氏名 

大西 はんな

修了年度

2014年度(2015年1月提出)

修士論文題目

多義動詞「みる」の意味構造 ―心理実験によって内省分析を検証する―

要旨

(600字以内)

 日本語多義動詞「みる」の意味構造を明らかにすること目的に、内省によって意味分析を行い、さらに心理実験によって、内省分析の検証を試みた。  内省分析の結果、「みる」の意味は下位カテゴリーも含め13個に分類された。その結果から各語義に対して意味記述を行い、意味構造を図示した。  心理実験では、一般の日本語母語話者を対象に、プロトタイプ判断テストとカード分類法による類似性判断テストを行った。プロトタイプ判断テストの結果、半数以上の対象者が内省分析でプロトタイプとされていた用例を選び、内省分析の妥当性が検証された。カード分類法による類似性判断テストでは、得た結果を元に非類似性行列を作成、クラスタ分析を行った結果、10個のクラスタが形成され、うち5個が内省と一致し、内省の妥当性が検証された。プロトタイプと周辺的意味に関しても、更に詳細な分析を行った結果、内省とほぼ同様にクラスタを形成しており、内省の妥当性が概ね検証された。その他の一致しなかった語義に関しては、内省が妥当でなかったと言えるものと、実験自体に問題があったと考えられるものがあった。 本研究を通して、意味研究には内省分析だけでなく、心理実験による検証の必要性が改めて指摘されたと同時に、心理実験にもいくつかの難点があることがわかった。今後、さらにコーパスを使用しての分析が必要であると考えられるが、いかにしてコーパスを意味分析に応用するかが課題である。

要旨

(1000字以内)

 多義語は学習者にとって習得が難しい項目の一つとして挙げられるが、それぞれの語が持つ意味構造を学習者に明示することで理解が深まり、学習が促進されるのではないかと考える。本研究では日本語多義動詞「みる」に焦点を当て、その意味構造を明らかにすべく、内省による意味分析を行った。しかし、内省分析は一人、又は少数の研究者によって行われるため、客観性に欠け、その結果が他の話者の判断と共通する保証がない。そこで、本研究ではさらに心理実験を行い、内省分析の検証を行うことでより多くの母語話者に共通する意味構造を明らかにした。  内省分析では、『大辞林第三版』に掲載されている44の例文を研究者自身で意味分類を行った結果、「みる」の意味は下位カテゴリーもて13の語義に分類された。その結果からそれぞれの語義に対して意味記述を行い、意味構造を図示した。  心理実験ではまず、一般の日本語母語話者を対象に、プロトタイプ判断テストを行った。その結果、半数以上の対象者が内省分析においてもプロトタイプとされていた用例を選び、その他に選ばれた用例もプロトタイプの下位カテゴリーに属するとされていたものであったことから、プロトタイプに関しては内省分析の結果が他の母語話者とも共通して言えることが検証された。 次に、同対象者にカード分類法による類似性判断テストを行い、その結果を元に非類似性行列を作成し、クラスタ分析を行った。その結果、10個のクラスタが形成され、うち5個のクラスタは内省と一致し、内省分析の妥当性が検証された。また、内省で3つに分けられていたプロトタイプと下位カテゴリーに関しても、全体のクラスタ分析では一つのクラスタにまとまっていたものの、更なる詳細な分析を行った結果、内省とほぼ同様に分類されクラスタを形成しており、内省の妥当性検証された。その他の一致しなかった語義に関しては、内省が妥当でなかったと言えるものもあったが、中には実験で使用した用例に問題があったのではないかと考えられるものもあった。 本研究を通して、意味分析を行う際、内省分析だけでは十分と言えず、心理実験による検証の必要性が改めて指摘されたと同時に、心理実験にもいくつかの難点があることがわかった。コーパス分析を行うことでさらに意味分析の精度を高めることが可能であると考えられるが、コーパスをいかにして意味分析に応用するか、その手法の提案と確立が今後の課題である。

最終更新日 2015年3月24日