氏名 |
凌 宇 |
修了年度 |
2014年度(2015年1月提出) |
修士論文題目 |
接触場面における中国人日本語学習者のほめと返答スタイル―日本語母語話者との比較を通して― |
要旨(600字以内) |
本研究は、中国人日本語学習者(以下、CL)と日本語母語話者(以下、JS)によるほめと返答の使用に焦点を当て分析した。データは20代初対面のJSとCLによる10組の二者会話である。ほめの定義は古川(2000)に従い、受け手と関わる対象をほめる場合の「対者ほめ」(以下、「対者」)とそうでない場合の「第三者ほめ」(以下、「第三者」)にわけ、「表現方法」「対象」「返答」の3つの観点から分析した。その結果、「表現方法」では、JSは評価語のみのほめが多いが、CLは独自の語彙や他の情報と組み合わせ、または評価語を用いず主観的な意見などを述べることが多い。「対象」の選択において、CLはJSより「第三者」が多い。また、「対者」では、JSは受け手本人を多くほめるが、CLは周辺的な関係のあるものへのほめも多い。「第三者」の場合、CLは客観的な物事へのほめが多く見られる。「返答」について、「対者」では、CLはJSより否定的な傾向になっているが、「第三者」では、JSより積極的に相手の意見を「肯定」し、会話を盛り上げて関係を維持する工夫が見られる。この結果から、「第三者ほめ」を取り入れた会話教育が必要であると考える。また、表現方法と対象の選択の違いから見られた異なる価値観について、CLに認識させる必要がある。そして、従来のほめに対して否定するような考え方を変えるべく、状況と場に応じた返答の仕方を習得させる必要があると考えられる。 |
要旨(1000字以内) |
本研究では、中国人日本語学習者(以下、CL)と日本語母語話者(以下、JS)によるほめと返答の使用実態に焦点を当て分析した。分析のデータは20代初対面のJSとCLがペアになる10組の二者会話である。ほめの定義は古川(2000)に従い、受け手と関わる対象をほめる「対者ほめ」(以下「対者」)と関わらない対象をほめる「第三者ほめ」(以下「第三者」)にわけ、ほめの「表現方法」「対象」及び「返答」の3つの観点から分析を行い、次のことが明らかになった。 まず、「表現方法」では、CLはJSより評価語のほかに、他の情報を付け加えたり、または評価語を用いず主観的な意見などを述べることが多い。そして、「対象」の選択において、CLはJSより「第三者」が多く見られた。さらに、「対者」の場合、JSは受け手と「切離せないもの」を非常に多くほめているのに対し、CLは受け手と「関わりの強い・弱い」ものへのほめも多い。一方、「第三者」の場合、JSに多い「ほめ手関係」の対象はCLの質問によって言及されることが多いが、CLの「無関係」や「一般」の対象は自ら持ち出す場合が多い。「対象と表現方法」の関連について、「対者」の場合、CLは特に「関わりの強い・弱い」ものに対して具体的な情報や意見を述べることが多い。それに対し、「第三者」の場合、特に「ほめ手関係」において、CLはJSと反対に評価語のみでほめることが多く、相手には未知な情報であるにもかかわらず、具体性が欠け、受け手に納得されにくい恐れがある。最後に「返答」について、「対者」の場合、CLはJSより否定的な傾向になっていることが分かる。「第三者」の場合、JSは意見をはっきり示さない「回避」を最も多用しているが、CLは「肯定」が最も多く、積極的に相手の意見に同意し、双方のポジティブ・フェイスを同時に満たし、会話を盛り上げて対人関係を維持していることが窺える。 この結果から、「第三者ほめ」の人間関係における重要性が確認され、ほめの会話教育に取り入れる必要があると考える。また、表現方法と対象の選択の違いから見られた異なる価値観について、CLに認識させる必要がある。そして、従来のほめに対して「否定」するような考え方を変えるべく、CLに状況と場に応じた返答の仕方を習得させる必要があると考えられる。 |
最終更新日 2015年3月24日 |