お茶の水女子大学
日本文化研究の国際的情報伝達スキルの育成
講演会報告一覧
女性リーダー育成プログラム・大学院教育改革支援プログラム・ 比較日本学教育研究センター主催

平成20年度 第4回公開講演会

講演者   太田原 高昭 先生 (北海道大学名誉教授、北海道地域農業研究所所長)
テーマ   今、日本の食料を考える ―現場で何が起きているか―
日 時   2009年3月6日(金)16:00~18:00
会 場   本学 共通講義棟 2号館 1階 102号室
司 会   頼住 光子 (本学准教授)
 2009 年3 月6 日(金)、本学共通講義棟2号館1階102 号室にて、北海道大学名誉教授、北海道地域農業研究所所長の太田原高昭先生をお迎えして、「今、日本の食を考える― 現場で何が起きているか ―」というテーマで御講演をいただいた。

 太田原先生は、農業経済学をご専門とされ、農協や生協など共同組合の研究を行い、『北海道農業の思想像』『農業基本法下の北海道農業と農村』『農業経済学への招待』など多くの著書や論文を発表されている。また、理論研究と同時に、北海道の農業行政の最前線で長年活躍していらっしゃる。講演においては、それらの経験を踏まえて、日本の農業の現状と課題について、豊富な実例を挙げながら示唆的な話を伺うことができた。

 講演では、昨今のBSE, 汚染米、毒ギョウザ事件などが、グローバリズムや市場経済至上主義という構造の中で必然的に起こったものであることが指摘され、その中で、食の「安全・安心」をどう確保するのかということが重要になってきたとされる。この「安全・安信」の重視は、消費者像の転換とも関わる。現在、消費者像が、保護され専門家の意見に従うべき弱者から、権利をもった経済主体へと変換しつつあり、消費者の主観が重視されるようになってきた。つまり、消費者が安心感を持つことができるよう、説明する責任が生産者や流通業者にはあるのだ。

 このような全体的な方向性を前提として、農業県である北海道でどのように農作物の安全と安心を守っているのかということを、2005年に制定された「北海道食の安全・安心条例」に即してお話しいただいた。その条例に関連して、以下のような4つの重要なポイントが示された。

    ① 消費者目線の農政への転換(北海道スローフード宣言)
    ② 遺伝子組み換え作物への対処
    ③ 地産地消・環境適応型農業の推進
    ④ 食育の推進

 遺伝子組み換えに関連しては、推進派、反対派の両者の主張を中立的な立場から伺うことができた。また、これら両論を踏まえて北海道食の安全・安心委員会が出した結論(商業栽培事実上禁止、研究容認)や交雑防止策や栽培試験の実例も説得的なものであった。特に個人的に興味深かったのが、研究用の遺伝子組み換え植物をどんなに他の生産者の植物から離して植えても交雑率がほぼ0%にはなっても完全に0%にはならず、最後のところは消費者と生産者の信頼関係で認めてもらうしかないという話である。このような曖昧さは筆者が関心をよせる応用倫理学に必ず付きまとうもので、実際、現場でどのように問題の解決をはかっているのかを知ることができてたいへんに有益であった。また、食育推進の事例として示された北海道長沼町のグリーンツーリズムは、食育の見地から大都市の高校生の修学旅行を受け入れて農作業など共同生活をするもので、町おこしの事例としてもたいへんに興味深かった。

 以上簡単に述べた以外にも、講演では、ミニマム・アクセス、ポスト。ハーベスト、グリーン農業や有機農業の現状など多くを学ぶことができた。

 講演後の質疑においては、参加者から質問が寄せられ熱心な質疑が交わされた。また、講演会の結びとして、古瀬奈津子教授から、今回の講演会が、本学で進められている文理融合を目指す「食」に関する総合プロジェクトの一環として開催されたことなど講演会の趣旨説明が行われた。「食」プロジェクトとしても、また、今後の日本の「食」を多角的に考えるためにもたいへんに有益な講演会であった。

【文責・頼住光子】


























(2009/03/11up)