氏名 |
山崎 香緒里 |
修了年度 |
2014年度(2015年1月提出) |
修士論文題目 |
日本語母語話者と英語母語話者の基本動詞CUTの意味構造の違いについて −心理実験を用いた実証的研究− |
要旨(600字以内) |
本研究は、多義性を持つ基本動詞CUTを例に、日本語を母語とする英語学習者(JEL)と英語母語話者(ENS)の意味構造の違いを、多義語の意味が1つのカテゴリーを構成しているとする認知意味論の立場から考察し、語彙教育の一助となることを目的とする。本研究では意味全体を考察するため、外延、プロトタイプ、意味構造について調査した。 外延を受容性判断テストで調査した結果、JELは正文と非文両方について、母語(L1)でプロトタイプ性が高い意味を、L1プロトタイプ性の低い拡張義よりも高い割合で受容した。L1で翻訳が難しい場合は、目標言語(L2)のプロトタイプ性からの推論も行う傾向が見られた。 プロトタイプはプロトタイプ判断テストで調査した。プロトタイプはENSとJELで判断が一致し、Kellerman(1979)の、L1プロトタイプ性が高い意味で正の転移が起こりやすいという主張と一致する結果となった。 意味構造は、類似性判断テストで調査した。調査結果からENSの意味構造に関する瀬戸編(2007)の内省は大方適切であり、一部の拡張元の改変により、よりENSの使用に沿った記述になると考察し、図示した。その後JELの意味構造も図示し、両者を比較した。JELの意味構造は大まかにはENSと一致したが、下位分類になる程分類ができなかった。また、L1の意味構造の影響を受けたクラスタを形成していると思われる箇所も見られた。 JELは学習過程でL2の知識を得ていくが、それでは不十分な部分では、L1の知識を選択的に利用し、L1で補おうする傾向が覗えた。 |
要旨(1000字以内) |
本研究は、多義性を持つ基本動詞CUTを例に、日本語を母語とする英語学習者(JEL)と英語母語話者(ENS)の意味構造の違いを、多義語の意味が1つのカテゴリーを構成しているとする認知意味論の立場から考察し、語彙教育の一助となることを目的とする。 多義語研究を語彙教育に生かそうと思えば、「目標言語(L2)の多義語構造はどのようなものか」「学習者が多義語をどのように捉えており、それは母語話者の捉え方とどう異なるのか」といった研究は重要である(松田, 2004)。本研究では前者については、瀬戸編(2007)の内省分析を心理実験で検証し、これまであまり触れられてこなかった後者の問題についても検討した。この際、CUTの意味全体を考察するため、外延、プロトタイプ、意味構造について調査した。 外延については、受容性判断テストを実施した。その結果JELは、正文についても、非文についても、母語で(L1)プロトタイプ性が高い意味を、L1プロトタイプ性の低い拡張義よりも高い割合で受容し、L1プロトタイプ性が高い意味は正と負双方に転移が起こりやすいというTanaka&Abe(1985)と一致した。また、L1での翻訳が難しい場合には、L1の知識の利用ができず、L2のプロトタイプ性からの推論も行う傾向が見られ、Shirai(1995)と一致する結果となった。 プロトタイプについては、プロトタイプ判断テストを実施した。プロトタイプはENSとJELでどの語義をどの程度プロトタイプだと感じるかには両者で違いが出たものの、判断は一致した。Kellerman(1979)による、L1プロトタイプ性が高い意味では正の転移が起こりやすいという主張と一致する結果となった。 意味構造については、類似性判断テストを実施した。ENSの意味構造は瀬戸編(2007)の内省と調査結果から図示した。瀬戸編(2007)は大方適切であり、一部の語義の拡張元の改変により、よりENSの使用に沿った記述になると考察した。その後JELの意味構造を調査結果から図示し、両者を比較した。JELの意味構造は、大まかにはENSと一致した。しかし、明確な分類ができないことも多く、下位分類になる程細かい分類ができなかった。また、L1の意味構造から影響を受けてクラスタを形成していると思われる箇所も見受けられた。 このように学習者のILは、外延、プロトタイプ、意味構造において、母語話者のL2と違い、L1にも影響を受けて構成されていると考えられる。JELは学習過程でL2の知識を身に着けていく。しかし、それでは不十分な部分では、L1の知識を選択的に利用し、L1で補おうとしている傾向が覗えた。 |
最終更新日 2015年3月24日 |