お茶の水女子大学
日本文化研究の国際的情報伝達スキルの育成
講演会報告一覧
比較日本学研究センター・大学院教育改革支援プログラム主催

平成19年度 第4回公開講演会

講演者 丁 珍娥 先生
現在、韓日歴史共同研究委員会・専門委員(韓国)。 2004年、お茶の水女子大学大学院博士後期課程修了。博士(人文科学)。 博士論文「日本古代国家における渡来系官人の地位 −五位以上帯位者の昇進形態を中心に−」。
日本古代における渡来人についての研究に取り組み、近年は東アジア交流史にも関心を広げている。 著作:「平安前期における渡来系官人の昇進―家柄との関係を中心に―」(『続日本紀研究』351号)など、韓国語・日本語の論文がある。
テーマ 韓国内での日本史研究の概況―前近代史を中心に―
日 時 2008年3月1日(土)午後4:00〜(発表1時間、質疑30分)
場 所 文教育学部1号館 8階 817室
司 会 古瀬奈津子(本学)


2008年3月1日(土)、比較日本学研究センター・大学院教育支援プログラム主催の公開講演会として、丁珍娥(ジョンジナ)氏「韓国内における日本史研究の概況―前近代史を中心にー」が開催された。

丁珍娥氏は、本学大学院出身で、2004年に博士(人文科学)を取得され、現在は韓国で韓日歴史共同研究委員会・専門委員をされている。博士論文は「日本古代国家における渡来系官人の地位 −五位以上帯位者の昇進形態を中心に−」で、日本古代における渡来人についての研究に取り組み、最近は東アジア交流史にも関心を広げておられる。 日本・韓国両国において論文を公表されている。

講演に際しては、まず、現在の勤務先であり、日韓の政府主導で行われている「韓日歴史共同研究」第2期について紹介があった。続いて、韓国内における日本史研究の概況について、古代・中世・近世史に関して、1.韓国内における日本史学界の歩み、2.日本史関連の主な雑誌、3.最近の学会の学術活動、4.日本前近代史における回顧と展望(2002年―2005年)、5.総括の順で話が進められた。

4.日本前近代史における回顧と展望では、韓国における日本古代史・中世史・近世史の論文を具体的にあげながら、日韓関係史から日本国内の歴史へと研究テーマが変化してきている近年の韓国における日本史学界の傾向について紹介された。

5.総括では、韓国内では日本史研究者が増加していること、日韓関係史以外の研究主題も増加してきているが、業績づくりのため、論文の質に問題があること、研究者による本格的な研究書が必要なこと、日本の研究者との情報交換の必要性、1回限りの国際学術大会より、韓日の研究者同士の共同研究が必要であることなどが指摘された。
当日は、日本古代史の院生・学部生、韓国からの留学生、教員では韓国に留学されていた森山新先生、前回の公開講演会にも出席された一般の方々も参加され、時間を延長して活発な質疑応答が繰り広げられた。

特に一般の方からは、近代における戦争を含む日韓関係史について質問が集中し、関心の高さを表していた。また、近年中世史の論文が増加していることに関連して、講演者からは、日本の鎌倉幕府の成立と時期を同じくして韓半島においても武人政権が登場するが、日本においては江戸幕府にいたるまで武士が政権を掌握したのに対し、韓半島では14世紀以降、朝鮮王朝においては儒教にもとづく文官政治へと転換することが指摘され、日韓の比較史の重要性が改めて認識できた。

また、日韓歴史共同研究と現在同時進行している日中歴史共同研究について、司会者から紹介があり、日韓と日中は別々に歴史共同研究が行われているが、今後は日韓中三国の関係を視野に入れた、研究者同士の共同研究が是非とも望まれることが述べられた。

今回は日頃日本の学界ではあまり知られていない韓国内における日本史研究について具体的に紹介していただき、大変有益な会となった。日本と韓国は古代から現代にいたるまで深い関係にあるが、近代の戦争をはさみ、克服していかなければならない課題も多い。今後、本学でも比較日本学研究センターなどにおいて共同研究を推進していきたい。
【文責 古瀬奈津子】
(2008/03/03up)