本語試験センター専門研究員、李在鎬氏をお招きし、平成21年度第3回公開講演会「コーパス分析と日本語(教育)研究、認知言語学」が開催された。コーパス日本語学に関するもので、本学だけでなく他大学からも日本語学、日本語教育学を専攻する大学院生、研究生らが集まり、40名ほどが参加した。

 前半は言語研究とコーパス分析との関係、コーパス分析の考え方とその実践、コーパスを基盤とした研究の手順など、コーパス言語学の概観が紹介された。また後半には現在日本語コーパスや、その分析のためのツールにはどのようなものがあるかが紹介され、それらをどのように使うかについての指導があった。

 近年コンピュータやインターネットが飛躍的な普及と発展をなし、コーパス開発が急速に進んでいる。英語学、英語教育学などではかなり前からコーパスを用いた習得研究や辞書などの教材開発が行われてきたが、日本語学、日本語教育学でのコーパス利用に関しては、これまで日本語コーパスの開発・整備の立ち遅れが指摘され、習得研究や教材開発に十分生かすことができなかった。ところが最近、国立国語研究所が話し言葉、書き言葉のコーパスを開発するなど、様々なコーパスが登場している。モノローグを中心とする現代日本語の自然な話し言葉コーパスである「日本語話し言葉コーパス(Corpus of Spontaneous Japanese: CSJ)」は 662時間、およそ752万語分の音声が記録されており、音声を提供している話し言葉コーパスとしては世界最大規模のコーパスで、2004年に第1刷が2008年には第2刷が公開されている。また書き言葉コーパスでは「現代日本語書き言葉均衡コーパス (Balanced Corpus of Contemporary Japanese: BCCWJ)」の構築が2006年度から5年計画で進行中で、日本語ではこれまでにない1億語超規模の大規模均衡コーパスとなる予定である(現在、モニター用のデータが公開されている)。本講演会講師李在鎬氏が運営するサイト「コーパス日本語学のための情報館」(注)によれば、現在代表的な日本語コーパスは、書き言葉が9、話し言葉が6、ウェブデータが3、言語習得が2、辞書・シソーラスが6と26を数えるまでになっており、日本語コーパス開発も急成長を遂げている。こうしたコーパス開発は日本語学や日本語教育学の分野でも、データに基づいた実証的な研究を進めるにあたって非常に重要である。そのような理由から、講演会には多くの大学院生、研究生が集い、自身の研究に生かそうと熱心に耳を傾ける姿が見られた。感想には3時間では物足りなく、できれば授業を開講してほしいなどの意見が多く見られた。

 注)コーパス日本語学のための情報館 http://www30.atwiki.jp/corpus-ling/


【文責:森山新(お茶の水女子大学大学院・比較日本学教育研究センター長)】



(2009/10/23up)