氏名 |
鐘 慧盈 |
修了年度 |
2014年度(2015年1月提出) |
修士論文題目 |
中国語を母語とする日本語学習者による 多義動詞「切る」の意味理解 ―L2のプロトタイプ性をめぐって― |
要旨(600字以内) |
認知心理学者Roschが提示した「プロトタイプ理論」によれば、あるカテゴリーの習得は、典型的なメンバー(プロトタイプ)から始まり、徐々に周辺的なメンバーへと拡張していくと言われている(Shirai1995、菅谷2002aなど)。本研究では、「プロトタイプ理論」(Rosch1973) の枠組みに基づき、中国語を母語とする日本語学習者(以下CJL)を対象とし、日本語多義動詞「切る」に対する意味理解が、「切る」のプロトタイプ性によって説明することができるかを明らかにすることを目的とし、検証を行った。 実験1で日本語母語話者(以下JNS)が認定した多義動詞「切る」の各意味のプロトタイプ性は何かを求め、次に実験2でCJLの多義動詞「切る」の各意味に対する受容度を求めた。最後にL2プロトタイプ性とCJLの受容度の相関関係を統計的手法で求めた。 その結果、プロトタイプ性と受容度の間には、比較的強い正の相関関係が見られた。つまり、多義動詞「切る」のある意味のプロトタイプ性が高ければ高いほど、その意味がCJLに受容されやすいと言える。CJLの「切る」に対する意味理解は「切る」の各意味のプロトタイプ性によって説明できると結論付けられる。プロトタイプ性の高い項目は、学習者に認知されやすいため、先に習得され、それに対して、プロトタイプ性の低い項目は、往々にして中心義と異なる意味への転用が起こるため、学習者はその拡張関係を把握しにくいと考えられる。故に、「切る」の周辺的意味は、中心的意味より習得が遅れることが分かった。 |
要旨(1000字以内) |
認知心理学者Roschが提示した「プロトタイプ理論」によれば、あるカテゴリーの習得は、典型的なメンバー(プロトタイプ)から始まり、徐々に周辺的なメンバーへと拡張していくと言われている(Shirai1995、菅谷2002aなど)。本研究では、「プロトタイプ理論」(Rosch1973) の枠組みに基づき、中国語を母語とする日本語学習者(以下CJL)を対象とし、日本語多義動詞「切る」に対する意味理解が、「切る」のプロトタイプ性によって説明することができるかを明らかにすることを目的とし、検証を行った。 実験1では、日本語母語話者(以下JNS)を対象にし、類似性判断試験を行い、「切る」の各意味のプロトタイプ性を求めた。プロトタイプ性の決定要因を考察した結果、プロトタイプ的意味と一致する項が多ければ多いほど、または構造上プロトタイプ的意味と近ければ近いほど、その意味のプロトタイプ性が高いと考えられる。 次に、実験2では、CJLを対象にし、「切る」の各意味の用例に関して受容性判断を求めた。実験1で得られたJNSが認定した「切る」の各意味のプロトタイプ性と、実験2で得られた学習者の「切る」の各意味に対する受容度の相関関係を統計的手法で算出した。その結果、プロトタイプ性と受容度の間には、比較的強い正の相関関係が見られた。故に、多義動詞「切る」のある意味のプロトタイプ性が高ければ高いほど、その意味がCJLに受容されやすいと言える。このように、CJLの「切る」に対する意味理解は、「切る」の各意味のプロトタイプ性によって説明することができると結論付けられる。母語話者に認知されやすい項目は、学習者にも認知されやすいため、プロトタイプ性の高い項目は、先に習得されると考えられる。それに対して、プロトタイプ性の低い項目は、往々にして中心義と異なる意味への転用が起こるため、学習者はその拡張関係を把握しにくいと考えられる。故に、「切る」の周辺的意味は、中心的意味より習得が遅れることが分かった。 以上の結論から、日本語教育の教材開発・語彙指導において、プロトタイプ情報を考慮し、学習者に意味間の拡張関係を説明する必要があると言える。本研究では検討できなかった産出の面と、母語からの影響については、今後の課題としておきたい。 |
最終更新日 2015年3月24日 |