氏名 

唐 琳

修了年度

2014年度(2015年1月提出)

修士論文題目

中国人日本語学習者の二字漢字熟語の聴覚、視覚処理過程−日中二言語間の非 同根語を対象に−

要旨

(600字以内)

 本研究の目的は、中国人日本語学習者(以下CJL)が日中二言語間の二字漢字の非同根語を処理する際、視覚的な処理ストラテジーと聴覚的な処理ストラテジーのどちらをより効率的に活用できるか、また、日中二言語間の音韻類似性がCJLの非同根語の処理にどのような影響を与えるか、さらに、上述の2つの問題の結果は習熟度により異なるかを明らかにすることであった。そのため、筆者はCJLを対象にして視覚呈示と聴覚呈示の意味判断課題を実施した。  その結果、CJLにおいて視覚的な処理ストラテジーをより速く行ったため、CJLの非同根語の処理では、音韻情報と意味の連結が弱い傾向がある。また、習熟度が上がるにつれて、CJLの非同根語の聴覚的な認知速度は視覚的な認知速度に近づいていくが、日本語の音韻を正確に意味と連結できるようになることは困難であると推察される。  音韻類似性の影響については、CJLが日中二言語間の音韻類似というようなL1とL2の言語距離が近い場合、L1からの正の転移が生じる。一方、音韻非類似の処理では、中国語音を経ず、日本語の音韻または日本語の形態から直接意味へアクセスすると推察される。また、CJLは習熟度が上がるにつれて、中国語音から意味へのアクセスが熟練になるが、習熟度が上がっても、日本語音から意味へのアクセスが困難であり、日本語音を意味と正確に連結することが難しいと言える。

要旨

(1000字以内)

 本研究の目的は、中国人日本語学習者(以下、CJLと省略)が日中二言語間の二字漢字の非同根語を処理する際、視覚的な処理ストラテジーと聴覚的な処理ストラテジーのどちらをより効率的に活用できるか、また、日中二言語間の音韻類似性の有無がCJLの非同根語の処理にどのような影響を与えるか、さらに、上述の2つの問題の結果は習熟度により異なるかを明らかにすることである。そのため、筆者は視覚呈示と聴覚呈示の意味判断課題を用い、新日本語能力試験のN1レベルのCJLとN2レベルのCJLに日中二言語間の非同根語(音韻類似と音韻非類似)が、その直前に呈示された定義文の意味に合致するかどうかを判断させることで、CJLの得意とするストラテジー、日中二言語間の音韻類似性の影響、日本語の習熟度の影響について検討した。  その結果、CJLは日中二言語の音韻類似性と日本語の習熟度に関わらず、聴覚的なストラテジーよりも視覚的な処理ストラテジーを速く行う傾向があることが明らかになった。したがって、CJLの非同根語の処理では、音韻情報と意味の連結が形態情報と意味の連結より弱い傾向があると考えられる。また、日本語の習熟度が上がるにつれて、CJLの非同根語の聴覚的な認知速度は視覚的な認知速度に近づいていくが、日本語の音韻を正確に意味と連結できるようになることは困難であると推察される。  音韻類似性の影響については、呈示法および日本語の習熟度に関わらず、日中二言語間が音韻類似の場合、つまり、L1とL2の言語距離が近い場合、L1からの正の転移が生じ、L2の単語処理が促進されることが明らかになった。一方、CJLが音韻非類似の非同根語を処理する場合、中国語音を媒介せず、直接日本語の音韻または形態から意味へアクセスすると推察される。また、CJLは習熟度が上がるにつれて、中国語音から意味へアクセスすることに熟練するようになるが、習熟度が上がっても、日本語音というL2の語彙表象から意味へアクセスすることは不得意であり、CJLにとって日本語音と意味を正確に連結させることは難しいと言える。したがって、日本語漢字語の音韻と意味の連結を強めるトレーニングが必要であると考えられる。

最終更新日 2015年3月24日